最強の魔法使いに転生したけど

緑窓六角祭

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[12] 変化

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 魔法には魔法なりの理屈がある。
 いわゆる自然科学に従う部分もあるにはある。ものがよく燃えるには酸素があった方がいいし、塩をまぜたら少しだけ凍らせるのに手間がかかるとか。
 けれども理屈の大部分は魔法独自のものだ。自然科学に従わない。
 私は周りの人間より自然科学について知っているという意味で有利ではあるが、一方でそれにとらわれすぎるという意味で不利でもあったりする。

 想像力。
 なんとなくそうなるはずだという夢を見る力。魔法を組み立てる上で重要になってくるのはそれだ。ノリと勢いと言ってしまっても構わないだろう。
 魔法にはわりとそういうところがある。そしてその自由な発想というのはりっちゃんの得意分野で、近くで見てても説明されても私にはよくわかんなかったりする。
 ただそれでも成り立ってるのは何か魔法の本質のようなもの? をりっちゃんが掴んでるからだと思う。ちょっと難しい。

 りっちゃんは丘のてっぺんに立つと手のひらから青い球体を放った。野球ボールぐらいの大きさ。弾速は遅い。ふよふよと不安定に揺れながら偽人の群れに向かって飛んでいく。
 見てわかるのはオリジナル魔法だということ。属性的にはりっちゃん得意の氷で今日のための特別製。ここに来てはじめて思いついた可能性もある。りっちゃんは私に輪をかけて適当だ。
 青い球は最後ぽとりと落ちて偽人のうち1体にぶつかった。はじけて消える。それ以上何も起こらない。
 失敗かな? と思ったけれどりっちゃんに慌てた様子はない。にやにやしながら偽人たちを見下ろしている。弾速もそうだったけどゆっくり展開するタイプらしい。普通の戦闘では使い道なさそう。
 私も横に立ってのんびり眺めることにした。

 あたかたかい日差し、ゆるやかに雲は流れていく。森の中にぽっかり開いた集落、広場には老若男女が集う。なんて牧歌的な風景なんだろう、彼らが偽人でなければ。
 動きが少なくなっていることに気づいた。
 もとより彼らの動作は緩慢で変化に乏しいものではあったが、それが今はほとんどゼロになっている。まったく動いてない個体もいれば、動いてはいるものの相当に不自由そうな個体もいる。それら不自由そうな個体も徐々に動きを小さくしている。

 りっちゃんの方に視線を移せば、びしっと親指を立てながら言った。
「名付けて連鎖氷結。触れたものから凍結は広がる。その体の自由を完全に奪い取る。どうすごいでしょ?」
 すごい。というか意味がよくわかんない。私ではなんでそうなるのか上手く説明しきれない。多分、りっちゃんに聞いてもまともな答えは返ってこないだろう。
 結果は出ているのでよしとする。

 これで仕事は終わり。偽人たちは完全に静止している。りっちゃんによれば何もしない場合だいたい3日ぐらいはこの状態が保たれるとのこと。
 禁術遣いの方が片付いたらアシュリーさんがこっちに来ることになっている。その時、気になるようならまとめて焼き払ってもらえばいい。
 やることやって後は待つだけ。暇だったからざっくり村の中を探査してみたけど偽人は残っていない。まーじでやることがない。
 たまにはりっちゃんと外でのんびり過ごすのもいいか、すぐそこに偽人の群れがいるけどそれはそれとして。

「スー!」
 不意にりっちゃんが私の名を呼ぶ。鋭い響き。緊張の色が混じる。
 私も一瞬だけ感じた。魔力の揺らぎ。何かの術式が近くで発動しようとしている?
 目を凝らす。集落全体をすっぽり覆う程の広域の魔法陣が展開している。綺麗に隠匿されてた。多分禁術遣いの仕業。かなりの使い手と認めざるを得ない。
 どうも何かやばいっぽい。すでに発動寸前で潰せる段階でない。完成する。魔力の高まり。赤い光が地面からたち昇った。

 融ける。偽人たちの止まっていた時間が動きだす。
 といっても彼らが再び活動を開始するわけではない。人間としての形すら失っていく。皮も肉も骨も一様に融けだして不定形の泥となって地面に落ちる。
 偽人だけではない。その範囲に含まれる木や草の植物も、塀や家の建造物も何もかもが融けて泥へと変わる。発動からわずか1分もたたないうちに、私たちの立つ丘の下、集落一帯は泥の海と化していた。

 煮え立つ泥。時折ぽこぽこと表面に泡のようなものが浮かび上がっては消える。
 問題なのはそれがゆっくりとではあるが着実にその勢力範囲を広げていること。接する外縁の部分を泥へと変えて徐々に拡大している。
「一応聞くけど、さっきの連鎖氷結きかないかな?」
「うーん、多分、無理っぽい。向こうは高熱系だから相性よくない」
「そっかー。ちょーっとばかりまずいかもね」

 私たち2人が逃げるのは難しくない。拡大しているといってもせいぜい10秒に1Mほどだ。けれども私たちが逃げて助けを呼んで戻ってきてる間も泥海は広がりつづける。
 対応が遅れれば遅れるほど被害範囲は大きくなる。私たちがここでなんとかしなければ大規模災害に発展する恐れすらある。どうにかできるものならどうにかしたい。
 本当にどうしたもんだろうか? 蠢く泥を眺めながら私は私にできる範囲のことを考えた。
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