最強の魔法使いに転生したけど

緑窓六角祭

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[11] 作戦

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 いつも通りの薬草採取の格好で私たちは街を出る。食料テントその他の旅の用意はアシュリーさんが用意してたものを途中で回収する手はず。
 なるべく私たちが手伝ってることを知られたくないというのがアシュリーさんの考え。いっしょに出発するなんてのはもってのほか。街を出た後も接触することはほぼないと考えていい。つまりは冒険者の店で打診された時にすでに打ち合わせは全部すんでいる。

 具体的に偽人をどう始末するのかは私たち次第。希望としては派手にやってくれた方が助かるがともかく殲滅、それができなくとも大多数を足止めできれば問題ないとのこと。
 私はそのやり方についてりっちゃんに丸投げした。
 目的地に到着するまでに何か思いつけばよし、思いつかなくてもどうとでもフォローはできる。まあ私があれこれ思案するよりりっちゃんがやった方が奇抜で型破りになるだろうという考えもあった。

 つい1か月前のことを思い出す。
 私たちは冒険者になるべく生まれ育った場所を飛び出し街道を歩いていた。それがわずか1か月で今度は偽人を倒しに別の街道になるけど歩いている。結構ジャンプアップしてると思う。
 いやほんの昨日まで薬草採集の日々だったんだから、一晩の間にその跳躍は発生したことになる。これだいじょうぶなやつかな、ちょっと心配になる。大きすぎる変化はだいたいひずみを伴うものだ。
 確固たる根拠のある話でもないから、ひとまずこの波に乗ってくことにするけど。

 件の集落から1日ほど離れたところにある宿屋で最終確認。
 別で動いてたアシュリーさんを食堂で発見する。もちろん可能な限り接触は避ける。このことはちゃんとりっちゃんにも言い含めておいたのでだいじょうぶ。このときアシュリーさんが赤いリボンをつけてれば作戦は決行、青いリボンをつけてれば中止。
 赤。事前の打ち合わせ通りの日時に私たちはそれぞれするべき仕事をする。

 さすがに前日なんでりっちゃんにどうやって偽人を殲滅するつもりか聞いてみた。
 秘密とにっこり笑って言われた。かわいいので許す。これが他の人間相手なら仕事なんだからちゃんとしろって言うところだ。でもりっちゃんだから許す。
 りっちゃんの魔法の扱いを信用してるというのもある。あと重ねて言うけど最悪何にも考えがなかったとしても私が物量でなんとかできるので。

 作戦当日、天気は晴れ。空には雲が1つ2つ浮いているが雨は降りそうにない。
 アシュリーさんは得意な属性的に雨の日は不利だから、ちゃんとのそのあたり考えて今日を選んだのだろう。そしてその思惑通りにきちんと晴れている。
 私たちは集落を見下ろせる小高い丘の上にのぼった。煙は見えない。静かなものだ。村全体が死んでいる。ちらりと風を動かしてみればかすかに腐臭が混じる。確かにここだ。

 偽人といっても元は人だ。自分らの意志と関係なしに変化させられた。元に戻すことはできない。少なくとも私はその手段を知らない。
 であればそれを滅するにためらいはない。いやほんとはためらいはあるけど、数日歩いてるうちに切り捨てた。切り捨てられる程度のものだったとも言える。
 私はここで生まれ育った。前世の記憶が残ってたとしてもそれは記憶だけだ。人格そのものは引き継いでない。人格というものがあるかどうか定かじゃないけど。
 つまりは数十年分の記憶があって影響は受けているけれども、結局のところ根本はこの世界の人間であって、価値判断はその標準に近しいということだ。

「それでどうするの?」
 りっちゃんに問いかける。さすがにこの期に及んで秘密は困るなと思いつつ。
「スーはなんとかして偽人集めて。あのあたりがいい」
 丘の斜め下あたりを指さす。村の近く、木は切り倒されてちょっとした広場になっている。
「りょーかい」
 何をするかいまだにわからないが、自分のすることだけわかってれば十分だ。

 さてどうしたものか?
 私は私で特に何も考えてない。なんというか規格外の力を持ってることに気づいたころから徐々に思考が雑になってきた。なんだかんだどうにかなるというのがよくない。
 過程を重視せず結果で無理矢理帳尻を合わせようとする。
 よくないのかな、多分よくないのだろう。といっても今それを真剣に考えてもしょうがない。目の前の仕事を片付けることを優先すべき。

 偽人の誘導。2つの方法を組み合わせてやってこう。やってみてうまく行かないようなら微調整ということで。これは雑なのではなく臨機応変というやつなので問題ない。
 まず私たち人間の匂いを村全体に漂わせる。偽人は人間に襲いかかる性質がある。その匂いに敏感だ。そういうわけで私たちそのものがおびき寄せるえさとしてちょうどいい。
 次に偽人たちがわき道にそれないように風の壁を作る。名付けて風障。全力で通り抜けようとすれば通り抜けられなくはない壁。けれども意志のない偽人ならあえて逆らうこともないだろう。
 この2段階で偽人らを丘の下の広場まで導く。

 上手くいった。私もなかなか成長している。足元には数十体の偽人がわらわらとたむろす。あーだのうーだの意味のない言葉をわめいている。
 私はりっちゃんに呼びかけた。「あとはよろしく」
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