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期限つきの交流

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「ジャック? ジャック、聴こえる?」

サラが何度か呼びかけるが、返事はない。
今日はまだジャックと一度も話せていない。

ジャックと話すようになって二週間。
最近ジャックの意識がない時間が多くなってきた気がする。
不安で心細くなったサラは、花屋のお客さんが途切れる度にジャックに声をかけに自室に戻っていた。

「ジャック!」
「なんだい、サラ」

いつもの穏やかなジャックの声が返ってきた。

「良かった。今日はなかなか返事がないから焦っちゃったわ」
「ごめんごめん。もう大丈夫だからお店に戻って?」

サラが階段を降りていく音を聴きながら、ジャックは「そろそろ潮時かな」と呟いていた。


その日の夜、夕飯を食べ終わってくつろぐサラに、ジャックは静かに話しかけた。

「サラ、話があるんだけど」
「なあに?」
「僕は多分、ハロウィンまでしかここにいられない」
「え?」
「最近、意識がないときが多いだろう? わかるんだ。もうすぐ僕は完全にここに戻れなくなる」
「嘘でしょう?」

サラは動揺で声が震えるのを抑えられなかった。
嫌な予感はしていたのだ。
もともとがかぼちゃのランタンである。
ハロウィンを過ぎても飾るものではないし、ハロウィンが終わったらどうなってしまうのだろうと。

しかし、いつもジャックは安心させるように大丈夫だと言ってくれた。
その言葉を信じたかった。

「大丈夫だって言ったのに……」

どんどん涙声になっていくサラ。

「ごめんね。僕もサラといつまでも一緒にいたい。だけど無理みたいだ」

絞り出すように苦しそうに告げるジャック。

サラは顔を上げると、涙をぬぐった。
泣いていたら残りの時間がもったいない。
泣くのはいつでも出来ることだ。
今は笑って過ごさないと。

わざと元気にサラは言った。

「ジャック、ハロウィンの夜までは平気なのよね? パーティーをする約束でしょう? 私、得意のミートローフを作る予定なんだから」
「そうだったね。パーティーに参加しなかったら、怒ったサラに僕の残りの歯も全部折られちゃいそうだしね」
「ジャック~? お望みなら今から折りましょうか?」
「もっと間抜けになっちゃうからやめて!!」
「「あははは!!」」

二人で思いっきり笑い合う。
ハロウィンまであと一週間。

『最後のその時まで一緒に笑っていよう』

サラはそう心に決めたのだった。




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