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[8] 都会
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「この店で一番強いやつはだれだー!」
冒険者の店の扉を乱暴に開けるなり、りっちゃんはそう大声で叫んだ。
どうしてこうなった?
生まれ育った街を飛び出し、このあたりで一番大きな都市へと私たちは向かった。
街道に沿って歩いていけば何のトラブルもなしにたどり着く。治安はそんなに悪くないようで、まあ冒険者を始めるには悪くないと思った。
院長先生が昔の伝手だと言って紹介状を渡してくれて、いったいどういう伝手なんだとは思ったが、ともかくそこを頼ることにした。
問題なくその店も見つかったところでりっちゃんが走り出してさっきのセリフに至る。
りっちゃんとは付き合い長いけどこの展開は私もちょっと予想してなかった。
店の中には冒険者らしくひと癖もふた癖もある方々がわんさかいて、突然の闖入者に驚きあきれているといったところ。
ひょっとしてまずいかも?
場合によっては生意気なガキだと袋叩きにされるかもしれない。
まだ昼間だというのにざっと見たところ20人ぐらいがたむろっている。一対多の戦闘経験は皆無。
とにかく物量で押し切ればなんとかなるだろうか? なんとかなりそうな気がする。やったことはないけど。
最悪人死にがでるかもしれないがまあそこは勘弁してほしい。
とりあえず自分とりっちゃんの安全は確保できそうなので私は緊張を解く。もう一度、今度はゆっくり店の様子を眺める。
いきなりの事態に皆が皆リアクションをとれないでいる中たったひとり、すっくと立ち上がった人がいた。
長い黒髪を後ろでしばった凛とした女性。年齢は多分20をいくつかこえたぐらい。
背が高くすらっとしていて立ち姿が美しい。彼女は静かに歩くとりっちゃんの前まで来て立ち止まった。
「私が君のいうところの『この店で一番強いやつ』だが何か用かな?」
「私と勝負しろ、決闘だ!」
「おもしろい娘だ。受けてたとう」
突然の出来事に沸き立つ他の客たち。
ざっと見たところ相手はかなりの使い手のようだ、魔力の動かし方が洗練されてる。綺麗。
表情を見る限りではこちらに敵意はないらしい。
結論、りっちゃんが例によって暴走してるけど別段放置でだいじょうぶっぽい。
何やら賭けまで始めた喧騒の輪から私は抜けだした。
カウンターの向こうで平然とグラスを磨いているおじいさんが1人。
まるでこんなことは日常茶飯事で気にするほどでもないとでも言うかのように。
「こんにちは」私は店主に話しかける。
店主は仕事の手は止めずにちらりとこちらに視線だけよこす。
「お騒がせしてすみません」気にせず私は院長からの紹介状をテーブルにのせた。
店主はすっと慣れた手つきで封筒を開くと、中の書状をとりだした。
ただの日常的な動作にすぎないがナイフの扱いが実にあざやか。昔とったきねづかというやつかもしれない。
ざっと目を通したところで彼は驚き目を見開いた。ほんの一瞬のことだったけれど。
「あいつは元気かい?」多分院長のことを聞いているのだろう。
「ケガなく元気にやってますよ。出発前も普通に農作業してましたし」
「そいつはよかった」かすかに彼は笑みを浮かべた。
向こうの方で歓声が上がった。どうやら勝負がついたみたい。
「ちくしょー! 覚えてろ、次は負けないからな!」
そう宣言してりっちゃんが店から飛び出してくのが見えた。
さすがはここらで一番大きな街だけはある。なかなか強い人がいるもんだ。
「それでは以後よろしくお願いしますね」
店主に一礼してから私はりっちゃんを追いかけることにする。
すれ違いざまに観察したところ、対戦相手の人は浅く肩で息をしていた。
おつかれさまの意味を込めて軽く会釈をしておいた。
店の外に出る。知らない街。そこでむやみに走り回るほどりっちゃんもバカではない、はず。
昼下がり、屋台で適当にサンドイッチを買いつつ、歩いてたらすぐに見つかる。公園のベンチにりっちゃんは1人座っていた。
何も言わずに隣に座って、サンドイッチを手渡す。りっちゃんも無言でそれを受けとると、むしゃむしゃと食べ始めた。
私も食べる。鳥肉と野菜が挟まった実にスタンダードなやつ。うーん、味付けは新鮮だけど、素材は特にすぐれたところはないかな。
「強かった」りっちゃんがぽつりと呟く。
「そっかー」軽い相槌を返す。
「速攻で仕掛けたら受けきれらた。必死に食らいついたけど最後まで届かなかった」
「やっぱり都会の人は強いねー」
「うん。強い人がきっとたくさんいる。だから私ももっともっと強くなれる」
論理の展開についていけないところはあるが、切り替えが早いのはりっちゃんの長所だ。
こうして新しい生活がはじまったわけで、個人的には初日早々やらかして若干きまずくはあるけど、まあまあ大きな問題はないし別にこのぐらいいいやと思った。
これはずっと後になって聞いた話になる。
アシュリーさん――店一番の冒険者の人はこの時すでにりっちゃんの資質を見抜いてたそうだ。
なんでも序盤こそめちゃくちゃなものの、終盤からの追い上げがすさまじかったとかなんとか。
私たちが出ていってすぐにアシュリーさんは「あれはすごい冒険者になるから変な手の出し方はしないように」と周りに忠告してくれたという。
そのおかげもあって私たちは初心者が受けるしょうもない嫌がらせを受けずにすんだらしい。
まったく何が幸いするんだかよくわかんないものだ。
冒険者の店の扉を乱暴に開けるなり、りっちゃんはそう大声で叫んだ。
どうしてこうなった?
生まれ育った街を飛び出し、このあたりで一番大きな都市へと私たちは向かった。
街道に沿って歩いていけば何のトラブルもなしにたどり着く。治安はそんなに悪くないようで、まあ冒険者を始めるには悪くないと思った。
院長先生が昔の伝手だと言って紹介状を渡してくれて、いったいどういう伝手なんだとは思ったが、ともかくそこを頼ることにした。
問題なくその店も見つかったところでりっちゃんが走り出してさっきのセリフに至る。
りっちゃんとは付き合い長いけどこの展開は私もちょっと予想してなかった。
店の中には冒険者らしくひと癖もふた癖もある方々がわんさかいて、突然の闖入者に驚きあきれているといったところ。
ひょっとしてまずいかも?
場合によっては生意気なガキだと袋叩きにされるかもしれない。
まだ昼間だというのにざっと見たところ20人ぐらいがたむろっている。一対多の戦闘経験は皆無。
とにかく物量で押し切ればなんとかなるだろうか? なんとかなりそうな気がする。やったことはないけど。
最悪人死にがでるかもしれないがまあそこは勘弁してほしい。
とりあえず自分とりっちゃんの安全は確保できそうなので私は緊張を解く。もう一度、今度はゆっくり店の様子を眺める。
いきなりの事態に皆が皆リアクションをとれないでいる中たったひとり、すっくと立ち上がった人がいた。
長い黒髪を後ろでしばった凛とした女性。年齢は多分20をいくつかこえたぐらい。
背が高くすらっとしていて立ち姿が美しい。彼女は静かに歩くとりっちゃんの前まで来て立ち止まった。
「私が君のいうところの『この店で一番強いやつ』だが何か用かな?」
「私と勝負しろ、決闘だ!」
「おもしろい娘だ。受けてたとう」
突然の出来事に沸き立つ他の客たち。
ざっと見たところ相手はかなりの使い手のようだ、魔力の動かし方が洗練されてる。綺麗。
表情を見る限りではこちらに敵意はないらしい。
結論、りっちゃんが例によって暴走してるけど別段放置でだいじょうぶっぽい。
何やら賭けまで始めた喧騒の輪から私は抜けだした。
カウンターの向こうで平然とグラスを磨いているおじいさんが1人。
まるでこんなことは日常茶飯事で気にするほどでもないとでも言うかのように。
「こんにちは」私は店主に話しかける。
店主は仕事の手は止めずにちらりとこちらに視線だけよこす。
「お騒がせしてすみません」気にせず私は院長からの紹介状をテーブルにのせた。
店主はすっと慣れた手つきで封筒を開くと、中の書状をとりだした。
ただの日常的な動作にすぎないがナイフの扱いが実にあざやか。昔とったきねづかというやつかもしれない。
ざっと目を通したところで彼は驚き目を見開いた。ほんの一瞬のことだったけれど。
「あいつは元気かい?」多分院長のことを聞いているのだろう。
「ケガなく元気にやってますよ。出発前も普通に農作業してましたし」
「そいつはよかった」かすかに彼は笑みを浮かべた。
向こうの方で歓声が上がった。どうやら勝負がついたみたい。
「ちくしょー! 覚えてろ、次は負けないからな!」
そう宣言してりっちゃんが店から飛び出してくのが見えた。
さすがはここらで一番大きな街だけはある。なかなか強い人がいるもんだ。
「それでは以後よろしくお願いしますね」
店主に一礼してから私はりっちゃんを追いかけることにする。
すれ違いざまに観察したところ、対戦相手の人は浅く肩で息をしていた。
おつかれさまの意味を込めて軽く会釈をしておいた。
店の外に出る。知らない街。そこでむやみに走り回るほどりっちゃんもバカではない、はず。
昼下がり、屋台で適当にサンドイッチを買いつつ、歩いてたらすぐに見つかる。公園のベンチにりっちゃんは1人座っていた。
何も言わずに隣に座って、サンドイッチを手渡す。りっちゃんも無言でそれを受けとると、むしゃむしゃと食べ始めた。
私も食べる。鳥肉と野菜が挟まった実にスタンダードなやつ。うーん、味付けは新鮮だけど、素材は特にすぐれたところはないかな。
「強かった」りっちゃんがぽつりと呟く。
「そっかー」軽い相槌を返す。
「速攻で仕掛けたら受けきれらた。必死に食らいついたけど最後まで届かなかった」
「やっぱり都会の人は強いねー」
「うん。強い人がきっとたくさんいる。だから私ももっともっと強くなれる」
論理の展開についていけないところはあるが、切り替えが早いのはりっちゃんの長所だ。
こうして新しい生活がはじまったわけで、個人的には初日早々やらかして若干きまずくはあるけど、まあまあ大きな問題はないし別にこのぐらいいいやと思った。
これはずっと後になって聞いた話になる。
アシュリーさん――店一番の冒険者の人はこの時すでにりっちゃんの資質を見抜いてたそうだ。
なんでも序盤こそめちゃくちゃなものの、終盤からの追い上げがすさまじかったとかなんとか。
私たちが出ていってすぐにアシュリーさんは「あれはすごい冒険者になるから変な手の出し方はしないように」と周りに忠告してくれたという。
そのおかげもあって私たちは初心者が受けるしょうもない嫌がらせを受けずにすんだらしい。
まったく何が幸いするんだかよくわかんないものだ。
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