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心を掴む王子様。
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伯爵令嬢のミシェルは、幼い頃から他の令嬢に囲まれ、チヤホヤされて育った。
ミシェルの父より爵位が低い貴族の令嬢達は、父親からミシェルには逆らうなと教えられていたからである。
その為、その集団の中ではいつもミシェルが一番で、ミシェルが命じれば皆がそれに従った。
気に入らない令嬢がいれば、社交場に顔を出さなくなるまで虐め抜いた。
ジェシーもその被害者の一人だったのである。
今、ミシェルの周囲に令嬢はいない。
全員捕まり、二度と王都で姿を見ることはないだろう。
残念ながら、ミシェルはまだその事実に気付いてはいないが。
取り巻きがいなくなったミシェルが、父親に訊いた。
「お父様、彼女達はいつ戻ってきますの?それまで一人だと不便なので、お友達を補充しませんと。」
彼女にとって、友達とは簡単に入れ換えが効くものらしい。
友達の家を再建すると言っていたのも、使い勝手の良かった令嬢を、傍に置いておきたかっただけのようだ。
「おおっ、それはそうだな。私にももう少し骨のある友人が必要だな。しかし、若い令嬢はどこ行ったのだ?」
リリーが隣室へ移動した後に入ってきた伯爵は、彼女達の行き先を知らない為、キョロキョロしている。
「さきほど、あの忌々しい田舎者の元伯爵令嬢と一緒に、隣の部屋へ行きましたわ。」
うーわー・・・
リリーの兄、アーサーは呆れていた。
あんなに分かりやすく怒っているラインハルト王子の前で、更にリリーを侮辱しちゃったよ。
『忌々しい』『田舎者』『元伯爵令嬢』って、トリプル悪口だしな。
うちが侯爵を賜ったこと、そんなに認めたくないんだな。
「私も隣のお茶会に参加して、お友達を見繕ってくることにしますわ。ジェシーだったかしら?あの娘、お友達にしてあげてもいいわ。」
なんだと?
お前のせいでジェシーがどれだけ傷付いたと!!
アーサーが非難の声をあげようとしたが、先にラインハルトがキレた。
「あのさ、さっきからお前、何言ってるわけ?お前みたいな性悪に友達が出来るわけないし、今から没落するお前に近付く馬鹿がいると思うか?」
「え?あの、ラインハルト様?」
急に口調が悪くなったラインハルトに、ミシェルは聞き間違いかと思い、声をかけた。
いつも上品に微笑む、キラキラの王子様とは思えない発言だからである。
アーサーですら、耳を疑ったくらいだ。
「田舎者、田舎育ちとリリーのことを馬鹿にするが、その田舎で暮らす人々が国を支えていることにどうして気付かない?貴族でありながら、何故民を大切に思わない?お前達が何よりも下賤で忌々しい存在だ。」
キッパリと言い切ったラインハルトに貴族達も驚いていたが、静まり返った会場に、次第に拍手と歓声が湧きあがった。
アーサーも大きく手を叩き、国王、王妃も微笑んでいた。
ミシェルは最初目を丸くしていたが、大勢の前で憧れの王子に叱責されたことがショックだったようで、顔を真っ赤にして俯いている。
ナムール伯爵は娘を罵倒され、嫌悪感をあらわにしてラインハルトを見ていた。
ここでラインハルトが国王に向き直った。
「父上、この先は国王にお任せします。この方達は権力が全てで、お金と力にしか興味がないようですので、国王が適任かと。」
ラインハルトの言葉に頷くと、国王が壇上からゆっくり降りてきた。
いよいよクライマックスかと、貴族が息を潜めたが。
「おおっ、国王様。私は前から思っていたのですが、国王様は息子に甘すぎるのでは?こちらが臣下とはいえ、ラインハルト王子の私と娘に対する態度は目に余ります!これでは可愛い娘を嫁がせるのが心配ですよ。ああ、私は国王の忠臣としてあえて苦言を申しているのですよ?」
税をちょろまかしていながら、忠臣などと恥ずかしげもなく言えるメンタル・・・
ラインハルトが鼻で笑っていると、国王が面白そうに言った。
「ラインハルト、私はお前に甘いらしいぞ?確かにさきほどの口調は、皆を驚かせたかもしれんな。私は愉快だったが。」
ラインハルトは国王に並び立つと、貴族を見回しながら言った。
「大切な婚約者に対して、心ない言葉を浴びせられ、我を忘れました。どうかさきほどの事はお忘れ下さいますよう。」
いつもの礼儀正しい態度と、満面のキラキラ王子様スマイル。
「大切な者を悪く言われたら当然のことです!」
「私は悪い口調の王子も素敵だと思いましたわ。」
最終的に、ラインハルトをそこまで怒らせたナムール伯爵が悪いという雰囲気になり、愛するリリーを守ろうとしたラインハルトへの支持が爆上がりする結果となった。
アーサーとウィリアムは、『やっぱりあの王子は一筋縄ではいかない』と感心していたのだった。
ミシェルの父より爵位が低い貴族の令嬢達は、父親からミシェルには逆らうなと教えられていたからである。
その為、その集団の中ではいつもミシェルが一番で、ミシェルが命じれば皆がそれに従った。
気に入らない令嬢がいれば、社交場に顔を出さなくなるまで虐め抜いた。
ジェシーもその被害者の一人だったのである。
今、ミシェルの周囲に令嬢はいない。
全員捕まり、二度と王都で姿を見ることはないだろう。
残念ながら、ミシェルはまだその事実に気付いてはいないが。
取り巻きがいなくなったミシェルが、父親に訊いた。
「お父様、彼女達はいつ戻ってきますの?それまで一人だと不便なので、お友達を補充しませんと。」
彼女にとって、友達とは簡単に入れ換えが効くものらしい。
友達の家を再建すると言っていたのも、使い勝手の良かった令嬢を、傍に置いておきたかっただけのようだ。
「おおっ、それはそうだな。私にももう少し骨のある友人が必要だな。しかし、若い令嬢はどこ行ったのだ?」
リリーが隣室へ移動した後に入ってきた伯爵は、彼女達の行き先を知らない為、キョロキョロしている。
「さきほど、あの忌々しい田舎者の元伯爵令嬢と一緒に、隣の部屋へ行きましたわ。」
うーわー・・・
リリーの兄、アーサーは呆れていた。
あんなに分かりやすく怒っているラインハルト王子の前で、更にリリーを侮辱しちゃったよ。
『忌々しい』『田舎者』『元伯爵令嬢』って、トリプル悪口だしな。
うちが侯爵を賜ったこと、そんなに認めたくないんだな。
「私も隣のお茶会に参加して、お友達を見繕ってくることにしますわ。ジェシーだったかしら?あの娘、お友達にしてあげてもいいわ。」
なんだと?
お前のせいでジェシーがどれだけ傷付いたと!!
アーサーが非難の声をあげようとしたが、先にラインハルトがキレた。
「あのさ、さっきからお前、何言ってるわけ?お前みたいな性悪に友達が出来るわけないし、今から没落するお前に近付く馬鹿がいると思うか?」
「え?あの、ラインハルト様?」
急に口調が悪くなったラインハルトに、ミシェルは聞き間違いかと思い、声をかけた。
いつも上品に微笑む、キラキラの王子様とは思えない発言だからである。
アーサーですら、耳を疑ったくらいだ。
「田舎者、田舎育ちとリリーのことを馬鹿にするが、その田舎で暮らす人々が国を支えていることにどうして気付かない?貴族でありながら、何故民を大切に思わない?お前達が何よりも下賤で忌々しい存在だ。」
キッパリと言い切ったラインハルトに貴族達も驚いていたが、静まり返った会場に、次第に拍手と歓声が湧きあがった。
アーサーも大きく手を叩き、国王、王妃も微笑んでいた。
ミシェルは最初目を丸くしていたが、大勢の前で憧れの王子に叱責されたことがショックだったようで、顔を真っ赤にして俯いている。
ナムール伯爵は娘を罵倒され、嫌悪感をあらわにしてラインハルトを見ていた。
ここでラインハルトが国王に向き直った。
「父上、この先は国王にお任せします。この方達は権力が全てで、お金と力にしか興味がないようですので、国王が適任かと。」
ラインハルトの言葉に頷くと、国王が壇上からゆっくり降りてきた。
いよいよクライマックスかと、貴族が息を潜めたが。
「おおっ、国王様。私は前から思っていたのですが、国王様は息子に甘すぎるのでは?こちらが臣下とはいえ、ラインハルト王子の私と娘に対する態度は目に余ります!これでは可愛い娘を嫁がせるのが心配ですよ。ああ、私は国王の忠臣としてあえて苦言を申しているのですよ?」
税をちょろまかしていながら、忠臣などと恥ずかしげもなく言えるメンタル・・・
ラインハルトが鼻で笑っていると、国王が面白そうに言った。
「ラインハルト、私はお前に甘いらしいぞ?確かにさきほどの口調は、皆を驚かせたかもしれんな。私は愉快だったが。」
ラインハルトは国王に並び立つと、貴族を見回しながら言った。
「大切な婚約者に対して、心ない言葉を浴びせられ、我を忘れました。どうかさきほどの事はお忘れ下さいますよう。」
いつもの礼儀正しい態度と、満面のキラキラ王子様スマイル。
「大切な者を悪く言われたら当然のことです!」
「私は悪い口調の王子も素敵だと思いましたわ。」
最終的に、ラインハルトをそこまで怒らせたナムール伯爵が悪いという雰囲気になり、愛するリリーを守ろうとしたラインハルトへの支持が爆上がりする結果となった。
アーサーとウィリアムは、『やっぱりあの王子は一筋縄ではいかない』と感心していたのだった。
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