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気付いた現実
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修道院が視察の最終目的地だった為、3日ほど滞在させてもらうことにしたテレサ。
『息が詰まる王都からせっかく離れたんだもん、息抜きだって大切だよね』と、自分を甘やかすことにした。
ずっと会いたかったシリウスと再会出来たのだから、もう少し一緒に居たかったのである。
幸い修道院に部屋は空いていたので、シスターは「令嬢がこんな簡素なお部屋なんて・・・」と心配していたが、テレサは全く気にしない。
元々贅沢な生活をしている訳でもなく、むしろずっとここで生活したいと夢見るくらいだ。
視察に付いていた少数の護衛と侍女にも休日を与え、テレサは最北の修道院での休暇を思う存分楽しむことにした。
翌日、テレサはエドモンとアディーナの現在の家を訪れた。
「おばさま、ここのお庭のバラは変わった色で見ていて楽しいですね」
「そうでしょう?前の屋敷のバラも気に入っていたけれど」
「あ、それなら僭越ながら私がお世話をしていたので、今も元気ですよ」
「まぁぁ!!本当!?大変だったでしょう。ありがとう、テレサちゃん」
近くにはエドモンの畑があり、テレサも水を撒いたり、雑草を抜くお手伝いをした。
「貴族令嬢にやらせることじゃないよな。それに、本当は俺達もテレサちゃんにこんな口調で話してはいけないんだが・・・」
平民として暮らしているエドモンは、子爵令嬢のテレサにタメ口なのを気にしていたらしい。
「何を言っているんですか!おじさまはおじさまだもの。よそよそしくされたら悲しいです。私、今でもおじさまの娘だと思ってますから。あとはっきり言っちゃうと、土いじりの方が猫を被って夜会に出るより何百倍も楽しいです!」
「あはははは!!そうかそうか。いや、その気持ちはわかるよ。俺も王都にいた時より今の方が楽しいもんな」
「ふふ、見てればわかります。おじさま、生き生きしてるし、更にマッチョになってカッコよくなったもの」
「そうだろう?いやー、やっぱりテレサちゃんは見る目があ」
「テレサ、目が悪くなったんじゃないの?」
シリウスがエドモンを遮り、急に会話に加わった。
「あれ?お兄ちゃん、なんで畑に?」
「お昼のミサ、テレサも参加するかと思って呼びに来たんだよ。僕の神父ぶり、見たくない?」
シリウスお兄ちゃんのミサ!?
出ないという選択肢など、私にはない!!
「見たいです!!うわぁ、お兄ちゃんって本当に神父様なんだね」
「父さんよりカッコいいと思うよ?」
「ふふふっ、お兄ちゃんってば」
「土が付いているから」とテレサが遠慮するのを無視し、シリウスはテレサの手をとり、教会の方角へと歩いていく。
「あいつ・・・父親相手に余裕が無さすぎだろ・・・」
エドモンが2人を見送りながら苦笑していた。
昼のミサ終了後。
テレサは教会の影から、団子状態の人だかりを観察していた。
団子の中心には背の高いシリウスが見える
「神父様、今日のミサも素敵でした」
「やはりシリウス神父の低くて甘い声には引き込まれてしまいますね。信仰心が増したみたい」
「これ、朝焼いたお菓子です。良かったら・・・」
しまいには「ちょっと邪魔よ!」「あんたこそ邪魔なのよ!」といざこざが始まり、「神父様ー、結婚してー!」などと言い出す者まで現れ、教会の前は騒然となった。
すごい・・・
確かにお兄ちゃんの神父様っぷりはとてつもなく素敵で魂が抜けそうだったけど、こんなにライバルがいたなんて。
信仰心が増しちゃうって、なんだそりゃ!?
逆プロポーズまでされてるし・・・
お兄ちゃんは私と結婚する約束なんだからね!
テレサが一目惚れしたほどの容姿に、禁欲的な神父の色気が相まり、女の子達が群がるのも当然だった。
特にこんな田舎では、その眉目秀麗さが際立っている気がする。
しかし、初めてシリウスの人気ぶりを目の当たりにして、テレサは動揺を隠せなかった。
「ありがとうございます。皆さんの熱い信仰心は神にも届いていると思いますよ」
シリウスは笑顔で当たり障りなく彼女らに接している。
王子様スマイルは健在らしい。
テレサが遠くから嫉妬を感じながら眺めていると、シリウスが微笑んだままバッサリと切り捨てるのが聞こえた。
「申し訳ありませんが、私は神父なので結婚は出来ません」
え?
神父だから結婚出来ない!?
テレサは目の前が真っ暗になった。
そうだ、そうだった、私ってばなんで今まで気付かなかったの?
神父様とは結婚出来ないじゃない。
え、じゃあお兄ちゃんのお嫁さんになる夢はどうなるの?
せっかく再会出来たのに、お兄ちゃんのこと大好きなのに、もう無理ってこと?
あまりのショックに、テレサはヨロヨロとその場を離れた。
そうか、お兄ちゃんは約束を忘れちゃったんだ・・・
大変だったし、仕方ないよね。
でもお兄ちゃんのお嫁さんになりたかったな。
おじさまとおばさまの娘になりたかったな。
テレサは悲しすぎて涙も出ないまま、フラフラと修道院の裏庭までやって来ると、木陰にしゃがみ込んだ。
『息が詰まる王都からせっかく離れたんだもん、息抜きだって大切だよね』と、自分を甘やかすことにした。
ずっと会いたかったシリウスと再会出来たのだから、もう少し一緒に居たかったのである。
幸い修道院に部屋は空いていたので、シスターは「令嬢がこんな簡素なお部屋なんて・・・」と心配していたが、テレサは全く気にしない。
元々贅沢な生活をしている訳でもなく、むしろずっとここで生活したいと夢見るくらいだ。
視察に付いていた少数の護衛と侍女にも休日を与え、テレサは最北の修道院での休暇を思う存分楽しむことにした。
翌日、テレサはエドモンとアディーナの現在の家を訪れた。
「おばさま、ここのお庭のバラは変わった色で見ていて楽しいですね」
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近くにはエドモンの畑があり、テレサも水を撒いたり、雑草を抜くお手伝いをした。
「貴族令嬢にやらせることじゃないよな。それに、本当は俺達もテレサちゃんにこんな口調で話してはいけないんだが・・・」
平民として暮らしているエドモンは、子爵令嬢のテレサにタメ口なのを気にしていたらしい。
「何を言っているんですか!おじさまはおじさまだもの。よそよそしくされたら悲しいです。私、今でもおじさまの娘だと思ってますから。あとはっきり言っちゃうと、土いじりの方が猫を被って夜会に出るより何百倍も楽しいです!」
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「そうだろう?いやー、やっぱりテレサちゃんは見る目があ」
「テレサ、目が悪くなったんじゃないの?」
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「お昼のミサ、テレサも参加するかと思って呼びに来たんだよ。僕の神父ぶり、見たくない?」
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「あいつ・・・父親相手に余裕が無さすぎだろ・・・」
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すごい・・・
確かにお兄ちゃんの神父様っぷりはとてつもなく素敵で魂が抜けそうだったけど、こんなにライバルがいたなんて。
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