最強の魔法使いに転生したけど

緑窓六角祭

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[2] 天才

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 3秒ほど意識が飛んでた。意識が飛んでたから正確なところはわからないけど体感3秒ほどだったということ。「えっと、もう1回言ってもらってもいいかな?」
「いーよー」
 りっちゃんはまた一旦私に背中を向ければ、くるりと振り返って金色の髪をふぁさっと広げると、青い目をきらきら輝かせて言った。
「私、冒険者になる!」

 見事な再現。そこまでやってくれとは思ってなかったのだけれど、かわいかったのでよしとする。
 そして私の聞き間違いとかでなくてりっちゃんはやっぱり『冒険者になる』と言っていた。
 耐性がついてたおかげで2度目は気を失わずにすんだ。それにしても冒険者、冒険者かー。
 私の人生プランが一瞬にして音を立てて崩れだした。まだ修正は可能だろうか、頭をフル回転させる。

 そもそもりっちゃんは天才である。
 旅の占い師が街にやってきたことがあっておもしろそうだから2人で見に行った。まあ私はそこまで興味なくて、りっちゃんがあんまり行こう行こうと言うのでついてっただけなんだけど。
 その占い師はずいぶん繁盛していて私たち以外にもたくさん人が集まっていたにもかかわらず、その中で一目見ただけなのに、あと金も払ってないのに、彼女はりっちゃんのことをまっすぐ指さし言った。
『あなたは将来とてつもない英雄になる相を持ってるわね』

 重ねて言うが私のことではない、りっちゃんのことである。ちなみに私はその隣にいたのだけれど特に何も言われなかった(別に残念とかではない)。
 その占い結果について私は特に驚かなかった。
 りっちゃんが特別な何かに愛された存在であることは傍にいる私が一番理解している。私の幼なじみはすごい娘なのだ。
 どっちかというとそれを一目で見抜ける占い師がいたということにちょっと驚いた。インチキばかりやってる偽物だけじゃなくてちゃんと本物の占い師というのもどうもこの世にはいるらしい。
 当のりっちゃん本人はと言えば私がすごいのは私なんだから当たり前じゃんと言った感じで少しは喜んでいたけど3日たてば忘れていた。
 今となってはそんなことがあったことすら覚えてないと思う。

 それから魔法測定の時のこと。
 6歳になってすぐの頃、魔法適性を計測することになった。私は私になんか秘められた力があって大変なことになるかもとちょっと心配したけど問題なかった。
 風属性の適性が私にあることがわかって、それはそこそこの適性であってそれ一本で食ってくことはできなくても、有効に使えば人生をわたっていくのに便利というような具合のものだった。
 問題はやはりりっちゃんの方で、りっちゃんが適性測定器具に魔力を流し込んでみたところ、その丸い鏡みたいな器具は一瞬について凍りついて砕け散ってしまった。
 その場にいたのは私とりっちゃんと院長先生だけで、院長先生は「ずいぶんと古いものだったからなあ。しょうがないしょうがない」と笑っていた。

 けれども先生がほんの少しだけ困った顔をしたのを私は見逃してなくて、ほどなくして私は先生に呼ばれてこのことは黙っているようにと言われた。
 りっちゃんがものすごい才能を持っていることがばれたら、どこか遠いところに連れてかれるんじゃないかと思っていたから、それに関して私は先生と同意見で即座にうなずいた。
 まありっちゃんはやっぱりりっちゃんで、そのあたりのことも特に気にすることなく、変わったことと言えば、遊ぶときに水を出したり氷の剣を作ったり、そういうことが増えただけだった。

 ともかくかようにしてりっちゃんは才能にあふれてるかわいいかわいい女の子なのだけれど、それはそれとして冒険者はとてもとてもとーっても危険な職業なのである。
 必要なら感覚のきかない樹海やら罠たっぷりの迷宮やらに入っていかなくちゃいけないし、善悪のタガがはずれた山賊やらそもそも予測不能の魔物やらの相手もしなくちゃいけない。死と隣り合わせだ。
 いくらりっちゃんが『将来とてつもない英雄になる』としても万が一ということはあるし、死ななくってもひどい目にあう可能性もあるのだ(エロ同人みたいに!)。
 結論。私はりっちゃんに冒険者になってほしくない。

 ――と、そのようなことを私は内面百面相、外面冷静沈着を装って考えていた。
「ちなみになんで冒険者になりたいのか理由とか聞いてもいいのかな?」
 多分昨日読んだ絵本でめっちゃかっこよかったとか、ものすごく単純な理由だと思うけど。
「昨日読んだ絵本でめっちゃかっこよかったから!」
 思った通りにぴったり単純な理由だった。しかし単純故に言葉で説得するのは非常に難しいかもしれなかった。
 だいたい私は余計なこと言ってりっちゃんに嫌われるのはイヤだ! ということで考えに考えた末に私はその役目を他人に丸投げすることにした。

 やわらかい微笑を表にはりつけて、いつもの少しだけ年上のお姉さんの風を装って私は言った。
「私はいいと思うけど、まずは院長先生に相談してみるのはどうかな? 私はいいと思うけどね!」
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