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テレサの野望
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「はぁ~、全くやってられないな。毎回毎回、無駄に集まりやがって。いい加減こっちの笑顔も限界だっつーの」
放心状態でうずくまるテレサの耳に、あまり態度のよろしくない、荒んだ声が飛び込んできた。
ん?これってお兄ちゃんの声?
まさかね・・・
しかし、そのまさかだった。
裏庭の隅で丸まっていたテレサが見上げると、そこには神父姿で悪態をつくシリウスが立っていた。
「あー、疲れた疲れた・・・って、テレサ!?なんでそんなところで小さくなっているの?あ、もしかして聞こえちゃってた?」
複雑な表情でテレサがコクリと頷くと、「あー、失敗したー」なんて言いながらも、シリウスはケロッとしている。
「もしかして、お兄ちゃんも猫を被っていたってこと?しかもずっと・・・」
尋ねながら、テレサはいよいよ泣きだしたい気持ちだった。
シリウスとの結婚は不可能だわ、今までずっと猫を被られていたやら、ショックが大きすぎたのである。
「当たり。でもテレサの前では猫を被っていたつもりはないよ。ただテレサの理想で居たかっただけ」
「どういうこと?」
「んー、テレサは王子様みたいな僕が好きなんでしょ?だからずっと好きでいてもらう為に、自然と優等生キャラになっちゃっただけ」
「じゃあさっきのは?お兄ちゃん、みんなに優しいじゃない。私だけじゃないもの」
「あれはテレサ以外のその他大勢用。どうでもいい人には猫を被ってる。え?同じに見えた?自分的には全然違うんだけど・・・」
なんだかよくわからないが、テレサはさっきの女性達とは区別されているらしい。
特別なのは嬉しいが、だからって結婚出来る訳でもなく、テレサは落ち込んだままだった。
「テレサ、なんでそんなに落ち込んでるの?そんなに僕が猫を被っていたのがショックだった?あ、女の子に囲まれてたのを見て焼き餅焼いちゃった?」
心配している風を装いながら、嬉しそうに訊いてくるシリウスが腹立たしい。
どうせ嫉妬してましたよ!
なにさ、お兄ちゃんがずっと期待を持たせたのがいけないんじゃない!!
「お兄ちゃんのバカ!!神父様は結婚出来ないくせに!!べ、べつに本気でお兄ちゃんと結婚したいとか思ってた訳じゃないけど・・・」
尻すぼみになっていくテレサの言葉とは裏腹に、シリウスは嬉しそうに破顔した。
「かーわいいなぁ。テレサは昔からほんと可愛い」
シリウスはテレサの前にしゃがみこむと、愛おしげにテレサの頭を撫でた。
「バカにしてるでしょ?」
つい上目遣いで睨んでしまう。
「してないよ。本気で言ってる。僕は昔からテレサだけが可愛いし、手放す気なんてこれっぽっちもないよ」
手放す気がない?
結婚出来ないのに??
しかしシリウスはそれ以上は何も言う気がないようで、しばらく微笑んでいたが、急に思い出したようにポケットから何かを取り出した。
「はい、誕生日プレゼント」
それはカルータ織の生地で出来た、星型のブローチだった。
「わぁ、可愛い。これってあのブックカバーと同じ色!」
「うん、僕の瞳の色だね」
「ありがとう!大事にするね」
一気に笑みが溢れたテレサに、シリウスも笑顔で頷いた。
その夜、客室でテレサは思案していた。
思ったんだけど、別に夫婦になれなくても一緒にいられる方法はあるんじゃない?
お兄ちゃんは手放す気はないって言ってくれたけど、つまり私が修道院に入ればいいってことでしょ。
神父様とシスターなら一緒にいられるし。
そうだよ!私ここが好きだし、何とかしてシスターになってみせるわ!!
テレサは勝手に決めつけると、シスターになるという野望に向けて、1人作戦を立て始めたのだった。
先走っていることに気付きもせずに・・・
放心状態でうずくまるテレサの耳に、あまり態度のよろしくない、荒んだ声が飛び込んできた。
ん?これってお兄ちゃんの声?
まさかね・・・
しかし、そのまさかだった。
裏庭の隅で丸まっていたテレサが見上げると、そこには神父姿で悪態をつくシリウスが立っていた。
「あー、疲れた疲れた・・・って、テレサ!?なんでそんなところで小さくなっているの?あ、もしかして聞こえちゃってた?」
複雑な表情でテレサがコクリと頷くと、「あー、失敗したー」なんて言いながらも、シリウスはケロッとしている。
「もしかして、お兄ちゃんも猫を被っていたってこと?しかもずっと・・・」
尋ねながら、テレサはいよいよ泣きだしたい気持ちだった。
シリウスとの結婚は不可能だわ、今までずっと猫を被られていたやら、ショックが大きすぎたのである。
「当たり。でもテレサの前では猫を被っていたつもりはないよ。ただテレサの理想で居たかっただけ」
「どういうこと?」
「んー、テレサは王子様みたいな僕が好きなんでしょ?だからずっと好きでいてもらう為に、自然と優等生キャラになっちゃっただけ」
「じゃあさっきのは?お兄ちゃん、みんなに優しいじゃない。私だけじゃないもの」
「あれはテレサ以外のその他大勢用。どうでもいい人には猫を被ってる。え?同じに見えた?自分的には全然違うんだけど・・・」
なんだかよくわからないが、テレサはさっきの女性達とは区別されているらしい。
特別なのは嬉しいが、だからって結婚出来る訳でもなく、テレサは落ち込んだままだった。
「テレサ、なんでそんなに落ち込んでるの?そんなに僕が猫を被っていたのがショックだった?あ、女の子に囲まれてたのを見て焼き餅焼いちゃった?」
心配している風を装いながら、嬉しそうに訊いてくるシリウスが腹立たしい。
どうせ嫉妬してましたよ!
なにさ、お兄ちゃんがずっと期待を持たせたのがいけないんじゃない!!
「お兄ちゃんのバカ!!神父様は結婚出来ないくせに!!べ、べつに本気でお兄ちゃんと結婚したいとか思ってた訳じゃないけど・・・」
尻すぼみになっていくテレサの言葉とは裏腹に、シリウスは嬉しそうに破顔した。
「かーわいいなぁ。テレサは昔からほんと可愛い」
シリウスはテレサの前にしゃがみこむと、愛おしげにテレサの頭を撫でた。
「バカにしてるでしょ?」
つい上目遣いで睨んでしまう。
「してないよ。本気で言ってる。僕は昔からテレサだけが可愛いし、手放す気なんてこれっぽっちもないよ」
手放す気がない?
結婚出来ないのに??
しかしシリウスはそれ以上は何も言う気がないようで、しばらく微笑んでいたが、急に思い出したようにポケットから何かを取り出した。
「はい、誕生日プレゼント」
それはカルータ織の生地で出来た、星型のブローチだった。
「わぁ、可愛い。これってあのブックカバーと同じ色!」
「うん、僕の瞳の色だね」
「ありがとう!大事にするね」
一気に笑みが溢れたテレサに、シリウスも笑顔で頷いた。
その夜、客室でテレサは思案していた。
思ったんだけど、別に夫婦になれなくても一緒にいられる方法はあるんじゃない?
お兄ちゃんは手放す気はないって言ってくれたけど、つまり私が修道院に入ればいいってことでしょ。
神父様とシスターなら一緒にいられるし。
そうだよ!私ここが好きだし、何とかしてシスターになってみせるわ!!
テレサは勝手に決めつけると、シスターになるという野望に向けて、1人作戦を立て始めたのだった。
先走っていることに気付きもせずに・・・
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