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彼は私のミューズです。

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なんなの、この顔!
素晴らしく理想的な顔だわ!!

この顔を見ていると、作りたい服のアイデアがどんどん浮かんでくるのは何故かしら。
体型も素晴らしいし、彼に着せたい斬新な服のインスピレーションが湧き出てくるわ。
はっ!もしかして、これがミューズというものなのでは?
そうよ、ミューズ!
彼は私のミューズなのだわ!!

顔を紅潮させ、立ち尽くすソフィーの腕を、父が軽く叩いた。

「ソフィー?どうした?挨拶するんじゃないのか?」

そうでした!
あまりの衝撃に、我を忘れていましたね。

「失礼致しました。はじめまして。ソフィーと申します。ライアン様ですね?」

「ああ、そうだ。」

ライアンが答えるのを待ち、ソフィーは先手必勝とばかりに、勢いよく言った。

「私と結婚して下さい!!」

「おおっ!!」と、伯爵が喜びの声をあげたが、父が慌ててソフィーを止めた。
ライアンは、嫌そうな顔を隠そうともしていない。

「待て待て待て、ソフィー。話が違うだろう?やんわり断るっていう約束はどうした?誰がガツンとプロポーズしろと言った?」

父が明らかに動揺している。
当然だろう。

「お父様、状況が変わりました。私はミューズを失う訳には参りません。」

「ミューズ?何を言っているんだ?」

ソフィーをたしなめる父を邪魔だと感じたのか、伯爵が援護射撃に出た。

「ライアン、ソフィー嬢に庭を案内してあげなさい。」

「え?」

「まぁ、それは素敵!!ライアン様、それでは参りましょうか。お父様、しばらく伯爵様とお話ししてらして。」

露骨に面倒臭そうな表情をしているライアンの背を押しながら、ソフィーは強引にその場を離れた。



「まったく、こんなところまで連れてきて。私は結婚する気などない。」

庭園の奥まで引っ張って行くと、ライアンがソフィーを見下ろしながらキッパリと言った。

ですよね。
知ってます。
気持ちもわかります。

「私もさっきまで絶対結婚したくないと思っていました。ガツンとお断りをするつもりで来ましたし、ライアン様が帰ってきた時は正直、『帰ってきちゃったか』って思いました。」

ソフィーの赤裸々な告白に、ライアンは呆気に取られていた。

「『この女は一体何を言ってるんだ?』って思いますよね。でもライアン様の顔を見た瞬間、結婚したいと思ったのです。」

「なんだ、この顔か。悪いが、そんなくだらない理由で結婚などしない。」

少しも悪いとは思っていない、むしろ軽蔑するような言い方だった。

「それは困ります。私の夢と人生がかかっておりますの。」

「ハッ、私の地位と財産目当てか。そんなに裕福な暮らしがしたいか。呆れるな。」

ソフィーと話すことすら苦痛になってきたのか、顔を反らした。

「そんなもの要りませんわ。私は自分で稼ぎたいのですもの。その為に、あなたが必要なのです。」

「何?」

ソフィーの話に興味が出たのか、ライアンはソフィーを見た。
このタイミングを逃してはいけないとソフィーは感じ、捲し立てた。

「私は服をデザインしたり、作るのが趣味なのです。店を持ち、結婚はせず、自立して生きていこうと考えていました。しかし、ライアン様を一目見た途端、作るべき服や方向性が嵐のように襲って来たのです!ライアン様は私のミューズなのです!!手放すわけにはいきません!!」

ソフィーの熱い語りを、冷静な表情でただ聞いていたライアンだったが、一旦ソフィーが話し終わると、質問をしてきた。

「私が仮に君のミューズだとして、何故結婚しないといけない?」

確かに最もな意見だ。
見るだけでいいなら、結婚までする必要はない。

「単純に、旦那様なら顔を見る機会が多いというのと、採寸や、着付けを手伝ったり、手直しをしたくて脱いでもらったりというのが、妻の立場でないとやりにくいと思ったので・・・」

仮にも令嬢が、身内でもない男性に頻繁に会いに行ったり、触ったり、試着をお願いするなんてありえないことだ。
依頼されて作るならまだしも、一方的にというのは無理がある。
変な噂が立ちかねない。

「言い分はわかった。では君には結婚のメリットがあるとして、私には何かメリットになることがあるか?」

ライアンは例え結婚しても、自分に利がないと思っているらしい。
利がないから断ると言うつもりだろう。

ソフィーはなんとかして、ライアンにとっての結婚のメリットを捻り出すことにした。


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