最強の魔法使いに転生したけど

緑窓六角祭

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[7] 覚悟

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「ちくしょー! 最後の最後でぬかったー!!」
 りっちゃんが目覚めて第一声がそれだった。

 意識を失っていたと言っても1分にも満たない程度の時間で記憶の欠損もない。
 はっきり見て取れるダメージは初撃でやられた左腕一本のみで結果だけ考えれば大金星といって差し支えないだろう。
 岩蜥蜴の単独討伐なんて新米冒険者のやることでなくてそれは多分中級ぐらいの仕事だ。正確なことはよくわからないけど。

 普通に感想戦しながら洞窟を戻っていって帰り着いたころにはすっかり日が暮れていた。
 ひげもじゃ院長先生はりっちゃんのケガを見てたいして驚くこともなく詳しい話も聞かずに揺々苔だけ受けとるとそれで合格だと言った。
 りっちゃんの左腕は院長先生の見立てによると安静にしてれば問題なくくっつくそうで安心した。
 まあ安静にしろと言ったところで安静にするような子ではないがそこのところは多少無理やりにでも安静にさせることにしよう。がんばろう。

 夕飯には思った通りに揺々苔のふりかけが出てきて滋味あふれる海藻といった感じでとてもおいしかった。機会があればまたとりに行きたい。
 さすがのりっちゃんもその日はすぐに寝入ってしまった。ここ2年ぶっつづけでやってた概念決闘もせずに。
 余程つかれていたのだろう。天才的な戦闘センスの持ち合わせがあると言ってもまだ子供なのだからりっちゃんはわりと簡単にスタミナ切れする。

 私はそっと布団を抜け出した。空の高いところに三日月がのぼる。裏庭には1人、院長が待っていた。
 珍しいことに酒を飲んでいる。夕飯の残りの揺々苔を肴に秘蔵の濃い酒をちびちびなめる。
「あなたは洞窟に岩蜥蜴がいることを知っていましたね」
 単刀直入。持って回った腹の探り合いは私の好むところではなかったから。向こうだって多分そうだ。

「その通りだ。知っていた」
 院長もまた私の問いかけ、というより確認に率直に答えた。
 この世界にあることを自覚してから今までの付き合いになる。そこに変なごまかしの付け入る隙はない。
「なぜ?」
 返答によっては私はあなたに対して非情な手段をとることになるかもしれない。
 多少の愛着はある。けれどもそれがりっちゃんに対する感情を超えることは決してない。

 間をとるように、院長先生はグラスに残った琥珀色をした液体を、ぐびりと一気に飲み干す。
 私は無言で返答を待つ。彼はゆっくりと口を開いた。
「お前を試すためだ。リッカの精神は強い。すべてがあいつの味方になる。どこへ行ってもやっていける。そういう星のもとに生まれてきた。だがスー、お前はどうだ。このままリッカについていくのか、それとも別の道を進むのか。どちらにしろ覚悟が必要だ。俺はお前のその覚悟を試した」
 一度口を開けばその言葉は流暢にあふれ出した。

 私はそれを過不足なく理解することができた。
 なぜならそれは私が今日一日考えに考えたこととぴったり重なっていたから。
 私はこれからどう生きるのか。どう生きるとしてもその覚悟はあるのか。結果に何が起きようとそれを受け止める覚悟があるのか――
「私はりっちゃんといっしょに冒険者になります」
 まっすぐに院長先生をみつめて、あるいは睨みつけて、私はそう宣言した。

 彼はにっとかすかに笑ってから、短く、はっきりと、言葉を放った。
「巣立て」

 といってもこんなやりとりの後すぐに私たちは旅だったというわけではない。
 当然のことだ。りっちゃんが左腕を骨折している。休養が必要だった。
 そして多分それからの1か月間はりっちゃんにとって絶え間ない労苦の連続だったと思う。

 まず安静にしていないといけなくてろくに遊びまわれないから、その上ちょうどいいから冒険者になるための勉強をしろと椅子にしばりつけられて強制的に座学をさせられる羽目になったから。
 私から見てそれはりっちゃんのレベルアップにものすごく役に立った。
 洞窟での振舞いは全部知識なしのぶっつけ本番でその場その場のフィーリングで乗り切ってただけだ。
 そんなやり方は命がいくつあっても足りない。もうちょい安全なやり方を覚えて欲しかった。

 ようやく腕が治って、私たちは旅立つ。
 私もいっしょに冒険者になると言うとりっちゃんは「いいよ」と笑顔であっさり了承してくれた。
 拒否されるとは思ってなかったけどなんかもっと折衝があるものだと思っていたから拍子抜けしたけど、概念決闘を通じてりっちゃんは私の能力の多くを知ってるし(肝心の部分を除く)、頼りになると判断したんだろう、とりあえず私はそう考えることにした。

 こうして私は冒険者になって無鉄砲な幼なじみのことをひかえめに支えていくことになったのだった。
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