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王太子に関する注意事項

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あっという間にデビュタント当日を迎えたナタリア。

「あ~、なんだか熱っぽい気がするわ。これは出かけるのは無理かも・・・」

朝から悪あがきを繰り広げてみるが、家族も使用人も誰一人取り合ってはくれない。
気付けばドレスを着せられ、初めてのメイクまでされてしまった。

私の地味顔って、メイクをしても全然変わらないのね。
ある意味すごいわ。
メイク殺しね・・・

「まぁ、ナタリア!なんて初々しいの!!これなら出会いのひとつやふたつやみっつ・・・」

あるわけがないでしょ。
お母様でも初々しさしか誉めるところがないのに。
そもそもデビュタントなんて、初々しい令嬢の集まりじゃないの。

ナタリアは至って冷静だった。

今夜の夜会では、兄のクリスがパートナーを務めてくれることになっている。
父の子爵が腰を痛めた為、急遽代役に抜擢されたのだ。

「クリス、ナタリア、わかっているとは思うが、拝謁の際は王太子殿下のお顔は絶対見てはならんぞ。不敬にあたるからな。目線を下げたままご挨拶するのだ。まあ、うちは爵位からしても最後の方だし、話しかけられることもないからすぐ終わるだろうが。もし具合が悪くなっても耐えろ」

「耐えろって・・・。殿下って、こちらの具合が悪くなるほど怖い人なの?昔から絶対顔を見るなって言われてたけれど。今回初めて間近でお会いするけれど、怒られたらどうしよう」

ただでさえマナーに自信が無いナタリアである。
王太子の面倒な取説まで聞かされて、すっかりテンションが下がってしまった。
そんなナタリアを見て、家族は焦った。

王太子が怖いというのは、もちろん嘘である。
彼のフェロモン体質について軽々しく口に出しにくい貴族の親は、息子や娘に「不敬だから」という理由で王太子との接触を禁じた。
失礼に当たるから、「目を合わせない、会話はしない、距離をとれ」。
これが貴族の暗黙の了解であり、親はこう教育することによって失神の危険から子供を守ろうとしていた。
しかし子供達だって、公の場に一度でも出れば王太子のフェロモンによる惨事は嫌でも目にするし、実際体験してしまう者も多い。
あんなにバタバタと人が倒れていくのである。
それはもはや、子供心に驚きとトラウマと興味が混ざって一生忘れられない記憶となり、子供の輪の中で噂が広まってしまうのは仕方のないことだった。

ナタリアの年齢なら、友人らの交遊からとっくに王太子の体質について自然と学び、暗黙の了解として受け止めているはずだった。
しかし、お茶会にも出ず、修道院にしか出かけないナタリアには、貴族なら知っていて当然の噂すら入ってこない。

「いや、怖くはないよ?ナタリアは噂で聞いたこともないの?王太子殿下はとても美しい方なんだ」

クリスが一生懸命フォローを試みる。

「美しい?見てはいけないのに、なんで美しいってわかるの?お兄様は見たことがあるの?あ、もしかして殿下は綺麗な顔だってみんなから見られるのがお嫌で、見るなって仰るの?」

「うーん、そういうことでもなくて、むしろ困るのは見る側というか・・・」

「何が困るというの?意味がわからないわ。美しいお顔なら見てみたいと思うのが普通じゃない?」

ナタリアの質問にタジタジになっているクリスに、父から助け船が出された。

「王太子殿下の美しい容貌は有名だし、まだ婚約者がいらっしゃらない。貴族同士の揉め事を回避する為に、みんなで配慮して距離をとるのだ。わかるだろう?」

強引に話をまとめたが、ナタリアが納得してくれるのか不安に思っていると。

「なんとなくわかったわ。他の令嬢と揉めるのはごめんだもの」

夜会は高位の令嬢に絡まれるものだと元々思い込んでいるナタリアは、美しい王太子の取り合いを防ぐ為に、協定が結ばれているのだと勝手に解釈をした。
「え?今ので理解したの?」と驚きつつ、クリスは厄介な質問から逃れられて胸を撫で下ろしていた。

「大丈夫。私、殿下に見染められたいなんてちっとも思っていないし、令嬢達に虐められない為にも絶対殿下の顔は見ないわ!」

明らかに勘違いをしているナタリアだが、事実を伝えることも出来ず、そのまま放置されたのだった。





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