VRMMOで遊んでみた記録

緑窓六角祭

文字の大きさ
上 下
6 / 29

[6] ユーニス

しおりを挟む
 西の門から出て道沿いに歩けばすぐ左手に川が見えてくる。
 釣りをしている人がちらほらいる。のんきに釣り糸を垂れている。BBQをやるにもよさそうな感じだ。
 もうちょっと歩いてあんまり人のいなさそうな所を探した。

 河原に降りてコンロを組み立てる。
 炭をセットしたところで火種がないことが判明する。だれもそれに気づいてなかったのか、間が抜けている。
 クレハが魔法で火付けすることになった。魔法の火って人体に有害な成分とか含まれてるんじゃないかと不安に思ったけど火自体は普通のと変わらないから多分大丈夫だよと言われた。

 なんやかんやトラブルはあったけどビッグボアの肉が焼きあがる。
 あたり一面に香ばしい匂いが広がる。いつもなら服に匂いがつくのが気になるところだがまったく気にしなくていい点がすばらしい。
 はじめて食べた猪の肉はなんかこうワイルドな豚って感じの味わいだった。
 ゲームの中での話だからほんとはどうなんだかそれはちょっと知らない。

「野菜もちゃんと食えよ」言いながら燈架が私の皿にタマネギとピーマンをのせてくる。
「ゲームの中でぐらい好きなもの食べたっていいじゃないの」
「え、お昼もチョココロネとメロンパンだったでしょ」クレハは余計なことしか言わない。
「リアルの話持ち出すのはだめでしょうが。よくわかんないけどルール違反よ。通報してやる」
「いやまあ仲間内だしそこまでせんでいいだろ」燈架がそう言うのでしょうがないから許してあげることにした。私は心が広い。

 幸いなことに魔物は現れなかったのだけれど別の問題が発生した。
 ビッグボアの肉が余った。思ったより量が多かったのだ。
 このゲームは満腹感までは再現していないけれど限度が近づいてくると警告がでてくる。
 なんでも限界を超えるとバッドステータス食べ過ぎで動きが鈍くなるんだそうだ。
 ちなみに食事の細かい効果については現在検証がすすんでないという話。
 みんなそんなに気にしていない。だいたいの人は空腹だとよくないよねぐらいの認識らしい。
 クレハがローグライクどうこう言ってたけど細かいところは忘れた。そういう人のわからない専門用語っぽい言葉を使うあたり説明が下手だと思う。

 捨てるのももったいないので燈架が知り合いを呼ぶことになった。
 けもみみワールドオンラインをすすめてくれた人だという。調べたらちょうどログインしてたそうだ。
 水辺で遊んでたらものすごい勢いで何かが近づいてきた。
 魔物かと身構えたところ長い銀髪の狐耳の女性で現れるなり狐っぽく手首をまげてポーズまでつけて「こーん」と言った。
 なんなんだこの人はと困惑していると「こんにちはあるいはこんばんはの頭の『こん』と狐の鳴き声の『こん』をかけた高度なギャグだよ」と説明された。

「変な奴ではあるけど悪いやつではないと思う」苦笑いしながら燈架が言う。
「ユーニスだよ。よろしくねー」彼女がその燈架の知り合いというやつだった。
「こっちの2人が私の地元の幼なじみだよ。初心者であんまり交流とかに慣れてないからほどほどにな」
「おっけーおっけー。私そういうの大得意だからまかせといて」
 何がどういうことだかわからなかったけどとにかく無駄に明るくて騒がしい人だった。

 ユーニスさんはものすごい勢いで残った肉をたいらげていく。
 食事にこだわってる人は少ないらしくてこんなおいしいのははじめてなんだそうだ。それを聞いてちょっぴりうれしかった。
 ぼけーっとその様子を眺めてたらクレハが小声で話しかけてきた。「ユーニスさんの装備すごいね。私たちよりずっとレベルが高い」
「ゲームばっかやってる暇な人ってこと?」
「あってるけど言い方には気をつけるべきだよ」
「全部聞こえてるんですが」とユーニスさん。
「すまん。悪気はあんまりないはずなんだ」燈架が代わりに謝ってた。

 ようやく食材がなくなって一息つく。ユーニスさんは私たちの方を見て言った。
「ごちそうさま。おいしいものを食べさせてくれたお礼に、何か聞きたいことがあるなら教えてあげるよ。だいぶ先いってることだしね」
「あの、肉と一緒に手に入れたんですが、何に使えますか」クレハがおずおずと手を上げるとビッグボアの牙をとり出して尋ねる。確かに私も気になってたことだ。
「ふむ。アクセサリーなんかを作るのにちょうどよさそうだね。知り合いに細工師がいるから今度紹介してあげよう」

 お互いに礼を言い合って別れる。ユーニスさんは来た時と同じく超スピードで帰っていった。
 その日はもうBBQだけで満足したので私たちも片付けが済んだらすぐに解散した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro
キャラ文芸
 『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。  しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。  登場する艦艇はなんと61隻!(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。  ――――――――――  ●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。  ●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。もちろんがっつり性描写はないですが、GL要素大いにありです。  ●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。  ●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。  ●お気に入りや感想などよろしくお願いします。毎日一話投稿します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

春空VRオンライン ~島から出ない採取生産職ののんびり体験記~

滝川 海老郎
SF
新作のフルダイブVRMMOが発売になる。 最初の舞台は「チュートリ島」という小島で正式リリースまではこの島で過ごすことになっていた。 島で釣りをしたり、スライム狩りをしたり、探険したり、干物のアルバイトをしたり、宝探しトレジャーハントをしたり、のんびり、のほほんと、過ごしていく。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

死滅(しめつ)した人類の皆(みな)さまへ

転生新語
SF
私は研究所(ラボ)に残されたロボット。どうやら人類は死滅したようです。私は話し相手のロボットを作りながら、山の上に発見した人家(じんか)へ行こうと思っていました…… カクヨムで先行して投稿しています→https://kakuyomu.jp/works/16817330667541464833 また小説家になろうでも投稿を開始しました→https://ncode.syosetu.com/n3023in/

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...