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偽物ペンタン

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「ユミ様、あんな言葉を聞く必要なんてありませんからね。公爵令嬢だからって許せません!」

ぷりぷりしながら、シャロンは先に部屋に置かれていたペンタンの毛をブラシで整えている。
おかげでペンタンはいつでも艶々だった。
由美は由美で、召喚された時に着ていた事務服に着替えていた。
今日は王子が居ない為、久々に着てみようと計画していたのだ。
王子に見つかるとスカート丈を心配されたり、元の世界が恋しいのかと勘違いされたり、面倒なことが起きそうなので、今日は都合が良かったのである。

「うーん、彼女の言ってたことは間違ってないし、私はああいう子嫌いじゃないんだよねー。」

「何を言ってるんですか。ユミ様は呑気過ぎます!あんな侮辱を受けたのに。あの令嬢は、元々は王子妃候補筆頭だったのですよ?」

「え?そうなの?」

久々の仕事着に、気が引き締まる思いをしながら由美は考える。

でも身分が高いし、ありえる話だよね。
元々ってことは、候補からはずれたってこと?
あの子と王子様だと、見た目は猛烈にお似合いなのに。
まあ、性格は壊滅的に合わなさそうな気がするけど。

「レゴラス様はどの令嬢にも興味を示しませんでしたし、アローラ様も冷たくて怖い王子が嫌だと言って、あっという間に話は立ち消えましたが。きっと妬ましくなったんですよ!今までは公爵令嬢として敬われていたのに、召喚されたユミ様の方が人気も立場もあるし、レゴラス様に大切にされているので。」

「そんなこともないと思うけど。でも嫌われてるのは残念だなー。」

その時、ノックの音がした。

「フィーゴさんが戻ってきたんですかね?」

シャロンが扉に向かったきり、姿が見えなくなった。

「シャロンさん?何かあった?」

不思議に思った由美も、ドレス姿ではない為、遠慮がちに扉から顔を出したのだが。
その瞬間、何者かに腕を引いて押さえつけられ、顔に布を当てられてしまう。

あ、これってマズイ状況じゃない?
変な薬を嗅がされるパターンだよ!!

しかし、その記憶を最後に、由美は気を失った。


◆◆◆

城を出て一時間も経過していないが、レゴラスは既に帰りたくて堪らなかった。

ああ、早くユミ様に会いたい。
フィーゴがいれば安全だとは思うが、少しも目を離したくないというのに!

胸元からペンタンマスコットを取り出し、眺める。
顔の輪郭が少々歪んでいるところが、由美のお手製らしくて余計に愛おしい。
さっさと仕事を終わらせて由美の元へ帰ろうと、馬のスピードを上げかけた時だった。

「レゴラス様、早馬が近付いてきます!」

側近の声で振り返ると、確かに王家の馬だった。
自ら近付き、伝書を受け取ると、予想通りフィーゴからである。
読めば、公爵令嬢が由美に絡んできたらしい。
由美の様子が心配になり、城に戻ろうかと悩んでいると、すぐさま次の早馬が近付いてくるのが見えた。

またか?
こんな続けざまに送ってくるなど、嫌な予感がする・・・

二通目を開けば、それは衝撃的な内容だった。

『ユミ様、ペンタン様、シャロン、連れ去られた模様。現在捜索中。』

「直ちに帰城する!!」

それだけ叫ぶと、レゴラスは城の方向へ馬を走らせた。
背後で臣下が慌てているが、説明をする時間も惜しい。

ユミ様、すぐに助け出します!どうかご無事で!!

砂埃を巻き上げ、ひたすら城を目指した。




◆◆◆

「ユミ様!ユミ様!大丈夫ですか?」

シャロンの声で、由美は目を覚ました。
頭がボーッとする。

あれ?私、寝てた?

薄暗い部屋の中、体を起こすと手首が縛られている。

ん?何これ。
膝も擦りむいてるし。
あ!確か部屋の前で何か嗅がされたんだった!

隣で、同じく手首を縛られているシャロンが心配そうに由美を見つめている。

「シャロンさん!大丈夫?どこか痛くない?」

由美がシャロンの顔や体を確認するように尋ねると、笑われてしまった。

「ふふふ、私なら何ともありません。私よりユミ様です。どこか痛めてはいませんか?」

「平気みたい。でもここはどこなんだろ?」

見渡せば、小さいながら窓が二つあり、外が見える。

誘拐・・・にしては、やり方が手緩いよね。
猿ぐつわもないから喋れるし、二人一緒で、手首しか縛られていない。
しかも、後ろじゃなくて前に縛られてるから楽だしね。

それにしても、一体誰が、何の目的でこんなことをしたのだろうか?
フィーゴは由美達が連れ去られたことにもう気付いているだろうし、すぐにバレる気がする。

「ユミ様、この部屋は見たことがあります!今は使われていませんが、ここはお城の中です!」

うわ、ますます意味がわからない。
私達が目的じゃないとか?
いや、じゃあ何が目的なんだろう?

とりあえず不便なので、縛られている紐をなんとかすることにした。

こんな細い紐って、完璧舐められてるよね。
どうせ女二人で何も出来ないと思ったんだろうなー。

「シャロンさん、手を少し上げてくれる?紐を切るから。」

「切るって、どうするつもりなんですか?」

ふっふっふ~と不敵に笑いながら、由美は器用に胸ポケットからカッターを抜いた。
あのペンタンが入ったダンボールを開けた時から、ずっと事務服に差したままだったのである。

カッターの刃を出し、シャロンの手首の紐を切ると、シャロンが歓声を上げた。

「ユミ様、凄いです!」

シャロンにカッターを渡し、由美も切ってもらったところで、俄に外から声が聞こえた。

「お前はペンタン様ではない!!ペンタン様の偽物め!ユミ様をどこへやった?」

レゴラス様の声?
お仕事に行ったんじゃなかったっけ?
それに、ペンタンの偽物って・・・

先に窓に駆け寄ったシャロンが叫ぶ。

「大変です!ペンタン様がっ、ペンタン様が歩いています!!」

は?
ペンタンが歩いてる?
誰かが中に入ってるってこと!?

由美も窓から外を見た。





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