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サプライズのペンタンクッキー
しおりを挟む由美がこちらの世界に召喚されてから、一週間ほど経った。
城の人達は親切だし、レゴラスも常に気にかけてくれる為、快適な日々を送っている。
この日、朝食が終わった由美に、メイドのシャロンが駆け寄ってきた。
「ユミ様、頼まれていたものが出来上がったそうですよ!」
「ええっ!?もう出来たの?この前お願いしたばかりなのに?」
胸を張りながら、シャロンが得意気に答える。
「このくらい、お茶の子さいさいですよ。私にはツテがありますからね!早速ご覧になります?」
こっちの世界でも、お茶の子さいさいって使うんだー。
久々に聞いたけど。
由美の返事は決まっていた。
「もちろん!!早く見たいわ。」
というわけで、レゴラスが仕事に向かうのを見送った二人は、急いで厨房を訪れた。
そこにはペンタンや、猫やクマの形をしたクッキー型がたくさん並べられていた。
以前、お茶の時間に星形のクッキーを食べていた由美は、ふと疑問に思ってシャロンに尋ねたのである。
この世界に、動物の形のクッキーはないのかと。
今まで目にしたことのなかったシャロンは、由美に型を作ることを提案したのである。
シャロンの友人のお父さんが、鋳物の職人をしているらしく、相談してくれるらしい。
こちらのクッキー型は、日本で一般的な抜くタイプではなく、鯛焼きのように溝に流し入れて使う型が主流だ。
試しにペンタンの全体像と、猫とクマの顔のイラストをシャロンに渡したのだが、実物を確認してみると、あまりの素晴らしさに由美は目を見張った。
「シャロンさん、これ凄いね!!プロの技っていうか、こんなにイラスト通りの型が出来るなんて!」
「おじさん、気合いが入ってましたからね。でもこんな可愛い絵は今まで見たことないって。ペンタン様の実物に会いたがってましたよ。」
抜き型と違って顔のパーツも凹凸で表現してある為、ただのペンギン型ではなく、すぐにペンタンだとわかる。
「あー、早くこの型を使って焼いてみたいわ。可愛く焼けるかな?」
そこで、コック長がすかさず話に入ってきた。
「ユミ様、生地なら用意しておきましたよ。オーブンも温めてあります。いつでも焼けます。」
え、ほんと?
今から生地寝かせたりしなくていいの?
それって、ほとんど小学生のお菓子教室みたいな、焼くだけのおいしいとこどりじゃない。
「コック長さん、ありがとうございます!今から少しスペースとオーブンお借りしてもいいですか?シャロンさん、私、これからクッキー焼いてもいい?」
「構いませんよ。私もお手伝いしましょう。」
「私もやりたいです。おじさんに感想を伝えたいので。」
二人が快く賛成してくれたので、早速クッキーを焼いていく。
コック長は慣れたもので、コツや、焼き時間など丁寧に教えてくれた。
一時間半後、型を繰り返し使いながら、クッキーが焼き終わった。
途中様子を見に来たフィーゴには、レゴラスへの口止めを頼んである。
サプライズで、差し入れをする予定だからだ。
「可愛い!初めてなのにこんなに上手く焼けるなんて、コック長さんのおかげです。ありがとうございます。」
「いや、可愛いクッキーが焼けましたね。こうなると、マドレーヌ型も欲しくなりますね。」
「それいいですね!追加でおじさんに頼んでおきますね。」
確かにペンタンマドレーヌも捨てがたいが、そもそもこの型はいくらかかったのだろうか。
由美は急に不安になり、シャロンに確かめる。
「シャロンさん、このクッキー型ってお高いんじゃ。つい頼んじゃったけど、私こちらのお金って持ってなくて。」
まあ、あちらのお金も、お財布もカードも会社のロッカーに入ったままだから、今は持ってないんだけど。
すると、再び顔を出していたフィーゴが、当然のように答えた。
「支払いは済んでいますので、ご安心を。ユミ様が必要なものは、何でも揃えるようにレゴラス様から言われていますからね。まさか最初に欲しがられたのがクッキー型とはビックリしましたが。普通の女性は宝石とかドレスをねだるものかと。」
「ユミ様はその辺の高慢ちきな令嬢とは違うんですっ。ご自分のことより、レゴラス王子のことを考えていらっしゃるのですから!」
ムッとしたのか、すかさずシャロンがフィーゴに言い返している。
というか、ドレスはすでにたくさん用意され過ぎてて、着きれないし。
宝石なんて、国宝級で怖くて触れない・・・
こんなに良くしてもらってるんだから、少しは王子様へのお礼になるといいんだけど。
「ハハッ。わかっていますよ。さあ、焼き立てのうちにクッキーをレゴラス様の元へ。確実に喜びます。あ、マドレーヌ型の代金もお任せ下さい。ケーキ型も頼みますか。」
そこから聞いていたのね。
さすが王子の側近、抜かりないわー。
「ありがとうございます。じゃあフィーゴさんも一緒にお茶にしましょう!」
こうして、皆でレゴラスの執務室へと向かった。
レゴラスの喜ぶ顔を想像していたが、思っていた以上の反応に、驚くことになるのだった。
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