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[10] 手伝い
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年上で身長がすらりと高くてかっこいいタイプで長い髪を後ろでしばった、うちの店で一番強い冒険者のアシュリーさんは、私たちの座ってる丸テーブルにつくとそんなことを言った。細かいことを言えば、私とりっちゃんは向かい合わせに座っていて、私の右側でりっちゃんの左側のあたりにアシュリーさんは座った。
仕事を手伝ってほしいという話。
低くよく響く声で完全に私にだけ向けて話しかけてくる。りっちゃんの方は見ていない。まあそれで正解なんだけど、りっちゃん今ご飯に夢中で話ろくに聞いてないから。それとどういう仕事受けるか受けないか決めてるのは私だってことこの店の人なら知ってて当然だ。
手伝いかー。
私は少しばかり考える。アシュリーさんが持ってきた話なら悪いことはないだろう。この店に所属して1か月ばかりでしかないが彼女についていい噂しか聞いたことがない。無理難題を吹っ掛けて新人を潰そうとしてるだとか搾取しようとしてるだとか、そういう心配はしなくてよさそうだ。
どちらかと言えば受けてもいい気分。目下の懸念事項と合わせて考えれば具体的に何をやるのかというところが大事になってくる。
単刀直入に私は尋ねることにした。
「それって荒事ありますか?」
「そうだね。君たちにはひと暴れしてもらおうと思ってるよ」
「わかりました。そういうことならその仕事、受けさせていただきます」
目下の懸念事項とはつまり最近薬草採取ばかりでりっちゃんのストレスがたまってる問題だった。概念決闘で日々いくらか緩和されるものの、やっぱり実際に体を動かさないとどうもむずむずしてくるらしい。私は全然そんなことない。
アシュリーさんは私の答えに左の眉毛をかすかに動かす。
「少し驚いたよ。リッカくんだけでなく君もわりと血の気が多いほうなんだね」
どうやら彼女は私もそういうのが好きだと思ったらしい。いやほとんどりっちゃんのために受けた仕事なんだけどいいや。わざわざ訂正する話でもないので放っておく。
「でもまあ来て早々、その場にいた全員の力量測ってたのは君の方だったか」
独り言みたいにアシュリーさんはそうつづけた。
なんだそればれてたんだ。こっちもそれなりに偽装してたのに、やっぱり格上相手には隠しきれなかったか。あれから私も日々成長している。いくつか小手先の技術も身につけた。次やる時はもっとうまくやることにしよう。
ここから5日ほど東に歩いて兎荷の森を抜けたところにある村で偽人が大量発生したらしい。
偽人、人の形をした人でないもの、簡単に言えばゾンビ。この世界では埋葬の仕方が悪いと自然にそうなったりもする。けれども大量に発生したとなれば話は違ってくる。裏で禁術遣いが動いている可能性が高い。
アシュリーさんが受けた依頼は禁術遣いの捕縛または殺害。
偽人についてはできれば殲滅して欲しいが優先度は高くない。そもそも偽人は自然発生するので1人や2人ぐらいなら普通の人にも対処できる。数さえ減らしておいてくれたらそれで十分なんだそうだ
禁術は別に偽人造りに限らない。あまりに人道を外れた魔法はまとめてその名で呼ばれている。
該当するものは多数存在するらしいが具体的な数すら明らかでない。国家を横断した組織によってそれらは絶対封印指定を受けており、その実行者、禁術遣いに対しては容赦ない抹消が認められる。私はこれまでの人生で彼らに遭遇したことはない。
ちなみに禁術遣いの殺害指令が受けられること自体が高位の冒険者の証明だったりする。アシュリーさんはこの店のトップどころでなく、この都市の上位数人に入る使い手だとわかる。
禁術遣い無力化のための作戦はいたってシンプル。
別動隊が偽人相手に大暴れしている間に、アシュリーさん自身が禁術遣いを見つけ出すというもの。禁術遣いは偽人群衆をコントロールするため近くにいると相場が決まっている。偽人潰してても出てこないようなら近くにいないと考えていいぐらい。
で私たちはその別動隊をまかされることになった。なんともわかりやすく大暴れできる仕事。渡りに船。りっちゃんのストレス解消にぴったり。
報酬もいい。薬草採取するより稼げる。別に薬草採取で食ってけないことはないし、そんなに金が必要だってこともないけど、あっても困らない、ありすぎたら困るが、多少の余裕はあったがいい。
「えっと私が頼んでおいてなんだけど要するにおとりで危険な仕事なんだけどそんなあっさり引き受けてしまっていいの?」
「だいじょうぶですよ、アシュリーさんのことは信頼してますし」
「ありがとう」
「それに裏切られたと感じたらなりふり構わず逃げますから」
「結構したたかね」
アシュリーさんは高確率で禁術遣いと戦闘になる。その際、私たちが離脱して偽人の群れが自由になれば、窮地に追い込まれるのは彼女の方になる。
つまりはアシュリーさんの方でも私たちのことをそれなりに信頼してくれてるというわけだ。そんなに長いつきあいでもないのに。まあこれまで誠実に仕事してきたし、裏切る予定もないけどね。
そもそも最悪、私1人でも広範囲攻撃かませばだいたいのことどうにかなるだから、アシュリーさん関係なしに安全はほぼ確保されてると言っていい。
打ち合わせがすんでアシュリーさんが去っていってようやく、りっちゃんはご飯を食べ終えて顔を上げる。もちろん全然話は聞いてなくて簡単に説明したら大喜びで賛成してくれた。そろそろりっちゃん爆発しそうだなという私の読みはどうやら正解だったようだ。
出発は明日ということでその日は概念決闘もせずに早めに寝た。
仕事を手伝ってほしいという話。
低くよく響く声で完全に私にだけ向けて話しかけてくる。りっちゃんの方は見ていない。まあそれで正解なんだけど、りっちゃん今ご飯に夢中で話ろくに聞いてないから。それとどういう仕事受けるか受けないか決めてるのは私だってことこの店の人なら知ってて当然だ。
手伝いかー。
私は少しばかり考える。アシュリーさんが持ってきた話なら悪いことはないだろう。この店に所属して1か月ばかりでしかないが彼女についていい噂しか聞いたことがない。無理難題を吹っ掛けて新人を潰そうとしてるだとか搾取しようとしてるだとか、そういう心配はしなくてよさそうだ。
どちらかと言えば受けてもいい気分。目下の懸念事項と合わせて考えれば具体的に何をやるのかというところが大事になってくる。
単刀直入に私は尋ねることにした。
「それって荒事ありますか?」
「そうだね。君たちにはひと暴れしてもらおうと思ってるよ」
「わかりました。そういうことならその仕事、受けさせていただきます」
目下の懸念事項とはつまり最近薬草採取ばかりでりっちゃんのストレスがたまってる問題だった。概念決闘で日々いくらか緩和されるものの、やっぱり実際に体を動かさないとどうもむずむずしてくるらしい。私は全然そんなことない。
アシュリーさんは私の答えに左の眉毛をかすかに動かす。
「少し驚いたよ。リッカくんだけでなく君もわりと血の気が多いほうなんだね」
どうやら彼女は私もそういうのが好きだと思ったらしい。いやほとんどりっちゃんのために受けた仕事なんだけどいいや。わざわざ訂正する話でもないので放っておく。
「でもまあ来て早々、その場にいた全員の力量測ってたのは君の方だったか」
独り言みたいにアシュリーさんはそうつづけた。
なんだそればれてたんだ。こっちもそれなりに偽装してたのに、やっぱり格上相手には隠しきれなかったか。あれから私も日々成長している。いくつか小手先の技術も身につけた。次やる時はもっとうまくやることにしよう。
ここから5日ほど東に歩いて兎荷の森を抜けたところにある村で偽人が大量発生したらしい。
偽人、人の形をした人でないもの、簡単に言えばゾンビ。この世界では埋葬の仕方が悪いと自然にそうなったりもする。けれども大量に発生したとなれば話は違ってくる。裏で禁術遣いが動いている可能性が高い。
アシュリーさんが受けた依頼は禁術遣いの捕縛または殺害。
偽人についてはできれば殲滅して欲しいが優先度は高くない。そもそも偽人は自然発生するので1人や2人ぐらいなら普通の人にも対処できる。数さえ減らしておいてくれたらそれで十分なんだそうだ
禁術は別に偽人造りに限らない。あまりに人道を外れた魔法はまとめてその名で呼ばれている。
該当するものは多数存在するらしいが具体的な数すら明らかでない。国家を横断した組織によってそれらは絶対封印指定を受けており、その実行者、禁術遣いに対しては容赦ない抹消が認められる。私はこれまでの人生で彼らに遭遇したことはない。
ちなみに禁術遣いの殺害指令が受けられること自体が高位の冒険者の証明だったりする。アシュリーさんはこの店のトップどころでなく、この都市の上位数人に入る使い手だとわかる。
禁術遣い無力化のための作戦はいたってシンプル。
別動隊が偽人相手に大暴れしている間に、アシュリーさん自身が禁術遣いを見つけ出すというもの。禁術遣いは偽人群衆をコントロールするため近くにいると相場が決まっている。偽人潰してても出てこないようなら近くにいないと考えていいぐらい。
で私たちはその別動隊をまかされることになった。なんともわかりやすく大暴れできる仕事。渡りに船。りっちゃんのストレス解消にぴったり。
報酬もいい。薬草採取するより稼げる。別に薬草採取で食ってけないことはないし、そんなに金が必要だってこともないけど、あっても困らない、ありすぎたら困るが、多少の余裕はあったがいい。
「えっと私が頼んでおいてなんだけど要するにおとりで危険な仕事なんだけどそんなあっさり引き受けてしまっていいの?」
「だいじょうぶですよ、アシュリーさんのことは信頼してますし」
「ありがとう」
「それに裏切られたと感じたらなりふり構わず逃げますから」
「結構したたかね」
アシュリーさんは高確率で禁術遣いと戦闘になる。その際、私たちが離脱して偽人の群れが自由になれば、窮地に追い込まれるのは彼女の方になる。
つまりはアシュリーさんの方でも私たちのことをそれなりに信頼してくれてるというわけだ。そんなに長いつきあいでもないのに。まあこれまで誠実に仕事してきたし、裏切る予定もないけどね。
そもそも最悪、私1人でも広範囲攻撃かませばだいたいのことどうにかなるだから、アシュリーさん関係なしに安全はほぼ確保されてると言っていい。
打ち合わせがすんでアシュリーさんが去っていってようやく、りっちゃんはご飯を食べ終えて顔を上げる。もちろん全然話は聞いてなくて簡単に説明したら大喜びで賛成してくれた。そろそろりっちゃん爆発しそうだなという私の読みはどうやら正解だったようだ。
出発は明日ということでその日は概念決闘もせずに早めに寝た。
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