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テレサの想い人
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パリンッ!!
静寂に支配されていた会場内に、ふいにグラスが砕け散る音が響き渡った。
どうやらテレサの父が空気になりきれずにグラスを落としてしまったようだ。
あら、父さまってばあんなところにいたのね。
ごめん、被ってた猫脱げちゃった。
家には迷惑かけないように頑張るから許して!
こっそり謝ると、テレサは困惑からか眉を寄せた王太子を正面から見つめた。
突飛な行動に出てしまったテレサだったが、彼女には忘れられない初恋の男性がいる。
名前はシリウス、伯爵家の後継ぎだった。
初めてシリウスと出会ったのはまだテレサが5歳の時で、父のマートンが伯爵であるエドモンと昔馴染みだったことから、たまたま王都を訪れていたテレサもエドモンの屋敷へ一緒についていった。
そこでエドモンの1人息子のシリウスと、運命の出会いを果たしてしまったのである。
テレサより7つ年上のシリウスは12歳で、少年らしさはあるものの、スラリと伸びた手足と穏やかに微笑む姿は年齢より大人っぽく見えた。
綺麗なインディゴブルーの髪とアメジストのような瞳を持つ美しい容貌の彼に、テレサは一目で恋に落ちてしまった。
きゃーっ、まるで絵本の王子様みたい!
本物の王子様はまだ見たことないけど、絶対本物よりもかっこいいと思うの。
王子様に抱っこしてもらったらわたしもお姫様!?
舞い上がったテレサは初対面のシリウスに駆け寄ると、開口一番に叫んだ。
「抱っこ!!」
自分より背の高いシリウスに向かって腕を上げて抱っこをせがむテレサに、マートンが慌てて止めに入る。
「テレサ、失礼だろう!きちんとご挨拶をしなさい!!申し訳ない、礼儀が行き届かない娘で・・・」
しかしシリウスも最初こそ驚いた顔をしていたが、嫌なそぶりを見せるどころかクスクス笑うと、テレサを軽々と持ち上げて言った。
「はじめまして。テレサっていうの?可愛いね。僕はシリウスだよ。よろしくね」
「うんっ!!」
念願の抱っこをされて、もう離さないとばかりに足までシリウスの胴体に巻き付けるテレサに、エドモンも大笑いをしている。
「はははっ!随分好かれたもんだな。シリウスには兄弟がいないから、テレサちゃんがシリウスの妹になってあげてくれるかい?」
「まかせてっ!!」
テレサがエドモンに向かって元気良く返事をするが、マートンだけが娘の振る舞いに頭を抱えていた。
シリウスお兄ちゃん、あったかくていい匂いがする・・・
わたし、シリウスお兄ちゃんがだーいすき!
それからというもの、テレサは主に領地で暮らしている為、シリウスに宛てて手紙を欠かさずに送り、王都を訪れる際は必ず会いに行った。
シリウスの文字は流れるように美しく、手紙の内容も子供のテレサでも分かりやすく楽しいもので、会えない間もひたすらシリウスを想った。
その分会えたときは嬉しさを爆発させ、毎回抱っこをねだり、少しもシリウスの側を離れようとはしなかった。
すぐに妹という立ち位置に満足出来なくなったテレサは、シリウスにお願いしてみることにした。
「ねえ、シリウスお兄ちゃん、テレサが大きくなったらお嫁さんにしてくれる?」
「あはは!テレサが大人になっても僕のことを好きでいてくれたらね」
「大丈夫!絶対大好きだもん!!」
腕に抱きつくテレサの頭を、シリウスが優しく目を細めながら撫でた。
テレサは温かな未来を信じ、そのぬくもりに浸っていた。
いつまでもこの穏やかな日々が続くことを疑わずに・・・
しかし、そんな幸せな時間は突然終わりを迎えたのである。
静寂に支配されていた会場内に、ふいにグラスが砕け散る音が響き渡った。
どうやらテレサの父が空気になりきれずにグラスを落としてしまったようだ。
あら、父さまってばあんなところにいたのね。
ごめん、被ってた猫脱げちゃった。
家には迷惑かけないように頑張るから許して!
こっそり謝ると、テレサは困惑からか眉を寄せた王太子を正面から見つめた。
突飛な行動に出てしまったテレサだったが、彼女には忘れられない初恋の男性がいる。
名前はシリウス、伯爵家の後継ぎだった。
初めてシリウスと出会ったのはまだテレサが5歳の時で、父のマートンが伯爵であるエドモンと昔馴染みだったことから、たまたま王都を訪れていたテレサもエドモンの屋敷へ一緒についていった。
そこでエドモンの1人息子のシリウスと、運命の出会いを果たしてしまったのである。
テレサより7つ年上のシリウスは12歳で、少年らしさはあるものの、スラリと伸びた手足と穏やかに微笑む姿は年齢より大人っぽく見えた。
綺麗なインディゴブルーの髪とアメジストのような瞳を持つ美しい容貌の彼に、テレサは一目で恋に落ちてしまった。
きゃーっ、まるで絵本の王子様みたい!
本物の王子様はまだ見たことないけど、絶対本物よりもかっこいいと思うの。
王子様に抱っこしてもらったらわたしもお姫様!?
舞い上がったテレサは初対面のシリウスに駆け寄ると、開口一番に叫んだ。
「抱っこ!!」
自分より背の高いシリウスに向かって腕を上げて抱っこをせがむテレサに、マートンが慌てて止めに入る。
「テレサ、失礼だろう!きちんとご挨拶をしなさい!!申し訳ない、礼儀が行き届かない娘で・・・」
しかしシリウスも最初こそ驚いた顔をしていたが、嫌なそぶりを見せるどころかクスクス笑うと、テレサを軽々と持ち上げて言った。
「はじめまして。テレサっていうの?可愛いね。僕はシリウスだよ。よろしくね」
「うんっ!!」
念願の抱っこをされて、もう離さないとばかりに足までシリウスの胴体に巻き付けるテレサに、エドモンも大笑いをしている。
「はははっ!随分好かれたもんだな。シリウスには兄弟がいないから、テレサちゃんがシリウスの妹になってあげてくれるかい?」
「まかせてっ!!」
テレサがエドモンに向かって元気良く返事をするが、マートンだけが娘の振る舞いに頭を抱えていた。
シリウスお兄ちゃん、あったかくていい匂いがする・・・
わたし、シリウスお兄ちゃんがだーいすき!
それからというもの、テレサは主に領地で暮らしている為、シリウスに宛てて手紙を欠かさずに送り、王都を訪れる際は必ず会いに行った。
シリウスの文字は流れるように美しく、手紙の内容も子供のテレサでも分かりやすく楽しいもので、会えない間もひたすらシリウスを想った。
その分会えたときは嬉しさを爆発させ、毎回抱っこをねだり、少しもシリウスの側を離れようとはしなかった。
すぐに妹という立ち位置に満足出来なくなったテレサは、シリウスにお願いしてみることにした。
「ねえ、シリウスお兄ちゃん、テレサが大きくなったらお嫁さんにしてくれる?」
「あはは!テレサが大人になっても僕のことを好きでいてくれたらね」
「大丈夫!絶対大好きだもん!!」
腕に抱きつくテレサの頭を、シリウスが優しく目を細めながら撫でた。
テレサは温かな未来を信じ、そのぬくもりに浸っていた。
いつまでもこの穏やかな日々が続くことを疑わずに・・・
しかし、そんな幸せな時間は突然終わりを迎えたのである。
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