VRMMOで遊んでみた記録

緑窓六角祭

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[20] ふもと

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 工業都市アセンブレ。
 最初の街から北へと街道を進めば山脈にぶつかる。その山並を乗り越えれば再び平野が広がっていて、それを貫く川筋に鉄とコンクリートの巨大な塊が居を構える。
 魔法と科学の融合、いわゆる魔導工学の世界的中心地。
 残念ながらゴーレムに関する技術はすでに失われて久しい。ロストテクノロジー。アセンブレでも実際に稼働しているものはほとんどないそうだ。
 けれどもあそこならゴーレム及び破壊された人格コアについてなんらかの手がかりが得られる可能性がある、かもしれない。あくまで可能性だけどね。
 ――とだいたいそんなようなことを白さんは教えてくれた。

 日を改めてアセンブレへと出発する。
 クレハは家族と食事に行くということで今日はいない。あれでちょっといいとこのお嬢さんだからなんかいいもんを食べてるんだろう。別にうらやましくはない。
 私と燈架の2人だけでは戦力的に不安だったので急遽ユーニスさんが参加してくれることになった。
「そういうわけでよろしくねー」
「はい、よろしくお願いします」
 さらりと挨拶をかわす。3回目ともなればそのむやみに明るいテンションにも慣れてきた。つまりは私も日々進化しているということだ。

「リィナちゃんはまだ距離ある感じかな」
「無茶言ってやるなよ。私の時だって距離詰めるのに3年かかったんだから」
 燈架はすぐ適当なことを話す。3年はおおげさだ。せいぜい、うーん、1年だかその程度。そのぐらいで慣れた気がする。いちいち訂正したりはしないけど。
「まあ時間かければ近づいてくるようになるよ。ただそうなると今度はちょいちょい攻撃してくるけどな。それでもまあ基本的にはいいやつだから仲良くしてやってくれ」
 だから人について勝手なことを言うな。私はそんな他人に向かってむやみやたらに噛みついたりしないし。あとなんだ『仲良くしてやって』って、あんたは私の保護者かなんかか。

 山のふもとまで何事もなくたどり着く。
 このあたりに出現するモンスターはすでに見慣れた面子だから当然だろう。特に苦戦はしないし、なんなら向こうから避けてくれることもあった。
 問題はここから。
 ふもとの関所を抜ける。ここを通るのに初級ダンジョンクリアが必要とのこと。ゲーム的なあれで特に何かを示したりはしなくていい。顔パス。
 一歩でも山に入ったらもう敵のレベルが全然違ってくるそうだ。といっても初級ダンジョンで戦えたのなら基本的には問題ないらしい。

「さて山道に入ってくわけだけど、分岐は少ないけど基本的にはダンジョンと似たようなもんです。ただし大きく違うことがあります。なんでしょう?」
 ユーニスさんが先頭を歩きながら問いかけてきた。
「景色がきれい」
 燈架の言うとおりだ。薄暗くて湿って陰鬱でかび臭いにおいすら感じるダンジョンとはそこが違う。全然違う。ちょっとしたピクニック気分で歩いている。
「いやまあ間違ってはないんだけど、それよりなにより自分たちのパーティー以外にもプレイヤーがいるってこと。それが一番大きな違いだね」

 はあ、何そのつまんない答え。燈架の方が風情があってよかった。だいたい他に人がいるからって何が違うってのよ。もったいぶってたいして変わんないでしょ。
「リィナちゃんがめっちゃにらんでくるんだけど?」
「気にしないでくれ」
「気にしなくていいんだ」
「それよりつづきよろしく」
「おっけー。他に人がいる場合、気をつけることは3つある」

 ユーニスさんは立ち止まってこちらを振り返ると右手の人差し指をぴっと立てて見せた。
「まず1つ目、モンスターに襲われてる人がいても助けなくていい」
「いやいや困ってるなら手伝ってあげた方がいいだろ」
 そうだそうだ。困ってる人がいて、こっちに余裕があって、なおかつ相手がむかつくやつじゃなかったら、助けてあげてもいいと私も思う。
「一見大変なように見えても、向こうは向こうで考えがあってのことかもしれないからね。むしろ邪魔になる可能性もある。手を出すのは相手が明確に助けを求めてる場合だけにしよう」
 なるほど、確かに言われてみればそうだ。私たちだって前に平原でいろいろ試してたけど、それに介入されても全然ありがたくなかっただろう。納得。

「2つ目、自分で処理しきれない量のモンスターを引き連れて移動してはいけない」
「それはわかる。大群従えて突っ込んでこられたらすごく困るもんな」
「あんまりつづけてるようだと運営に悪質と判断されて最悪の場合、アカウント停止されるからこれはほんとに注意して欲しい」
 アカウント停止は怖い、しっかり注意しておこう。でもうっかりやっちゃうかもしれない。1回ぐらいなら許してくれるだろうか。多分ぎりセーフだと思う、だといい。
 というか仲間内なら構わないんじゃないか。たくさんモンスター連れてきて全部クレハにぶつけてみたい。きっとおもしろいことになる。あわてふためく姿が目に浮かぶ。
「リィナ、一応言っとくけどクレハ相手でもやっちゃだめだからな」
 燈架が釘をさしてきた。そんなこと言われなくてもわかってるっての。考えただけでやるつもりなかったし。

「最後に3つ目、助けてもらったらきちんとお礼を言いましょう」
 そう言ってユーニスさんはにっと歯を見せて笑った。
 子供扱いされてるんだろうか、私は。燈架の友達ならそこまで年は変わんないと思うんだけど。
 でもまあ言ってることはあっている。今まであんまりかかわってこなかったけど、ここにいるのは私たちだけじゃない。色んな人がどこか知らない場所でこのゲームをやっている。
 リアルで会うことはないだろうし、ゲームの中でも2度と会わないかもしれない。その場限りの関係がほとんどのはず。
 それでも感謝の気持ちは伝えた方がお互い楽しいってことだ、多分おそらく。
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