3 / 13
王太子に関する注意事項
しおりを挟む
あっという間にデビュタント当日を迎えたナタリア。
「あ~、なんだか熱っぽい気がするわ。これは出かけるのは無理かも・・・」
朝から悪あがきを繰り広げてみるが、家族も使用人も誰一人取り合ってはくれない。
気付けばドレスを着せられ、初めてのメイクまでされてしまった。
私の地味顔って、メイクをしても全然変わらないのね。
ある意味すごいわ。
メイク殺しね・・・
「まぁ、ナタリア!なんて初々しいの!!これなら出会いのひとつやふたつやみっつ・・・」
あるわけがないでしょ。
お母様でも初々しさしか誉めるところがないのに。
そもそもデビュタントなんて、初々しい令嬢の集まりじゃないの。
ナタリアは至って冷静だった。
今夜の夜会では、兄のクリスがパートナーを務めてくれることになっている。
父の子爵が腰を痛めた為、急遽代役に抜擢されたのだ。
「クリス、ナタリア、わかっているとは思うが、拝謁の際は王太子殿下のお顔は絶対見てはならんぞ。不敬にあたるからな。目線を下げたままご挨拶するのだ。まあ、うちは爵位からしても最後の方だし、話しかけられることもないからすぐ終わるだろうが。もし具合が悪くなっても耐えろ」
「耐えろって・・・。殿下って、こちらの具合が悪くなるほど怖い人なの?昔から絶対顔を見るなって言われてたけれど。今回初めて間近でお会いするけれど、怒られたらどうしよう」
ただでさえマナーに自信が無いナタリアである。
王太子の面倒な取説まで聞かされて、すっかりテンションが下がってしまった。
そんなナタリアを見て、家族は焦った。
王太子が怖いというのは、もちろん嘘である。
彼のフェロモン体質について軽々しく口に出しにくい貴族の親は、息子や娘に「不敬だから」という理由で王太子との接触を禁じた。
失礼に当たるから、「目を合わせない、会話はしない、距離をとれ」。
これが貴族の暗黙の了解であり、親はこう教育することによって失神の危険から子供を守ろうとしていた。
しかし子供達だって、公の場に一度でも出れば王太子のフェロモンによる惨事は嫌でも目にするし、実際体験してしまう者も多い。
あんなにバタバタと人が倒れていくのである。
それはもはや、子供心に驚きとトラウマと興味が混ざって一生忘れられない記憶となり、子供の輪の中で噂が広まってしまうのは仕方のないことだった。
ナタリアの年齢なら、友人らの交遊からとっくに王太子の体質について自然と学び、暗黙の了解として受け止めているはずだった。
しかし、お茶会にも出ず、修道院にしか出かけないナタリアには、貴族なら知っていて当然の噂すら入ってこない。
「いや、怖くはないよ?ナタリアは噂で聞いたこともないの?王太子殿下はとても美しい方なんだ」
クリスが一生懸命フォローを試みる。
「美しい?見てはいけないのに、なんで美しいってわかるの?お兄様は見たことがあるの?あ、もしかして殿下は綺麗な顔だってみんなから見られるのがお嫌で、見るなって仰るの?」
「うーん、そういうことでもなくて、むしろ困るのは見る側というか・・・」
「何が困るというの?意味がわからないわ。美しいお顔なら見てみたいと思うのが普通じゃない?」
ナタリアの質問にタジタジになっているクリスに、父から助け船が出された。
「王太子殿下の美しい容貌は有名だし、まだ婚約者がいらっしゃらない。貴族同士の揉め事を回避する為に、みんなで配慮して距離をとるのだ。わかるだろう?」
強引に話をまとめたが、ナタリアが納得してくれるのか不安に思っていると。
「なんとなくわかったわ。他の令嬢と揉めるのはごめんだもの」
夜会は高位の令嬢に絡まれるものだと元々思い込んでいるナタリアは、美しい王太子の取り合いを防ぐ為に、協定が結ばれているのだと勝手に解釈をした。
「え?今ので理解したの?」と驚きつつ、クリスは厄介な質問から逃れられて胸を撫で下ろしていた。
「大丈夫。私、殿下に見染められたいなんてちっとも思っていないし、令嬢達に虐められない為にも絶対殿下の顔は見ないわ!」
明らかに勘違いをしているナタリアだが、事実を伝えることも出来ず、そのまま放置されたのだった。
「あ~、なんだか熱っぽい気がするわ。これは出かけるのは無理かも・・・」
朝から悪あがきを繰り広げてみるが、家族も使用人も誰一人取り合ってはくれない。
気付けばドレスを着せられ、初めてのメイクまでされてしまった。
私の地味顔って、メイクをしても全然変わらないのね。
ある意味すごいわ。
メイク殺しね・・・
「まぁ、ナタリア!なんて初々しいの!!これなら出会いのひとつやふたつやみっつ・・・」
あるわけがないでしょ。
お母様でも初々しさしか誉めるところがないのに。
そもそもデビュタントなんて、初々しい令嬢の集まりじゃないの。
ナタリアは至って冷静だった。
今夜の夜会では、兄のクリスがパートナーを務めてくれることになっている。
父の子爵が腰を痛めた為、急遽代役に抜擢されたのだ。
「クリス、ナタリア、わかっているとは思うが、拝謁の際は王太子殿下のお顔は絶対見てはならんぞ。不敬にあたるからな。目線を下げたままご挨拶するのだ。まあ、うちは爵位からしても最後の方だし、話しかけられることもないからすぐ終わるだろうが。もし具合が悪くなっても耐えろ」
「耐えろって・・・。殿下って、こちらの具合が悪くなるほど怖い人なの?昔から絶対顔を見るなって言われてたけれど。今回初めて間近でお会いするけれど、怒られたらどうしよう」
ただでさえマナーに自信が無いナタリアである。
王太子の面倒な取説まで聞かされて、すっかりテンションが下がってしまった。
そんなナタリアを見て、家族は焦った。
王太子が怖いというのは、もちろん嘘である。
彼のフェロモン体質について軽々しく口に出しにくい貴族の親は、息子や娘に「不敬だから」という理由で王太子との接触を禁じた。
失礼に当たるから、「目を合わせない、会話はしない、距離をとれ」。
これが貴族の暗黙の了解であり、親はこう教育することによって失神の危険から子供を守ろうとしていた。
しかし子供達だって、公の場に一度でも出れば王太子のフェロモンによる惨事は嫌でも目にするし、実際体験してしまう者も多い。
あんなにバタバタと人が倒れていくのである。
それはもはや、子供心に驚きとトラウマと興味が混ざって一生忘れられない記憶となり、子供の輪の中で噂が広まってしまうのは仕方のないことだった。
ナタリアの年齢なら、友人らの交遊からとっくに王太子の体質について自然と学び、暗黙の了解として受け止めているはずだった。
しかし、お茶会にも出ず、修道院にしか出かけないナタリアには、貴族なら知っていて当然の噂すら入ってこない。
「いや、怖くはないよ?ナタリアは噂で聞いたこともないの?王太子殿下はとても美しい方なんだ」
クリスが一生懸命フォローを試みる。
「美しい?見てはいけないのに、なんで美しいってわかるの?お兄様は見たことがあるの?あ、もしかして殿下は綺麗な顔だってみんなから見られるのがお嫌で、見るなって仰るの?」
「うーん、そういうことでもなくて、むしろ困るのは見る側というか・・・」
「何が困るというの?意味がわからないわ。美しいお顔なら見てみたいと思うのが普通じゃない?」
ナタリアの質問にタジタジになっているクリスに、父から助け船が出された。
「王太子殿下の美しい容貌は有名だし、まだ婚約者がいらっしゃらない。貴族同士の揉め事を回避する為に、みんなで配慮して距離をとるのだ。わかるだろう?」
強引に話をまとめたが、ナタリアが納得してくれるのか不安に思っていると。
「なんとなくわかったわ。他の令嬢と揉めるのはごめんだもの」
夜会は高位の令嬢に絡まれるものだと元々思い込んでいるナタリアは、美しい王太子の取り合いを防ぐ為に、協定が結ばれているのだと勝手に解釈をした。
「え?今ので理解したの?」と驚きつつ、クリスは厄介な質問から逃れられて胸を撫で下ろしていた。
「大丈夫。私、殿下に見染められたいなんてちっとも思っていないし、令嬢達に虐められない為にも絶対殿下の顔は見ないわ!」
明らかに勘違いをしているナタリアだが、事実を伝えることも出来ず、そのまま放置されたのだった。
1
お気に入りに追加
368
あなたにおすすめの小説
殿下をくださいな、お姉さま~欲しがり過ぎた妹に、姉が最後に贈ったのは死の呪いだった~
和泉鷹央
恋愛
忌み子と呼ばれ、幼い頃から実家のなかに閉じ込められたいた少女――コンラッド伯爵の長女オリビア。
彼女は生まれながらにして、ある呪いを受け継いだ魔女だった。
本当ならば死ぬまで屋敷から出ることを許されないオリビアだったが、欲深い国王はその呪いを利用して更に国を豊かにしようと考え、第四王子との婚約を命じる。
この頃からだ。
姉のオリビアに婚約者が出来た頃から、妹のサンドラの様子がおかしくなった。
あれが欲しい、これが欲しいとわがままを言い出したのだ。
それまではとても物わかりのよい子だったのに。
半年後――。
オリビアと婚約者、王太子ジョシュアの結婚式が間近に迫ったある日。
サンドラは呆れたことに、王太子が欲しいと言い出した。
オリビアの我慢はとうとう限界に達してしまい……
最後はハッピーエンドです。
別の投稿サイトでも掲載しています。
【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。
五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」
オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。
シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。
ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。
彼女には前世の記憶があった。
(どうなってるのよ?!)
ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。
(貧乏女王に転生するなんて、、、。)
婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。
(ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。)
幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。
最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。
(もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)
【完結】いわくつき氷の貴公子は妻を愛せない?
白雨 音
恋愛
婚約間近だった彼を親友に取られ、傷心していた男爵令嬢アリエルに、
新たな縁談が持ち上がった。
相手は伯爵子息のイレール。彼は妻から「白い結婚だった」と暴露され、
結婚を無効された事で、界隈で噂になっていた。
「結婚しても君を抱く事は無い」と宣言されるも、その距離感がアリエルには救いに思えた。
結婚式の日、招待されなかった自称魔女の大叔母が現れ、「この結婚は呪われるよ!」と言い放った。
時が経つ程に、アリエルはイレールとの関係を良いものにしようと思える様になるが、
肝心のイレールから拒否されてしまう。
気落ちするアリエルの元に、大叔母が現れ、取引を持ち掛けてきた___
異世界恋愛☆短編(全11話) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。
はずれの聖女
おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。
一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。
シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。
『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。
だがある日、アーノルドに想い人がいると知り……
しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。
なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
婚約者が姉からの一方的な恋文に悩んでいるので、「そんなんだから結婚できないんだ」と説教した。
ほったげな
恋愛
私の婚約者は性格が良く、イケメンである。そんな婚約者に、姉が恋文を送っているとのこと。婚約者が迷惑がっているので、姉に説教した。
魔法が使えなかった令嬢は、婚約破棄によって魔法が使えるようになりました
天宮有
恋愛
魔力のある人は15歳になって魔法学園に入学し、16歳までに魔法が使えるようになるらしい。
伯爵令嬢の私ルーナは魔力を期待されて、侯爵令息ラドンは私を婚約者にする。
私は16歳になっても魔法が使えず、ラドンに婚約破棄言い渡されてしまう。
その後――ラドンの婚約破棄した後の行動による怒りによって、私は魔法が使えるようになっていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる