【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ

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テレサの「修道院大作戦」は不発に終わっていた。

正攻法がダメならと、泣き落としや、軽く脅迫めいたことも言ってみたが、却下されまくった。

まあ、それはそうだよね。
こんなご時世だし、普通に考えて誰も好き好んで貴族の娘を修道院には入れないよね。
虐待かと思われちゃう。

失敗続きの中、王太子の夜会の話をマートンから聞き、テレサは更に憂鬱になった。

今回も猫を被って、なんとかやり過ごさないと。
また元気な姿でシリウスお兄ちゃんに会えますように!



そして現在に至る。

夜会会場の前方ではバカ王子が声を張り上げていた。

「お前たちがミラを虐めているのはわかっているんだ!余程私の寵愛を受けるミラが疎ましいと見える。全員どうしてくれようか」

ピンクのドレスを纏った少女の腰を抱きながら怒鳴る王子。
その前には呆然と佇む高位令嬢が3名。
ザ・断罪劇が繰り広げられつつあった。

テレサの見立てでは、これは明らかにバカ王子によるでっち上げで、3人の令嬢ズは運が悪いとしかいいようがない。
ミラと呼ばれた少女も全く知らされていなかった様子だ。

いやいや、ミラまで驚いちゃってるし・・・
火のないところに煙を立てるのやめてくれないかな。
嫌われ王子の寵愛なんて、誰も欲しくないって。
ミラ、私はあなたに同情するよ。

気の毒だが、空気になっているテレサには全てが他人事である。
だからひっそりと人だかりに埋もれていた。

すると、動揺する令嬢達の前で、王子が思い付いたように叫んだ。

「よし!お前達にはサクッと修道院にでも行ってもらうか。鬱陶しいしな」

人々が息を飲む中、テレサだけはバカ王子の台詞に飛び付いた。

修道院キターーっ!!
いま修道院って言ったよね!?

念願の修道院という言葉を耳にした途端、テレサは人混みをかき分け、3人目の令嬢の右隣にしれーっと並ぶと、手を挙げてハッキリと告げた。

「黒幕はわたくしです!わたくしが皆様を代表して修道院へ参ります!!」

・・・

しばらくの沈黙の後、バカ王子が不審そうに問いかけてきた。 

「お前、誰だ?」

「わたくし、テレサ・ウィーズリーと申します。父は子爵籍を賜っております」

「いつからそこにいた?お前が黒幕とはどういうことだ?」

「さきほどからおりましたわ。そして言葉通り、こちらの3名の令嬢がミラ様を虐めたように見えたかもしれませんが、実際は全部わたくしが行ったことなのです」

は?

ミラも令嬢ズも、バカ王子ですらポカンとしている。
それはそうだろう。
虐めなんて存在していないし、今まで空気だったテレサのことを、彼らは今初めて認識したのだから。

先手必勝とばかりに、テレサは話し続けた。

「わたくしは大変な罪を犯しました。罰として、国内最北の修道院へ参ります。自分の罪を考えたら当然のことです。最北の、辛い過酷な土地で、ひたすら反省致しますので、どうかウィーズリー子爵家や家族はお許し下さい」

実際は全く過酷ではない修道院だが、あえてキツさを強調して言ってみたら、バカ王子は話に乗ってきた。

「そうか。自ら辛い修道院に入るとは、殊勝な心がけではないか。寒く汚い、僻地の修道院で死ぬまで反省するがよい。ああ、お前に免じて今回はウィーズリー子爵家は見逃してやる」

やったーー!!
チョロいぜ、バカ王子!!
確かに寒い僻地だけど、修道院は温かくて綺麗だもんねーっ。

まんまと修道院への切符を手に入れたテレサは、こっそりとほくそ笑んだ。

面白い余興になったと、意気揚々とバカ王子がミラを連れて会場を去ると、途端に令嬢ズに囲まれてしまった。

「ええと、テレサ様?なんであんな嘘をおっしゃったの?あなた虐めなんてしていないのに」

「本当に僻地の修道院へ行かれるおつもり?なんとかして撤回をしなければ」

「私達を庇うなんて・・・。あなたのおかげで私は無事でしたけど、なんでこんなことを・・・」

信じられないといった表情で令嬢ズに詰め寄られていると、父のマートンと、令嬢ズの父親達も加わった。

「私は修道院へ入りたかっただけなのです。ですからお気になさらず。私、今とても嬉しいのです」

本心を正直に述べたテレサだったが、過酷な王都生活に心が病んでしまったと勘違いされたらしい。
令嬢ズは次々とテレサの手を握ると、1番高位の侯爵令嬢が言った。

「テレサ様、しばらくの辛抱ですわ。こんなの間違っています。ね、お父様?心を強く持ってね。必ず呼び戻しますわ。あなたはわたくし達の恩人ですもの」

令嬢ズが皆で頷き、侯爵達にも頭を下げられてしまった。

いやいや、私が好きでやったことなのにな。
呼び戻すのは勘弁して欲しいわ、せっかく修道院に入れるのに。

かくして、テレサは自ら身代わりになった高潔な子爵令嬢として有名になってしまった。

修道院への出発の日には令嬢ズが駆け付け、「わたくし達は一生の親友よ」と豪華な荷物を持たされてしまい、テレサの家族は面食らっていた。

こうして、ひと月ぶりに再びテレサは最北の修道院へと旅立ったのだった。












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