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心強い円陣
しおりを挟む私は今、卒業パーティーの会場、学院の大ホールに立っている。
生徒会のメンバー以外は、まだ開場時間より早い為、中に入ることは出来ない。
「やあ、アメリア。迎えに行けなくてすまなかった。贈ったドレス、よく似合っているよ。」
燕尾服を見事に着こなしたクロードが、私の姿を眺め、満足そうに微笑みながら声をかけてきた。
その後ろから、
「二人でお喋り出来るのはここまでだからねー。開場したら、劇までの時間は私がクロード様を拘束しちゃうもーん。」
フリル満載のピンク色のドレスを着て、おろした髪にヘアバンドのようにリボンを結んでいるセレンが現れた。
なんてあざとかわいいの!!
「セレン、完璧なヒロインだわ!!」
「そうでしょー。」
アメリアに誉められて、セレンは上機嫌でクルッと回ってみせた。
一方クロードは、
「これほどまでに魅力的なアメリアと婚約破棄して、こんなピンクと付き合うなんて、僕はなんて馬鹿な男の役なんだ。」
「クロード様、こんなピンクはひどいですぅ。」
プリプリ怒るセレンと、ガックリと肩を落とすクロードに思わず笑ってしまう。
「照明はバッチリです。」
「会場のチェックは完了しました。」
「気の早い卒業生が集まっていますが、開場時間を早めますか?」
カイル、フレディ、エミールが集まってきた。
皆、着飾っていつもより華やかな集団が出来上がっていた。
開場してしまえば、劇が始まるまで皆がそろうことはもうない。
急に寂しさを感じ、心細くなった私は、お守りがわりにお願いをすることにした。
「あの、みんなで円陣を組んでもいいかしら?」
「円陣?」
キョトンとした顔をされた。
それはそうだ、前世の記憶がある私しか知らない言葉なのだから。
円陣を組む令息、令嬢なんて小説やゲームに出てきたことはない。
肩を組むのはさすがに令嬢向きじゃないし、手を添えるバージョンだったらいける気がする。
私は円陣について一生懸命説明した。
皆の気持ちを高め、一致団結して頑張れる魔法の儀式なのだと。
なんのこっちゃ。
「私がファイトーって言ったら、皆重ねた手のひらを少し下げながら、オーッって言って欲しいの。」
「なんだかよくわからないが、アメリアの希望ならやってみよう。」
「おもしろーい。やりましょやりましょー。」
アメリアの意見は絶対の、クロードとセレンがすぐに賛成し、クロードがまず手を前に出した。
その上にセレンが手を重ね、フレディ、カイル、エミールも更に上に手を乗せていく。
「ほら、アメリア」
クロードが私を促したので、少しドキドキしながら一番上に手を乗せた。
私は皆の顔を順番に見ながら、じゃあいきますねと声をかける。
「ファイトーッ!!」
「「「「「オオーーーッ」」」」」
重ねた手のひらの温かさを感じ、一人じゃないと思える。
「なんか感動してしまいました。このメンバーに入れて良かったです。なんて・・・。私、開場してきますね!」
エミールが涙を拭いながら、入り口に向かって足早に去っていく。
「この6人で何かをやるのも最後ですからね。」
「今の円陣っていうの?私、気に入っちゃったー。」
フレディとセレンの言葉に笑顔を返しながら、無事に余興が終わったら今度はハイタッチをしようと、心の中で考えていた。
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