VRMMOで遊んでみた記録

緑窓六角祭

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[23] 古代

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 工業都市アセンブレから東に進んでいけば黒い森が広がっていて、その森は日々拡大している。なぜならばそこには機械の管理者たちがいて、植物たちを日夜守護する。ずっと昔にそんな風に命令されたのを彼らは忠実に守りつづけている。
 通称、機鉄の森。
 浅い部分なら普通の森と変わらないが深く足を踏み入れていけば、機械とも植物ともつかない謎の生命体に遭遇する。といっても危険度はあんまり高くない、彼ら及び彼らの守護する植物に攻撃を加えないかぎりは。動物系モンスターが少ない分、安全だという考え方もあるぐらいだ。

 この地にはかつて巨大な文明があった。機械と魔法をいい感じに融合させてたようで、今の技術体系とはまったく違ったものだったという。なんやかんやあってその文明は滅びてしまった。そのなんやかんやの部分についてはよくわかってない。
 だいたいそんな感じの設定らしい。
 現在栄えてる文明は結構魔法よりだから、古代文明と比べて魔法関係は優れてるけど、機械まわりについてはどうなってんだか理解できてない部分が多い。その不明の部分にゴーレムは含まれるわけで私たちは困っている。ちなみに機械の研究してるアセンブレは世界でちょっと異質な存在。

 クレハに連れられて向かった先は薄汚い雑然としたおんぼろ研究室で、その時点でもうこれはハズレだなと思った。けれども白衣にメガネというわかりやすい研究者スタイルで忙しいそうにしてる人に話を聞いたところ、これが大当たりで『人格コア』についての情報を教えてくれた。
 人格コア、よくわかんないけど壊れている、ゴーレムのパーツ。それがあれば、あるいは修理できれば、ゴーレムはまた動くかもしれないし、そしたらなんかの役に立つかもしれない。かもしれないばかりのふわふわした話で、頼りないばかりだけど。

 研究者らには師匠と呼べる人物がいて、その人が長年独自に人格コアについて研究しているのだという。それが機鉄の森の奥の方に住んでいるから、訪ねてみればなんかわかるかも? ちなみに森の賢者とは呼ばれていない、それはなんか違うから。
 ユーニスさんは言っていた。前に機鉄の森を探索したことがあるけど、そんなものは見なかった。おそらく今回のこの話を聞いてないと発見できない仕様になっているんだろう。ゲーム的な仕様。もしかすると私たちはわりとレアなイベントを進行させてるのかも。

 そういうわけで翌日ヒマだった私とクレハの2人で機鉄の森の奥に住んでる師匠のもとを訪れている。大学生は何かと忙しい、それに機鉄の森なら変なちょっかいださない限り危ない場所じゃないから2人だけで大丈夫でしょ、とかなんとか。
 森の中にはうっすらとけもの道が通っている。研究者たちは機鉄の森は日々変化していると言っていた。だからその場にあるものを目印にしては必ず迷うことになる。これを持って行きなさい。博士にあうためにきっと役に立つからね。

 渡されたのは手のひらに収まるちっちゃな緑の立方体だった。それが博士の家までの方向と距離を教えてくれるということだ。そのおかげで森のなかは入り組んでいてちょっとしたダンジョンじみていたが迷う心配はしなくてよかった。
 でもそうだ、ここはダンジョンに似てるけどダンジョンではない。他の人と出くわすことがある。私は立ち止まって隣のクレハに話しかけた。

「他のプレイヤーがいるところでは気をつけることが3つあるんだけど、あんたちゃんとわかってる?」
 私の言葉にクレハは一瞬だけ眉をひそめる。
「えっとその話、ユーニスさんに教えてもらったんでしょ。私も燈架ちゃん経由で聞いたよ。まさか同じ話するわけじゃないよね?」
 今度は私が顔をこわばらせる番だった。まさか同じ話を聞いてるとは。いい助言だったから私が得意げに語りたかったというのに。とっさに頭を回転させて私は言いつくろう。
「当たり前でしょ、あれとは違うに決まってるじゃない」
「それなら知らないや。教えて、リィナちゃん」
「しょうがいないわねえ、そんなに知りたいなら教えてあげましょう」

 後に引けなくなった。というかこの娘はそのあたりわかってこちらを追い詰めてるのか、それとも天然でやってるのか。どっちにしろタチが悪いことにかわりはない。私は話しながら1本ずつゆっくりと指をたてて見せていった。
「まず会った人とは挨拶しよう。それからゴミはちゃんと持ち帰ろう」
「なかなかいいこと言ってるね。それで3つ目は何?」
「……森の精霊には敬意を払おう」
 なかなかいい感じにまとめられたと思った。けれどもクレハの感想は一言で「まあまあかな、即興しては形にはなってるけど」。こいつまじでこいつ!
 ただ振り返ってみて私も思う、森の精霊って何だ?

 無駄話する程度には余裕があって、景色は代り映えしなかったけど、手元の立方体によれば目的地には結構近づいていた。そんな時、不意に私は歩くのをやめる。直感。クレハを手で制して止めた。少し遅れて遠くからそれは聞こえてきた。
「にゃああああああああああああ!」
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