クラス転移したところで

緑窓六角祭

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[8] 零距離

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 荒く息をついた。
 至近距離でゴングの赤い瞳がらんらんと輝いている。なんだかそれがひどく喜んでいるように篠崎には見えた。
 それなら自分はどうなのだろう?
 興奮と恐怖が入り混じって何がなんだかよくわからない。
 そもそもこんな状況で自分の感情を整理してやる余裕なんてなかった。
 戦闘は終わっていない、まだ始まったばかり――これからだ。

 大盾の死角からゆるやかなカーブを描いて火球が飛び出す。ゴングのこめかみに当たる、体が後ろにずれた。
 背後から佐原の声。「持ちこたえろ」
 篠崎は状況を把握する。栗木がすぐに攻撃に移れる状況にない。おそらく先の攻防で体勢を崩したのだろう。
 立て直すまで篠崎が一人で前線を維持するしかない。
 敵との距離を測る。わずかにゴングの間合いの外といったところ。

 このままの距離を保つ、それとも詰めた方がいいのだろうか、どちらが正解なんだ?
 頭の中をすばやく血流が駆け巡る。きりきりと音を立てて歯車が回転する。
 甘い状況判断で生き残れる時ではなかった。
 ゴングの表情は読めない。恐ろしげな笑みを浮かべている。
 体さばきなんてそんなものを読む練習はしていない。

 光が見える、魔力の流れ。そうだ、それがあった。
 目を凝らせ、いや視覚だけじゃだめだ、五感全部をはたらかせて全身で感じろ。
 ほんの一瞬だけ篠崎は極度の集中状態に潜入する。
 確かにつかんだ感触。後頭部が熱い。ちりちりと何かが焼けこげているような。
 問題ない。篠崎の体はすでに動いている。

 思いきって前へ――距離を詰める!
 ゴングがにやりと笑った、それでいいとでも言うかのように。
 パンッ。盾に軽い衝撃。左ジャブ、その反動でゴングはふわりと後退する。
 その巨躯に似合わぬ軽やかな動きに脳が理解を拒んだ。非現実感。
 いや惚けてる場合かよ。ゴングは地に足をつけあからさまに攻撃の構えをとる。
 まずい。受け止めきれるのか? 正面から一人で? 黒い筋肉がさらに膨れ上がって――

 ガギン、横合いから銀の軌跡が振り下ろされた。
 栗木! おせえんだよ、こっちが苦労してるってのに、てめえ試合中に寝てんなよ、このボケカスが。
 篠崎は心の中で毒づいた。声には出さない、出す余裕がない。
 栗木の攻撃をゴングは左腕で軽く払う。いい一撃には程遠い、到底至らない。
 とはいえ仕切り直し。三人そろった、まだ勝機は残っているはずだ。

 息を整える。
 凝縮された濃密な時間感覚に精神の消耗が著しい。強者との対峙とはここまで体力を削られるものなのか。
 小手先の技術だけじゃダメだったな。もっと基礎から、きっちりスタミナをつけておく必要があった。
 バカかよ、あきらめるな。反省会にはまだ早いだろ。もう長くはもたないとしても。
 全力を尽くせ、得意を伸ばせ、あともう一つ何かゴングが言ってたな。ちくしょう、思い出せない。

「篠崎、栗木、あとは頼んだ」
 無駄な思考を打ち切ってくれたのは佐原。
 最終局面。時間をくれの合図。返事はいらない。篠崎は佐原の前に立ち盾を構えた。
 一方栗木はゴングへと跳躍する、がむしゃらに打ち込んでいく。
 金属の破片があたりに散った、頬をかすめて飛び去る。ダメージを与えることはできていない。
 まるで歯が立たないのだ。それとも刃が立たないか。どっちでもいい。
 栗木は吠えた。「クソが!」

 やるしかないのか? やるしかないだろう。やるんだ。
 篠崎は覚悟を決める。土壇場。いちかばちか。最後の賭けにうって出よう。
 あとはタイミング次第。栗木もまた限界に近づいている。
 待つのはつらい。自分が仕事をしていない感覚に陥る。それでも待て。
 視界の端を真っ赤な火の玉が横切るのが見えた。
 今だ、篠崎は声をあげると同時に走り出していた。「作戦B!」
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