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[27] 鍵
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そう言えばクレハの狙撃魔法もいつからか狙いが正確になった。ばらつきがずいぶん少なくなった。白さんあたりになんか教わったのかもしれない。あの人も魔法使うタイプだって聞いた覚えがある。
装甲の隙間にクリーンヒット。私が動き止めてあげてたってのを差し引いてもなかなかやるじゃない。モックサウルスは燃え上がる。機械部分が露出する。
すずはその只中へとまっすぐに飛び込んだ。ラッシュ、ラッシュ、猛ラッシュ。直線、曲線まじえた怒涛の攻め。ぎこちなさは残るが結構よくなってる、と思う。
「リィナちゃん、左前方」
私も休んではいられない。森から飛び出してくる木兵を始末する。再生されてはきりがない。
引いた位置から見てるクレハの指示に従う。なんかこう、モグラたたきのハンマーか何かになった気分になるが、しょーがない。ここはこらえてぐっと我慢してやろう。
だいたい木兵を4、5体ほど倒したあたりだろう、広場の中央に陣取ってたモックサウスルの中身、機械の塊がぐらっしゃんと音を立てて崩れた。すずは両手を空にあげてガッツポーズを決めている。
「やりましたー!」
よかったよかった。即席でバランス悪いパーティーにしては連携とれてたしいい感じにできたと思う。私も剣を腰にさすとほっと一息つく。少し疲れた。
「リン、あんたいつまでゲームやってんの!」
その声はいきなり聞こえた。私でもクレハでもすずでもない声。感じからして私たちより年上の人。それから後になって考えるとちょっとすずの声に似てた。
あたりを見渡しても誰もいなくて、クレハもわけがわからないようできょとんとしている。ただ1人、すずだけが口を大きく開いて、あわあわとあからさまにうろたえている。
「お母さん、マイク入ってるから」小声だけどそれもばっちりマイクは拾ってた。
「そうなの、ごめんね。とにかくゲームはそれぐらいにして、宿題すませるように」
「わかったー……」
森の奥でボスと戦っていきなり現実に引き戻されたわけでなんだか妙な気分になった。あと人の家のプライベートな会話を聞かされてどきどきした。
沈黙。
えーと、この空気どうしたらいいんだろう? クレハなんとかしてくれないかな? とか私は考えてた。
「そういうわけで!」
すずがうってかわって大きな声を出す。若干裏返ってもいた。
「ボス倒したらここが安全地帯になったので、私ログアウトします。今日はいろいろありがとうございました、楽しかったです!」
「うん、おつかれー」「さよならー」さっきの衝撃が残ってて私もクレハもそんな言葉しか返せなかった。
「次も機会があったらいっしょに遊びましょうね!」
勢い重視で強引に押し切ってすずはログアウトしていった。
最初から最後までぐいぐい来る子だった。年下っぽいなとは思ってたけど、うーん、会話から察するに――いや詮索するのはやめておこう、私は何も聞かなかった。
「私たちも目的達成したら今日はとっとと終わりましょ」
「そだねー」
立方体はこの広場が目的地だと告げている。ここに博士がいて何か教えてくれるはずだ。いやでもどこにいるんだ。なんにもないぞ、ここ?
いや間違ってるってことはないんだよ。だってボスもいたし。あんな大掛かりな門番まで用意しておいてなんにも関係がないって逆にびっくりする。
何かあるという確信をもって探してたら、きちんと何かあった。
広場の中心に怪しい四角いくぼみがあった。自然の中にあってきわめて不自然な人工的なもの。手に持ってた立方体がぴったり収まる大きさ。はめてみた。
音もなくそれは現れた。モノクロで半透明で、ローブを着て髭を伸ばした、いかにも魔法使いって感じのおじいさん。思わず飛びのいたがそんなに警戒しなくてよかった。
いわゆるホログラムってやつ。初めて見た。いやこれゲーム内だし厳密には違うんかもしれないけど。
ホログラムのおじいさんは持ってた杖の先ですっと空の彼方を指し示した。
「北の遺跡の最奥に潜れ」
それだけ言うと現れた時と同じように音もなく消えてしまった。
そうしてさっきまでホログラムが出現してた場所には、アイテムが1つ残されている。木できて葉っぱもついてるおしゃれなデザインの鍵だった。
え? これで終わり?
木の鍵を拾い上げて収納する。想像してたのと違ってあっさり終わったせいで釈然としない気持ちが残るけど、多分これでおつかい完了なんだと思う。
「リィナちゃんてなんだかんだやさしいよねー」
「いきなり何よ。気持ち悪い」
「ほめてるんだから素直に受け取ってよ。それにしても今日はつかれたー」
「半分ぐらいはすずが騒がしかったせいでしょ」
「うんまあ、ずいぶんエネルギシュな子だった、かな」
そんな会話をしつつその日は私たちもログアウトした。
ログアウトした後で、ゲームしてる時は声かけないように部屋の扉に張り紙でもしてた方がいいかなとそんなことをぼんやり考えた。
装甲の隙間にクリーンヒット。私が動き止めてあげてたってのを差し引いてもなかなかやるじゃない。モックサウルスは燃え上がる。機械部分が露出する。
すずはその只中へとまっすぐに飛び込んだ。ラッシュ、ラッシュ、猛ラッシュ。直線、曲線まじえた怒涛の攻め。ぎこちなさは残るが結構よくなってる、と思う。
「リィナちゃん、左前方」
私も休んではいられない。森から飛び出してくる木兵を始末する。再生されてはきりがない。
引いた位置から見てるクレハの指示に従う。なんかこう、モグラたたきのハンマーか何かになった気分になるが、しょーがない。ここはこらえてぐっと我慢してやろう。
だいたい木兵を4、5体ほど倒したあたりだろう、広場の中央に陣取ってたモックサウスルの中身、機械の塊がぐらっしゃんと音を立てて崩れた。すずは両手を空にあげてガッツポーズを決めている。
「やりましたー!」
よかったよかった。即席でバランス悪いパーティーにしては連携とれてたしいい感じにできたと思う。私も剣を腰にさすとほっと一息つく。少し疲れた。
「リン、あんたいつまでゲームやってんの!」
その声はいきなり聞こえた。私でもクレハでもすずでもない声。感じからして私たちより年上の人。それから後になって考えるとちょっとすずの声に似てた。
あたりを見渡しても誰もいなくて、クレハもわけがわからないようできょとんとしている。ただ1人、すずだけが口を大きく開いて、あわあわとあからさまにうろたえている。
「お母さん、マイク入ってるから」小声だけどそれもばっちりマイクは拾ってた。
「そうなの、ごめんね。とにかくゲームはそれぐらいにして、宿題すませるように」
「わかったー……」
森の奥でボスと戦っていきなり現実に引き戻されたわけでなんだか妙な気分になった。あと人の家のプライベートな会話を聞かされてどきどきした。
沈黙。
えーと、この空気どうしたらいいんだろう? クレハなんとかしてくれないかな? とか私は考えてた。
「そういうわけで!」
すずがうってかわって大きな声を出す。若干裏返ってもいた。
「ボス倒したらここが安全地帯になったので、私ログアウトします。今日はいろいろありがとうございました、楽しかったです!」
「うん、おつかれー」「さよならー」さっきの衝撃が残ってて私もクレハもそんな言葉しか返せなかった。
「次も機会があったらいっしょに遊びましょうね!」
勢い重視で強引に押し切ってすずはログアウトしていった。
最初から最後までぐいぐい来る子だった。年下っぽいなとは思ってたけど、うーん、会話から察するに――いや詮索するのはやめておこう、私は何も聞かなかった。
「私たちも目的達成したら今日はとっとと終わりましょ」
「そだねー」
立方体はこの広場が目的地だと告げている。ここに博士がいて何か教えてくれるはずだ。いやでもどこにいるんだ。なんにもないぞ、ここ?
いや間違ってるってことはないんだよ。だってボスもいたし。あんな大掛かりな門番まで用意しておいてなんにも関係がないって逆にびっくりする。
何かあるという確信をもって探してたら、きちんと何かあった。
広場の中心に怪しい四角いくぼみがあった。自然の中にあってきわめて不自然な人工的なもの。手に持ってた立方体がぴったり収まる大きさ。はめてみた。
音もなくそれは現れた。モノクロで半透明で、ローブを着て髭を伸ばした、いかにも魔法使いって感じのおじいさん。思わず飛びのいたがそんなに警戒しなくてよかった。
いわゆるホログラムってやつ。初めて見た。いやこれゲーム内だし厳密には違うんかもしれないけど。
ホログラムのおじいさんは持ってた杖の先ですっと空の彼方を指し示した。
「北の遺跡の最奥に潜れ」
それだけ言うと現れた時と同じように音もなく消えてしまった。
そうしてさっきまでホログラムが出現してた場所には、アイテムが1つ残されている。木できて葉っぱもついてるおしゃれなデザインの鍵だった。
え? これで終わり?
木の鍵を拾い上げて収納する。想像してたのと違ってあっさり終わったせいで釈然としない気持ちが残るけど、多分これでおつかい完了なんだと思う。
「リィナちゃんてなんだかんだやさしいよねー」
「いきなり何よ。気持ち悪い」
「ほめてるんだから素直に受け取ってよ。それにしても今日はつかれたー」
「半分ぐらいはすずが騒がしかったせいでしょ」
「うんまあ、ずいぶんエネルギシュな子だった、かな」
そんな会話をしつつその日は私たちもログアウトした。
ログアウトした後で、ゲームしてる時は声かけないように部屋の扉に張り紙でもしてた方がいいかなとそんなことをぼんやり考えた。
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