16 / 23
サプライズのペンタンクッキー
しおりを挟む由美がこちらの世界に召喚されてから、一週間ほど経った。
城の人達は親切だし、レゴラスも常に気にかけてくれる為、快適な日々を送っている。
この日、朝食が終わった由美に、メイドのシャロンが駆け寄ってきた。
「ユミ様、頼まれていたものが出来上がったそうですよ!」
「ええっ!?もう出来たの?この前お願いしたばかりなのに?」
胸を張りながら、シャロンが得意気に答える。
「このくらい、お茶の子さいさいですよ。私にはツテがありますからね!早速ご覧になります?」
こっちの世界でも、お茶の子さいさいって使うんだー。
久々に聞いたけど。
由美の返事は決まっていた。
「もちろん!!早く見たいわ。」
というわけで、レゴラスが仕事に向かうのを見送った二人は、急いで厨房を訪れた。
そこにはペンタンや、猫やクマの形をしたクッキー型がたくさん並べられていた。
以前、お茶の時間に星形のクッキーを食べていた由美は、ふと疑問に思ってシャロンに尋ねたのである。
この世界に、動物の形のクッキーはないのかと。
今まで目にしたことのなかったシャロンは、由美に型を作ることを提案したのである。
シャロンの友人のお父さんが、鋳物の職人をしているらしく、相談してくれるらしい。
こちらのクッキー型は、日本で一般的な抜くタイプではなく、鯛焼きのように溝に流し入れて使う型が主流だ。
試しにペンタンの全体像と、猫とクマの顔のイラストをシャロンに渡したのだが、実物を確認してみると、あまりの素晴らしさに由美は目を見張った。
「シャロンさん、これ凄いね!!プロの技っていうか、こんなにイラスト通りの型が出来るなんて!」
「おじさん、気合いが入ってましたからね。でもこんな可愛い絵は今まで見たことないって。ペンタン様の実物に会いたがってましたよ。」
抜き型と違って顔のパーツも凹凸で表現してある為、ただのペンギン型ではなく、すぐにペンタンだとわかる。
「あー、早くこの型を使って焼いてみたいわ。可愛く焼けるかな?」
そこで、コック長がすかさず話に入ってきた。
「ユミ様、生地なら用意しておきましたよ。オーブンも温めてあります。いつでも焼けます。」
え、ほんと?
今から生地寝かせたりしなくていいの?
それって、ほとんど小学生のお菓子教室みたいな、焼くだけのおいしいとこどりじゃない。
「コック長さん、ありがとうございます!今から少しスペースとオーブンお借りしてもいいですか?シャロンさん、私、これからクッキー焼いてもいい?」
「構いませんよ。私もお手伝いしましょう。」
「私もやりたいです。おじさんに感想を伝えたいので。」
二人が快く賛成してくれたので、早速クッキーを焼いていく。
コック長は慣れたもので、コツや、焼き時間など丁寧に教えてくれた。
一時間半後、型を繰り返し使いながら、クッキーが焼き終わった。
途中様子を見に来たフィーゴには、レゴラスへの口止めを頼んである。
サプライズで、差し入れをする予定だからだ。
「可愛い!初めてなのにこんなに上手く焼けるなんて、コック長さんのおかげです。ありがとうございます。」
「いや、可愛いクッキーが焼けましたね。こうなると、マドレーヌ型も欲しくなりますね。」
「それいいですね!追加でおじさんに頼んでおきますね。」
確かにペンタンマドレーヌも捨てがたいが、そもそもこの型はいくらかかったのだろうか。
由美は急に不安になり、シャロンに確かめる。
「シャロンさん、このクッキー型ってお高いんじゃ。つい頼んじゃったけど、私こちらのお金って持ってなくて。」
まあ、あちらのお金も、お財布もカードも会社のロッカーに入ったままだから、今は持ってないんだけど。
すると、再び顔を出していたフィーゴが、当然のように答えた。
「支払いは済んでいますので、ご安心を。ユミ様が必要なものは、何でも揃えるようにレゴラス様から言われていますからね。まさか最初に欲しがられたのがクッキー型とはビックリしましたが。普通の女性は宝石とかドレスをねだるものかと。」
「ユミ様はその辺の高慢ちきな令嬢とは違うんですっ。ご自分のことより、レゴラス王子のことを考えていらっしゃるのですから!」
ムッとしたのか、すかさずシャロンがフィーゴに言い返している。
というか、ドレスはすでにたくさん用意され過ぎてて、着きれないし。
宝石なんて、国宝級で怖くて触れない・・・
こんなに良くしてもらってるんだから、少しは王子様へのお礼になるといいんだけど。
「ハハッ。わかっていますよ。さあ、焼き立てのうちにクッキーをレゴラス様の元へ。確実に喜びます。あ、マドレーヌ型の代金もお任せ下さい。ケーキ型も頼みますか。」
そこから聞いていたのね。
さすが王子の側近、抜かりないわー。
「ありがとうございます。じゃあフィーゴさんも一緒にお茶にしましょう!」
こうして、皆でレゴラスの執務室へと向かった。
レゴラスの喜ぶ顔を想像していたが、思っていた以上の反応に、驚くことになるのだった。
0
お気に入りに追加
367
あなたにおすすめの小説
【完結】「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」
まほりろ
恋愛
聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。
だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗
り換えた。
「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」
聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。
そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。
「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿しています。
※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。
※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。
※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。
※二章はアルファポリス先行投稿です!
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます!
※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17
※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。
ときめき♥沼落ち確定★婚約破棄!
待鳥園子
恋愛
とある異世界転生したのは良いんだけど、前世の記憶が蘇ったのは、よりにもよって、王道王子様に婚約破棄された、その瞬間だった!
貴族令嬢時代の記憶もないし、とりあえず断罪された場から立ち去ろうとして、見事に転んだ私を助けてくれたのは、素敵な辺境伯。
彼からすぐに告白をされて、共に辺境へ旅立つことにしたけど、私に婚約破棄したはずのあの王子様が何故か追い掛けて来て?!
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。
ゆちば
恋愛
ビリビリッ!
「む……、胸がぁぁぁッ!!」
「陛下、声がでかいです!」
◆
フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。
私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。
だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。
たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。
「【女体化の呪い】だ!」
勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!
勢い強めの3万字ラブコメです。
全18話、5/5の昼には完結します。
他のサイトでも公開しています。
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
【完結】転生令嬢はハッピーエンドを目指します!
かまり
恋愛
〜転生令嬢 2 〜 連載中です!
「私、絶対幸せになる!」
不幸な気持ちで死を迎えた少女ティアは
精霊界へいざなわれ、誰に、何度、転生しても良いと案内人に教えられると
ティアは、自分を愛してくれなかった家族に転生してその意味を知り、
最後に、あの不幸だったティアを幸せにしてあげたいと願って、もう一度ティアの姿へ転生する。
そんなティアを見つけた公子は、自分が幸せにすると強く思うが、その公子には大きな秘密があって…
いろんな事件に巻き込まれながら、愛し愛される喜びを知っていく。そんな幸せな物語。
ちょっと悲しいこともあるけれど、ハッピーエンドを目指してがんばります!
〜転生令嬢 2〜
「転生令嬢は宰相になってハッピーエンドを目指します!」では、
この物語の登場人物の別の物語が現在始動中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる