1 / 13
恐怖の夜会
しおりを挟む
それは満月が輝き、爽やかな風が吹き抜ける静かな夜だった。
まもなく王城の門が見えてくる頃、夜道を走る馬車の中には最終確認に余念のない貴族の親子がいた。
「テレサ、今夜もわかっているな?」
「モチのロンってなもんよ!父さま、もう耳タコだわ」
いまいちノリの軽い娘に一抹の不安を感じ、父は念のため言っておくことにする。
「城に着いたらちゃんと猫を被るんだぞ?」
「大丈夫。私の猫は飼い慣らされてるから心配いらないわ」
「それならいいが・・・。ではいつもの合言葉だ。せーの」
同時に息を吸った父子は、見つめ合いながら声を揃えてハッキリと唱える。
「「群れない、話さない、空気になれ!!」」
もはや家訓となったお馴染みの台詞だったが、唱えたことで気合いが入った様子の娘に、父親はとりあえず安堵の息を吐いた。
テレサは子爵家の長女で、先月16才になった。
田舎の領地で暮らしていた期間が長いからか、振る舞いはおろか、普段の話し方や思考も令嬢からはかけ離れて成長してしまったが、公の場で猫を被ることだけは学んでいた。
今日は王太子主催の夜会が城でひらかれる為、テレサは父である子爵のマートンと共に出席をする予定になっていた。
弟がまだ幼いことから、ここ数年専ら母は屋敷で留守番をしており、まだ婚約者のいないテレサが父のパートナー役をつとめているのである。
テレサ達の乗った馬車が城の門を通過した直後、馬車は音もなく止まり、2人は並んで降り立った。
城まではまだ距離があるが、爵位が低い彼らはここからは歩いて向かわねばならないのだ。
あー、歩くのは全然構わないんだけど、空気がすでに重いわ・・・。
みんな顔色が冴えないし、いかにも嫌々来ましたって感じ。
ま、それはそうだよね。
テレサは見知った顔に目礼をしつつ、マートンと腕を組みながら歩を進める。
周囲にはテレサ父子と同じく城に向かう貴族で溢れていたが、その表情は一様に暗く、言葉を発する勇気のある者はいなかった。
なぜならこの国は今、絶賛恐怖政治真っ只中なのである。
国王が病に臥し、唯一の子供である王太子が国王代理として政治の指揮をとっているのだが、この王太子がとんでもなくワガママで常識が無い、ロクデナシ男だったのだ。
はぁ~、あのバカ王子、絶対今日もなんかやらかすに決まってる!
わざわざ自ら夜会を催すなんて、一体何のワナ?
目立たず巻き込まれないようにして、何がなんでも生きて家に帰ってやるわ!!
優雅に歩きつつ、テレサは心の中で王子の悪口を並び立てていた。
まもなく王城の門が見えてくる頃、夜道を走る馬車の中には最終確認に余念のない貴族の親子がいた。
「テレサ、今夜もわかっているな?」
「モチのロンってなもんよ!父さま、もう耳タコだわ」
いまいちノリの軽い娘に一抹の不安を感じ、父は念のため言っておくことにする。
「城に着いたらちゃんと猫を被るんだぞ?」
「大丈夫。私の猫は飼い慣らされてるから心配いらないわ」
「それならいいが・・・。ではいつもの合言葉だ。せーの」
同時に息を吸った父子は、見つめ合いながら声を揃えてハッキリと唱える。
「「群れない、話さない、空気になれ!!」」
もはや家訓となったお馴染みの台詞だったが、唱えたことで気合いが入った様子の娘に、父親はとりあえず安堵の息を吐いた。
テレサは子爵家の長女で、先月16才になった。
田舎の領地で暮らしていた期間が長いからか、振る舞いはおろか、普段の話し方や思考も令嬢からはかけ離れて成長してしまったが、公の場で猫を被ることだけは学んでいた。
今日は王太子主催の夜会が城でひらかれる為、テレサは父である子爵のマートンと共に出席をする予定になっていた。
弟がまだ幼いことから、ここ数年専ら母は屋敷で留守番をしており、まだ婚約者のいないテレサが父のパートナー役をつとめているのである。
テレサ達の乗った馬車が城の門を通過した直後、馬車は音もなく止まり、2人は並んで降り立った。
城まではまだ距離があるが、爵位が低い彼らはここからは歩いて向かわねばならないのだ。
あー、歩くのは全然構わないんだけど、空気がすでに重いわ・・・。
みんな顔色が冴えないし、いかにも嫌々来ましたって感じ。
ま、それはそうだよね。
テレサは見知った顔に目礼をしつつ、マートンと腕を組みながら歩を進める。
周囲にはテレサ父子と同じく城に向かう貴族で溢れていたが、その表情は一様に暗く、言葉を発する勇気のある者はいなかった。
なぜならこの国は今、絶賛恐怖政治真っ只中なのである。
国王が病に臥し、唯一の子供である王太子が国王代理として政治の指揮をとっているのだが、この王太子がとんでもなくワガママで常識が無い、ロクデナシ男だったのだ。
はぁ~、あのバカ王子、絶対今日もなんかやらかすに決まってる!
わざわざ自ら夜会を催すなんて、一体何のワナ?
目立たず巻き込まれないようにして、何がなんでも生きて家に帰ってやるわ!!
優雅に歩きつつ、テレサは心の中で王子の悪口を並び立てていた。
104
お気に入りに追加
679
あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

もっと傲慢でいてください、殿下。──わたしのために。
ふまさ
恋愛
「クラリス。すまないが、今日も仕事を頼まれてくれないか?」
王立学園に入学して十ヶ月が経った放課後。生徒会室に向かう途中の廊下で、この国の王子であるイライジャが、並んで歩く婚約者のクラリスに言った。クラリスが、ですが、と困ったように呟く。
「やはり、生徒会長であるイライジャ殿下に与えられた仕事ですので、ご自分でなされたほうが、殿下のためにもよろしいのではないでしょうか……?」
「そうしたいのはやまやまだが、側妃候補のご令嬢たちと、お茶をする約束をしてしまったんだ。ぼくが王となったときのためにも、愛想はよくしていた方がいいだろう?」
「……それはそうかもしれませんが」
「クラリス。まだぐだぐだ言うようなら──わかっているよね?」
イライジャは足を止め、クラリスに一歩、近付いた。
「王子であるぼくの命に逆らうのなら、きみとの婚約は、破棄させてもらうよ?」
こう言えば、イライジャを愛しているクラリスが、どんな頼み事も断れないとわかったうえでの脅しだった。現に、クラリスは焦ったように顔をあげた。
「そ、それは嫌です!」
「うん。なら、お願いするね。大丈夫。ぼくが一番に愛しているのは、きみだから。それだけは信じて」
イライジャが抱き締めると、クラリスは、はい、と嬉しそうに笑った。
──ああ。何て扱いやすく、便利な婚約者なのだろう。
イライジャはそっと、口角をあげた。
だが。
そんなイライジャの学園生活は、それから僅か二ヶ月後に、幕を閉じることになる。

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

あなたの破滅のはじまり
nanahi
恋愛
家同士の契約で結婚した私。夫は男爵令嬢を愛人にし、私の事は放ったらかし。でも我慢も今日まで。あなたとの婚姻契約は今日で終わるのですから。
え?離縁をやめる?今更何を慌てているのです?契約条件に目を通していなかったんですか?
あなたを待っているのは破滅ですよ。

「最初から期待してないからいいんです」家族から見放された少女、後に家族から助けを求められるも戦勝国の王弟殿下へ嫁入りしているので拒否る。
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられた少女が幸せなるお話。
主人公は聖女に嵌められた。結果、家族からも見捨てられた。独りぼっちになった彼女は、敵国の王弟に拾われて妻となった。
小説家になろう様でも投稿しています。

皇太子から愛されない名ばかりの婚約者と蔑まれる公爵令嬢、いい加減面倒臭くなって皇太子から意図的に距離をとったらあっちから迫ってきた。なんで?
下菊みこと
恋愛
つれない婚約者と距離を置いたら、今度は縋られたお話。
主人公は、婚約者との関係に長年悩んでいた。そしてようやく諦めがついて距離を置く。彼女と婚約者のこれからはどうなっていくのだろうか。
小説家になろう様でも投稿しています。

私の療養中に、婚約者と幼馴染が駆け落ちしました──。
Nao*
恋愛
素適な婚約者と近く結婚する私を病魔が襲った。
彼の為にも早く元気になろうと療養する私だったが、一通の手紙を残し彼と私の幼馴染が揃って姿を消してしまう。
どうやら私、彼と幼馴染に裏切られて居たようです──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。最終回の一部、改正してあります。)

【完結済】侯爵令息様のお飾り妻
鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる