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却下された願い
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あっという間に、王都に帰る日がやってきてしまった。
朝からテレサはドヨーンと暗く、周りはかける言葉が見つからない。
ここに来ればお兄ちゃんに会えるのはわかったけど、次はいつ来られるやら・・・
バカ王子の恐怖政治のせいで、絶対すぐには来られないし。
このまま会えなくなる訳ではないのに、テレサは悲しくて仕方がなかった。
「テレサ、おいで」
またしても手を広げてシリウスが待っている。
テレサは自分は寂しいのに、いつもと同じ様子のシリウスに腹を立てつつも、抱っこは魅力的で誘われるままギュッと抱き付いてしまう。
「ふふっ、今度は素直に抱っこされて偉いね。そんなに寂しがらなくても平気だから。あ、前みたいに足は絡ませてくれないの?」
クスクス笑いながら、からかうように昔の癖を指摘され、テレサは赤くなりながら口を尖らせた。
「あれは子供だったから・・・。もうやらないもの」
「残念だな。そうだ、夜にベッドの中でなら歓迎するよ?」
スパーン!!
シリウスが思いっきりエドモンに頭を叩かれていた。
「え?お兄ちゃん大丈夫?おじさま、急にどうしたの?」
すごい音だったけど、変な虫でもいたのかな?
恋愛や閨の話に疎いテレサには意味が通じなかったが、爽やかにとんでもないことを言った息子に父の鉄拳が炸裂した。
「気にしなくていいからね、テレサちゃん。おい、シリウス!何度も言うけど、お前一応神父だからな?」
エドモンがシリウスに説教を始めた隙に、アディーナがテレサに近寄った。
「テレサちゃん、そのブローチよく似合ってるわ。そのブローチには意味があるって知ってる?」
誕生日プレゼントにシリウスからもらったブローチを、テレサは胸元に付けていたが、何か意味があるなんてもちろん知らない。
ふるふると首を振ると、アディーナはテレサの耳元でこっそり囁いた。
「ここでは、そのブローチは最愛の女性に送るっていう風習があるのよ。あの子のこと、よろしくね」
ってことは、私がお兄ちゃんの最愛?
私、やっぱりお兄ちゃんのこと諦めない!
「はいっ!!」
元気よく答えると、アディーナは安心したように微笑み、テレサの手を握った。
テレサが馬車に乗り込むと、シリウスが窓のそばまでやって来て顔を寄せた。
言い忘れたことがあるのかと思い、テレサも窓を開けて顔を近付ける。
「どうしたの?」
「テレサ、次会える時までいい子で待ってて」
そう言うと、シリウスはするりとテレサの頬を撫でて離れていった。
窓からみんなに手を振りつつ、テレサは心に誓う。
絶対ここに戻ってくるから!!
お兄ちゃん、待ってて!!
1週間後、王都の屋敷に帰還したテレサは、久しぶりの家族に囲まれていた。
「よく戻ったな。途中、困ったことはなかったか?」
「お疲れ様、テレサ。久々の領地は楽しかったかしら?」
「お姉ちゃん、お帰りなさい!僕にお土産は?」
父、母、弟に次々と声をかけられたテレサは、興奮ぎみに答えた。
「とっても楽しかったし、素晴らしいことがあったの!」
修道院でエドモン一家と再会したことを話すと、父のマートンは泣き出してしまった。
嬉しいやら、気付けなくて情けないやら、色々と込み上げて来るものがあるらしい。
「父さまの領地経営の手腕を誉めてたよ」と伝えると、一層大声で泣き出した。
父さまってばこんなにボロボロ泣いちゃって・・・
あ、でももしかして今がチャンスかも?
どさくさに紛れてテレサは父にお願いしてみることにした。
「ね、父さま。私も修道院に入りたいんだけど、いいよね?」
「は?」
「だーかーらー、お兄ちゃんが神父様になってたから、私もシスターになろうかなって。いいでしょ?」
「アホか!ダメに決まってるだろ!いいはずあるか!!」
チッ!
ダメだったか・・・
雰囲気に飲まれてくれたらラッキーだったのに。
正攻法は無理そうだから、他の手を考えないと。
あっさりと作戦が失敗したテレサは、気持ちを切り替えると、すぐに他の方法を考え始めた。
突拍子もないことを言い始めたテレサを、母と弟が呆れた目で見ていた。
朝からテレサはドヨーンと暗く、周りはかける言葉が見つからない。
ここに来ればお兄ちゃんに会えるのはわかったけど、次はいつ来られるやら・・・
バカ王子の恐怖政治のせいで、絶対すぐには来られないし。
このまま会えなくなる訳ではないのに、テレサは悲しくて仕方がなかった。
「テレサ、おいで」
またしても手を広げてシリウスが待っている。
テレサは自分は寂しいのに、いつもと同じ様子のシリウスに腹を立てつつも、抱っこは魅力的で誘われるままギュッと抱き付いてしまう。
「ふふっ、今度は素直に抱っこされて偉いね。そんなに寂しがらなくても平気だから。あ、前みたいに足は絡ませてくれないの?」
クスクス笑いながら、からかうように昔の癖を指摘され、テレサは赤くなりながら口を尖らせた。
「あれは子供だったから・・・。もうやらないもの」
「残念だな。そうだ、夜にベッドの中でなら歓迎するよ?」
スパーン!!
シリウスが思いっきりエドモンに頭を叩かれていた。
「え?お兄ちゃん大丈夫?おじさま、急にどうしたの?」
すごい音だったけど、変な虫でもいたのかな?
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「気にしなくていいからね、テレサちゃん。おい、シリウス!何度も言うけど、お前一応神父だからな?」
エドモンがシリウスに説教を始めた隙に、アディーナがテレサに近寄った。
「テレサちゃん、そのブローチよく似合ってるわ。そのブローチには意味があるって知ってる?」
誕生日プレゼントにシリウスからもらったブローチを、テレサは胸元に付けていたが、何か意味があるなんてもちろん知らない。
ふるふると首を振ると、アディーナはテレサの耳元でこっそり囁いた。
「ここでは、そのブローチは最愛の女性に送るっていう風習があるのよ。あの子のこと、よろしくね」
ってことは、私がお兄ちゃんの最愛?
私、やっぱりお兄ちゃんのこと諦めない!
「はいっ!!」
元気よく答えると、アディーナは安心したように微笑み、テレサの手を握った。
テレサが馬車に乗り込むと、シリウスが窓のそばまでやって来て顔を寄せた。
言い忘れたことがあるのかと思い、テレサも窓を開けて顔を近付ける。
「どうしたの?」
「テレサ、次会える時までいい子で待ってて」
そう言うと、シリウスはするりとテレサの頬を撫でて離れていった。
窓からみんなに手を振りつつ、テレサは心に誓う。
絶対ここに戻ってくるから!!
お兄ちゃん、待ってて!!
1週間後、王都の屋敷に帰還したテレサは、久しぶりの家族に囲まれていた。
「よく戻ったな。途中、困ったことはなかったか?」
「お疲れ様、テレサ。久々の領地は楽しかったかしら?」
「お姉ちゃん、お帰りなさい!僕にお土産は?」
父、母、弟に次々と声をかけられたテレサは、興奮ぎみに答えた。
「とっても楽しかったし、素晴らしいことがあったの!」
修道院でエドモン一家と再会したことを話すと、父のマートンは泣き出してしまった。
嬉しいやら、気付けなくて情けないやら、色々と込み上げて来るものがあるらしい。
「父さまの領地経営の手腕を誉めてたよ」と伝えると、一層大声で泣き出した。
父さまってばこんなにボロボロ泣いちゃって・・・
あ、でももしかして今がチャンスかも?
どさくさに紛れてテレサは父にお願いしてみることにした。
「ね、父さま。私も修道院に入りたいんだけど、いいよね?」
「は?」
「だーかーらー、お兄ちゃんが神父様になってたから、私もシスターになろうかなって。いいでしょ?」
「アホか!ダメに決まってるだろ!いいはずあるか!!」
チッ!
ダメだったか・・・
雰囲気に飲まれてくれたらラッキーだったのに。
正攻法は無理そうだから、他の手を考えないと。
あっさりと作戦が失敗したテレサは、気持ちを切り替えると、すぐに他の方法を考え始めた。
突拍子もないことを言い始めたテレサを、母と弟が呆れた目で見ていた。
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