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王子様はリリーに勝てない。

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串焼き屋で腹ごなしをした後は、いよいよ本格的に散策である。
相変わらず手を繋いでいるラインハルトとリリーは、仲良く通りを歩き始めた。

「気になるお店があったら言って。僕のオススメの店にも連れていくけど。」

「はい!色々あって、目移りしちゃって・・・。あ、あの雑貨のお店が可愛くて気になります。」

「じゃあ入ってみようか。」

その雑貨屋も、あらかじめラインハルトが手を回している為、店員もお忍びのことを理解し、心得ていた。
サクラの客も配置済である。

「いらっしゃいませー。」

二人が店に入ると、店内の目に入りやすい場所にペアの雑貨が並んでいた。
ラインハルトがリリーとお揃いのものを欲しがっていた為、様々な店で敢えてそういうレイアウトが施されていた。

うわぁ、可愛いものがたくさんあります。
領地にはこんなお店無かったので、ワクワクしちゃいますね。
ハルト様には可愛すぎるかもしれませんが、ぜひ一緒に使いたいです!

「ハルト様、見て下さい!この可愛いカップ、2つ合わせると柄が出来上がるんです。こっちのペンは色違いでペアなんですね。私、ハルト様とお揃いのものが欲しいです。」

自分が望んでいたことを、リリーから言い出してくれたことに、ラインハルトはこの上もない喜びを感じていた。

「僕も同じことを考えていたよ。いくつかペアで買っていこう。」

結局、雑貨屋ではリリーが見ていたカップと、持ち手が色違いのペーパーナイフを購入した。
お互い送りあった手紙を、このナイフで開けるのである。

これはハルト様からのお手紙専用にしましょう。
手紙を開けるのまで楽しくなります。

リリーは自分でお金を払うつもりだったが、ラインハルトが全部払ってしまった。

「こちらのカップは僕が持って帰るね。柄がバラバラになったら可哀想だし。城で一緒に使おう。」

「そうですね。片方じゃ寂しいですね。」

「早く毎日一緒に使える日が来るといいよね。」

「はい!・・・え?それって・・・」

リリーにしては鋭く、すぐに結婚したいという意味だと気付き、ボフッと赤くなった。

この雑貨屋は町の人たちが普通に買いに来る庶民的な店の為、購入した物も決して高価な物では無かったが、二人にとって大切なカップとペーパーナイフになったのだった。


雑貨屋を出ると、花屋があった。
花屋で懐かしい野花が所狭しと飾られているのに気付いたが、その中に領地で特に好きだった花を見つけ、リリーは歓声をあげた。
王都ではなかなか見られない花だったからである。

「ここの花を全部下さい。スペンサー家に届けてもらえますか?」

ラインハルトが花屋にあった野花の全てを買い取ってしまい、リリーは驚いた。

「ハルト様、そんなにたくさんいただけません。」

「贈らせて欲しい。リリーを領地には返してあげられないから、せめてこれくらいね。あ、百合は全部城宛でお願いします。」

百合だけ城に配達を頼んでいる。

「リリーの名前が百合だから、百合も大好きになったんだ。」

照れ臭そうに言うラインハルトに胸が高鳴り、城に配達を頼んだらお忍びになってないことなど、リリーは全く気付いていなかった。

その後、屋台のキャンディ屋へ向かい、カラフルなキャンディが詰まった瓶を、二人で選び合う。
キャンディの種類や、瓶の形が様々あることにリリーは喜んでいたが、ラインハルトは一つ盗むように奪っていった男爵令嬢に腹を立てていた。
秘書官がこっそりと報告をしていたのである。

リリーの為だけに用意したのに、よりによってリリーが目にする前に奪うとは!

ラインハルトは顔には出ていなかったが、リリーは違和感を感じ、瓶を一つ選ぶとさっさと代金を支払い、キャンディを一粒ラインハルトの口に入れた。

むごっ

急にキャンディを口に放り込まれ、ラインハルトが驚いてリリーを見ると、リリーはイタズラが成功したような顔をして笑っていた。

「ハルト様、今違うことを考えていたでしょう?油断大敵ですよ!!」

思わずラインハルトは笑ってしまった。

油断大敵って。
油断してるとキャンディを詰め込まれるって、なんだそれ。

「やったな、リリー。」

ラインハルトがやり返そうとしているのがわかり、リリーは駆け出した。
急に始まった鬼ごっこに、まわりにいた人々も笑い出した。

「待て、リリー!」

「走るのは負けませんよー。」

『不穏な空気を醸し出していたラインハルトが、一瞬にして笑顔になり、街中を駆け回っている』と、影から報告を受けた王妃は、城で笑い転げていた。

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