上 下
63 / 69

心を掴む王子様。

しおりを挟む
伯爵令嬢のミシェルは、幼い頃から他の令嬢に囲まれ、チヤホヤされて育った。
ミシェルの父より爵位が低い貴族の令嬢達は、父親からミシェルには逆らうなと教えられていたからである。
その為、その集団の中ではいつもミシェルが一番で、ミシェルが命じれば皆がそれに従った。

気に入らない令嬢がいれば、社交場に顔を出さなくなるまで虐め抜いた。
ジェシーもその被害者の一人だったのである。


今、ミシェルの周囲に令嬢はいない。
全員捕まり、二度と王都で姿を見ることはないだろう。
残念ながら、ミシェルはまだその事実に気付いてはいないが。

取り巻きがいなくなったミシェルが、父親に訊いた。

「お父様、彼女達はいつ戻ってきますの?それまで一人だと不便なので、お友達を補充しませんと。」

彼女にとって、友達とは簡単に入れ換えが効くものらしい。
友達の家を再建すると言っていたのも、使い勝手の良かった令嬢を、傍に置いておきたかっただけのようだ。

「おおっ、それはそうだな。私にももう少し骨のある友人が必要だな。しかし、若い令嬢はどこ行ったのだ?」

リリーが隣室へ移動した後に入ってきた伯爵は、彼女達の行き先を知らない為、キョロキョロしている。

「さきほど、あの忌々しい田舎者の元伯爵令嬢と一緒に、隣の部屋へ行きましたわ。」

うーわー・・・

リリーの兄、アーサーは呆れていた。

あんなに分かりやすく怒っているラインハルト王子の前で、更にリリーを侮辱しちゃったよ。
『忌々しい』『田舎者』『元伯爵令嬢』って、トリプル悪口だしな。
うちが侯爵を賜ったこと、そんなに認めたくないんだな。

「私も隣のお茶会に参加して、お友達を見繕ってくることにしますわ。ジェシーだったかしら?あの娘、お友達にしてあげてもいいわ。」

なんだと?
お前のせいでジェシーがどれだけ傷付いたと!!

アーサーが非難の声をあげようとしたが、先にラインハルトがキレた。

「あのさ、さっきからお前、何言ってるわけ?お前みたいな性悪に友達が出来るわけないし、今から没落するお前に近付く馬鹿がいると思うか?」

「え?あの、ラインハルト様?」

急に口調が悪くなったラインハルトに、ミシェルは聞き間違いかと思い、声をかけた。
いつも上品に微笑む、キラキラの王子様とは思えない発言だからである。
アーサーですら、耳を疑ったくらいだ。

「田舎者、田舎育ちとリリーのことを馬鹿にするが、その田舎で暮らす人々が国を支えていることにどうして気付かない?貴族でありながら、何故民を大切に思わない?お前達が何よりも下賤で忌々しい存在だ。」

キッパリと言い切ったラインハルトに貴族達も驚いていたが、静まり返った会場に、次第に拍手と歓声が湧きあがった。
アーサーも大きく手を叩き、国王、王妃も微笑んでいた。

ミシェルは最初目を丸くしていたが、大勢の前で憧れの王子に叱責されたことがショックだったようで、顔を真っ赤にして俯いている。
ナムール伯爵は娘を罵倒され、嫌悪感をあらわにしてラインハルトを見ていた。


ここでラインハルトが国王に向き直った。

「父上、この先は国王にお任せします。この方達は権力が全てで、お金と力にしか興味がないようですので、国王が適任かと。」

ラインハルトの言葉に頷くと、国王が壇上からゆっくり降りてきた。
いよいよクライマックスかと、貴族が息を潜めたが。

「おおっ、国王様。私は前から思っていたのですが、国王様は息子に甘すぎるのでは?こちらが臣下とはいえ、ラインハルト王子の私と娘に対する態度は目に余ります!これでは可愛い娘を嫁がせるのが心配ですよ。ああ、私は国王の忠臣としてあえて苦言を申しているのですよ?」

税をちょろまかしていながら、忠臣などと恥ずかしげもなく言えるメンタル・・・

ラインハルトが鼻で笑っていると、国王が面白そうに言った。

「ラインハルト、私はお前に甘いらしいぞ?確かにさきほどの口調は、皆を驚かせたかもしれんな。私は愉快だったが。」

ラインハルトは国王に並び立つと、貴族を見回しながら言った。

「大切な婚約者に対して、心ない言葉を浴びせられ、我を忘れました。どうかさきほどの事はお忘れ下さいますよう。」

いつもの礼儀正しい態度と、満面のキラキラ王子様スマイル。

「大切な者を悪く言われたら当然のことです!」

「私は悪い口調の王子も素敵だと思いましたわ。」

最終的に、ラインハルトをそこまで怒らせたナムール伯爵が悪いという雰囲気になり、愛するリリーを守ろうとしたラインハルトへの支持が爆上がりする結果となった。

アーサーとウィリアムは、『やっぱりあの王子は一筋縄ではいかない』と感心していたのだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。 そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。 日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

エイミーと旦那さま ② ~伯爵とメイドの攻防~

トウリン
恋愛
※『エイミーと旦那さま』の第二部です。 遠く離れていた旦那さまの2年ぶりの帰還。ようやくまたお世話をさせていただけると安堵するエイミーだったけれど、再会した旦那さまは突然彼女に求婚してくる。エイミーの戸惑いを意に介さず攻めるセドリック。理解不能な旦那さまの猛追に困惑するエイミー。『大事だから彼女が欲しい』『大事だから彼を拒む』――空回りし、すれ違う二人の想いの行く末は?

処理中です...