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仲良い二人
しおりを挟む生徒会室を後にしたアメリアとクロードは、共に帰りの馬車に揺られていた。
クロードはクリプトン公爵家の長男である。
しかしその高貴な身分を鼻にかけることもなく、いつも穏やかで紳士的。
その上、整った外見をしている為、彼を密かに狙う令嬢は多い。
アメリアは、自分にはもったいない婚約者だと思いつつも、クロードを他の令嬢に譲る気なんてさらさらなかった。
王家からの褒賞として父が現在の屋敷を貰い受け、偶然クリプトン公爵家と隣同士になり、5歳で出会ったその日からクロードのことを想い続けているのだ。
12歳で婚約の話が出た時には、踊り出しそうなほど嬉しかった。
もちろん貴族令嬢の為、我慢をしたが。
政略的な意味も多少はある。
しかし婚約が決まった際、クロードも「アメリアと婚約出来て嬉しい。」と、はにかみながら言ったのだ。
それ以来、学院へ入学し、18歳になった今現在まで大きなケンカも無く、ずっと仲良く寄り添ってきた。
学院の卒業後、結婚へ向けた話を進めることになっている。
二人は学院でもお似合いのカップルと言われている。
アメリアにかまって欲しい後輩のセレンが、並ぶ二人の間に割り込み、揉めるセレンとクロードを、呆れ顔でフレディが仲裁するのも日常の風景だ。
アメリアとしては、いつも公平で大人っぽいクロードが、セレン相手にムキになってアメリアを取り合う様子に心をくすぐられ、つい本気で二人を止められないでいる。
セレンもそれを解って敢えてやっているのか、アメリアとクロードが二人きりの時には邪魔をしに来ることはない。
彼女いわく、『出来た妹』なのである。
乗り慣れた、快適な公爵家の馬車に向き合って座っていると、クロードが余興の劇について話し始めた。
「まさか、アメリアが劇をやりたいと言い出すとは思わなかったよ。何かやりたい演目でもあるのかい?」
「特にまだ何も思い付いてはいないのです。ただ面白そうかなって。学院での生活も残り少ないですから、最後にクロードとの楽しい思い出が作れたらなっていう思い付きで・・・」
アメリアは言いながら恥ずかしくなってしまうが、クロードは嬉しそうに頷いた。
「そうだな。絶対楽しいものにしよう。あ、でも・・・」
クロードが言い淀むなんて珍しい。
アメリアが首を傾げながら次の言葉を待っていると、
「姫とか、女神、女騎士役は駄目だ。あと魔法使いも駄目だな。」
何か妙なことを言い出した。
「なぜ駄目なのですか?」
思わず尋ねたアメリアに、クロードは顔を赤くしながら、
「アメリアが演じたら魅力的過ぎるからに決まっているだろう!」
当たり前のように言いきられてしまった。
アメリアの魅力的な姿を、皆に見せたくないということだろうか?
自分に魅力があるとはとうてい思えないが、予期せぬところで彼の独占欲を感じ、アメリアも頬を染めながら言い返す。
「クロードこそ、王子様とか勇者様なんて駄目ですからね。一昨年の会長みたいに、皆が虜になってしまったら困ります。」
先々代の生徒会長も、元からそれなりに整った顔をしてはいたが、怪盗の衣装を着て役に入ると別人のように格好良く見えてしまったのだ。
心を盗まれた生徒は数知れず。
もしかして、教師の中にも盗まれた人が居たかもしれない。
クロードなんて、普段の制服姿から格好良いのだ。
会場中の人が好きになってしまうに違いない。
いくら婚約者という立場であっても、不安なものは不安なのである。
思わず眉が下がってしまったアメリアを、クロードが正面から軽く抱き寄せた。
「いつだって僕が虜にしたいのはアメリアだけだ。」
甘く耳元で囁かれ、
「そんなのとっくに虜になってます・・・」
クロードの肩に真っ赤な顔を埋めながら、アメリアは小さく呟いた。
遠くから、「またやってるよ!」と言う後輩達の呆れ声が聞こえた気がした。
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