最強の魔法使いに転生したけど

緑窓六角祭

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[13] 策

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 偽人の殲滅に来てそれが済んだと思ったら、集落1つ飲み込む泥の海。拡大はしているもののその速度は遅く、逃げるだけなら難しくない。
 ぱっと思いつくのは私がとにかく大魔力でもって封じ込めること。やってやれなくはないけどそれやると確実にりっちゃんに私が規格外なのばれる。それやるくらいなら私は逃亡することを選択したい。
 りっちゃんは私のことを普通より少し魔力容量が多いと考えてる。だから魔力を使うとしてもその範囲内で。あとりっちゃんの力も借りていいだろう。それらの制約ありで対処できないものか。

 この現象を引き起こしてるのはアシュリーさんのターゲットの禁術遣いであると考えていい。が現状を鑑みるにもとよりこちらが本命だった可能性が高い。
 偽人を殲滅しに来た冒険者を巻き込んでの大規模魔法の発動。
 自分で言うのもなんだけど禁術遣いの討伐についてくるぐらいだからそこその使い手がやってくるはず。万一対処を間違えてそれを取り込めれば大成功といったところか。
 肝心の禁術遣い本人はかなり弱体化してるはず。こんな広域魔法展開しといて消耗なしはありえない。まあ私という例外はあるがそれは例外だから考えないとして。
 つまりはアシュリーさんは当初考えてたよりも早くこっちに到着するかもしれない。多分、希望的観測ではないはず。気づけば急いで来てくれる、と思う。
 それまでの間、拡大を止める、あるいは遅らせることができれば、新米冒険者のやることにしては十分すぎるほどだろう。

 ひとつ思いついた。不安は残るができるかどうかはやってみればわかることだ。
「りっちゃん、逆に水分飛ばすのってできる?」
「できる――けど飛ばしてもすぐにまた吸収される」
「だいじょうぶ。私が上昇気流つくって空に流すから」

 連鎖氷結の逆、いわゆる連鎖乾燥。もうちょいかっこいい名前を付けたいがそんなこと考えてる時間はない。また別の機会に考えよう。
 りっちゃんは術式の必要な分だけ書き換えて青い球を泥の海へと放つ。要は液体を固体にするか気体にするかだからその変更は不可能ではない。普通1日ぐらいかかるけど。
 私は私で泥の海の全体を覆うように上向きの風を発生させる。強さは微弱で構わない。それで用は足りる。一般的な魔力容量の限界がそのあたりというのもある。

 一応考えてた通りに発動してるはず。即効性はない。じわじわと泥からそれを構成する水を奪っていく。依然として泥は勢力範囲を広げている。
 その拡大によっても水を取り込んでいるのだろう。だから私たちの魔法による水分の減少が、取得を上回るなら、理論的には泥の拡大は止まる。止まらなくてもアシュリーさんが来るまで遅延できればそれでいい。
 丘の上から眺める。することはない。あとは勝手に魔法がどうにかしてくれるのを期待するだけ。もしもの場合に備えて逃げる選択肢を頭の片隅に置いておく。

 10分後。拡大速度が低下した、気がする。前は10秒1Mだったのが、今は10秒0.9Mぐらいに見える。もともとそのぐらいの振れ幅はあるかもしれないし、遠くからの目視しかしてないから確かなことは言えないが。
 さらに10分後。明らかに速度低下を起こしている。だいたい10秒で0.5M。つまりは私たちの目論見通りに魔法は働いているということだ。
 さらにさらに10分後。進行を止めることはできなかったが最初の10分の1、10秒で0.1Mぐらいにまで抑制することができた。よくやった、ナイス私たち。座り込んだまま私とりっちゃんは互いにたたえ合った。

 アシュリーさんが着いたのは泥発生から1時間後のことだった。それでもかなり急いで来てくれたのだろう、息せき切って慌てた様子で現れた。
 私の読み通りで禁術遣いは自らをおとりにしてこの大規模魔法で広い範囲に被害を及ぼすことを目的としていたらしい。そのことに気づいたアシュリーさんは速攻で禁術遣いを始末してこちらに来てくれたという。いい人だ。
 まあこっちはこっちでわりとなんとかなってたわけだけど。
 その事実に驚かれつつとどめはきっちりアシュリーさんに刺してもらう。火炎魔法で一帯を丸ごと焼き払ったのはなかなか壮観だった。それにしても禁術遣いと一戦かましてなおこれだけの出力とは多分効率化の次元が違うんだろう、要勉強。

 無事に依頼を終えて帰還する。
 戻って早々店でたむろしてる冒険者に決闘挑んでるりっちゃんはさすがにどうかしてると思った。私だってスタミナは残ってるけどどっと気疲れしてそれどころでなかった。
 今回の件、アシュリーさんは私たちの取り分に色を付けてくれたし、かなり役に立ってくれたと報告してくれたという。私たちの実績になった、というほどではないが、新米冒険者よりは1歩か2歩先に進んで、周りの見る目も変わってきたように思える。
 といってもまだまだこれから。私たちの冒険者生活は始まったばかりだ。
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