【完結】魔法令嬢に変身したら、氷の騎士団長サマがかまってくるのですが。

櫻野くるみ

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カメは見抜いていた! 氷の騎士団長はただの拗らせ男だと。

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初めてミルキーレナに変身した二日後、私はペロペロの居る庭で地団太を踏んでいた。

「もう、全部ペロペロのせいよ! 『最近イレーナお嬢様の様子がおかしいと思ったら、とうとうカメと心を通い合わせたらしい』とか、屋敷中で噂になっているんだから!」
「ふぉっふぉっ、当たらずとも遠からずじゃな」
「どこがよ! 大ハズレもいいところだわ!」

プリプリする私の隣で、ペロペロは今日も呑気に菜っ葉をむさぼっている。
怒りついでにミルキーレナの変身過程や決めポーズ、台詞の改善について訴えてみたが、あえなく却下されてしまった。
そういう細かい部分はそれぞれの変身道具の個性なんだとか。
なんじゃそら。

「どうせ誰に見せるものでもなし、多少気に入らなくとも構わんじゃろう。『気にしたら負け』じゃ」
「またそれ? 実際、あの偉そうな態度を騎士団長様に見られちゃったのよ? 気になるに決まっているじゃない」
「おぬし、あの男にホの字なのじゃな?」
「古っ! それにそんなんじゃないわよ……たぶん」
「ふぉっ、若いのう」

照れ隠しで芝生をプチプチ抜きまくる私と、甲羅干しをするカメ――
そんなのどかな昼下がりに、またしても鳴り響くブローチの音。

「え、ペースが早くない? また何か事件が起きたの?」
「ふむ。怪しい化粧品を売る店があるようじゃ。買った客に健康被害が出ておるようじゃの」
「それはひどい話ね。女性の敵じゃない。すぐに行くわよ! ……って、いちいち部屋に戻って変身するのって結構面倒よね」

庭から自室まで戻っている時間が惜しい。
しかもペロペロの移動速度はなかなかにスローリーなのである。

「ワシの小屋を使ってよいぞ。実はあそこにも認識阻害の……」
「出た、認識阻害! 悪いけど私、ソレ信用していないのよね」
「本当に失礼な女子おなごじゃのう。誰にも見られやせんて。初回は姿見があるほうがよいと思ったから移動しただけじゃ」
「まあ周囲に誰もいないし、いっか。だったら遠慮なくお借りするわね。お邪魔します」

考えてみれば私が頼んで用意してもらった小屋なのだが、なんとなくお客様気分でカメの小屋に足を踏み入れ、叫ぶ。

「ミルミルミルキー、ドレスアップ!」

ブローチから光が溢れ……以下略。
私はまたしても例の悪役令嬢ポーズで変身を終えていた。


ぬいぐるみになったペロペロを肩に乗せ、街に向かい、路地裏の小さな店の前に辿り着くと。

「ミルキーレナ! また会えたな!」

なぜか嬉しそうに破顔する騎士団長サマが立っていた。

この方、本当に氷の騎士団長と呼ばれているのよね?
こんなに表情が豊かだなんて聞いていないわ。

見上げるほど身長が高く、剣を握ればかなう者なしと恐れられているクラレンスだが、今の彼はまるでしつけの行き届いた美しい大型犬のようだ。
もししっぽが見えたなら、きっとブンブンと素早い速度で大きく揺れているに違いない。

しかし、それだけ再会を喜んでくれているのかと思うと、こちらも嬉しくなってしまう。
もう一度会いたいと願っていたのはこちらも一緒なのだから。

「騎士団長様、またお会いしましたね。今日はどうしてこちらに?」
「最近この店の商品を使用した者の肌が爛れたり、高熱を出したりしていると耳にした。俺の部下の妻も寝込んでいるという話だ」
「まあ、ひどい! やはり商品に問題があるのでしょうか? 私、偵察してきますね」

入口の扉に手をかけた私だったが、即座に左腕を団長に掴まれてしまった。

「待て。危険だ」
「大丈夫ですよ。それに、ここは化粧品を扱うお店ですよ? 女性の私のほうが適役でしょう?」
「だがしかし……」

団長は渋っているが、正直あの尊大な態度で戦う様子を彼にはあまり見せたくない。

「ちょっと様子を見てくるだけなので、団長様は店の外でお待ちください。何かあればお呼びしますから」
「では約束してくれ。商品には絶対触れないこと。もし君のこの愛らしい顔が爛れることになったら俺は……」

へ?
愛らしい顔?

首を傾げようとしたが、団長の大きな手のひらが私の左頬を包み込み、顔を覗き込まれてしまった。
近付いた深い群青色の瞳に吸い込まれそうになるのを、ペロペロが蹴って現実に引き戻してくれる。
グッジョブ、ペロペロ!

「何をしておる。くぞ」
「そうだった。うっかりときめきモードに入るところだったわ」

そっと団長から離れるが、なにやら彼のモノローグらしきものは続いている。

「いや、たとえ姿、形が変わろうとも君の魂の美しさは変わることはないのだが。戦う君の姿は凛々しく、気高い。俺は君という存在を感じるだけで……」
「……ペロペロ、団長様は大丈夫かしら? もしかして悪の組織に意識を乗っ取られていたりする?」
「気にせんでよい。ちょっとした(恋の)病じゃ」
「え、大変じゃない」
「じきに治るじゃろ。……お前さん次第じゃが」

え、私?

疑問に感じつつも、店のドアを今度こそ開ける。

『どいつもこいつも世話が焼けるのう。特に氷の騎士団長あやつは拗らせすぎた、ただの面倒な男じゃな……』

ペロペロが長い溜め息を吐いたが、私が気付くことはなかった。





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