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育ち始めた淡い想い。

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パーティーも無事終わり、リリーは自室に戻っていた。

「朝から疲れただろう。今日はもうゆっくり休みなさい。」

と、父のウィリアムに勧められたからである。

寝支度が済み、ベッドの中でリリーは、今日のパーティーを興奮が覚めないまま思い起こしていた。

まさか、ハルト様がいらっしゃるなんて。

いまだ信じられず、抱きしめられた感触を思い出すように腕に軽く触れてみる。
今は暗くてよく見えないが、ラベンダー色のドレスがかけられている方角に目をやった。

この場にラインハルトも居てくれたら、そう考えていた時に魔法のように現れたラインハルトに、リリーはとてつもない喜びを感じた。
ドレスを誉められ、笑顔を見せられ、胸が締め付けられる気がした。

この感情は一体なんなのかしら。
でもハルト様に会えて嬉しかったわ。
私、ハルト様にずっと会いたかったんだわ。
それに、今だって会いたい・・・

自身の感情に戸惑いながらも、ラインハルトに次に会える日を楽しみに、リリーは目を瞑った。


リリーが初めての感情を抱きながら眠りにつく頃、リリーの家族はリリー抜きの家族会議を開いていた。

「まさかラインハルト様がいらっしゃるなんてな。これはご本人にも、更には王家にもそれだけの覚悟と心積もりがあるということだろう。」

すっかり疲れて、年を取ったかのようなウィリアムが力なく言う。

「どう受け取られても構わないという意思を感じましたね。リリーを見る目にも熱がこもってましたし。あそこの御兄弟は、目を付けた令嬢を逃がしませんからね。」

「あら、それはもはや血筋よ。国王もそうでしたもの。でも、大事なのはリリーの気持ちよ。リリーが嬉しそうでしたから、私は応援したいです。」

母のアンの言葉に、ウィリアムとアーサーが項垂れる。
二人とも、本当はもうわかっていた。
ラインハルトの本気も、リリーのラインハルトに対する気持ちも。

リリーはまだ恋だとは自覚していないかもしれないが、傍から見ているからこそわかることもある。
あの瞳と表情は、まさに恋する乙女そのものであった。
愛するリリーを手離す覚悟はまだ出来ないが、今日の会議はリリーをこれからも見守っていくことで一致したのである。

そしてその頃のジェシーとオーウェンは・・・

「もう、何なのかしら、あんな堂々とリリーに!!」

怒るジェシーとそれを宥めるオーウェン。

「もう諦めなさい。リリーも喜んでいたし、王子は本気だよ。」

「本気だからって何よ!お兄様ったらすっかり弱腰になっちゃって情けない。」

そうなのだ。
パーティーで突如現れた第3王子は、リリーを誉めまくって浮かれた後、やはり長居は不味いと思ったのか帰ると言い出した。
寂しそうな顔を見せたリリーだったが、「ではお土産を」と、自分の作ったお菓子を包み出した。
事件はその時に起こった。

ラインハルトがオーウェンに近付き、言ったのだ。

「あなたがリリーの幼馴染みかな?いつも彼女と仲良くしてくれてありがとう。これからは僕も一緒に仲良くしてもらえるかな?」

目が笑っていない笑顔と、とてつもない圧を感じ、オーウェンは早々に音をあげることにしたのだった。
そんな兄にさりげなく蹴りを入れ、ジェシーが強気で見返してくるのを、ラインハルトは面白そうに微笑んでいた。

「あの王子、絶対性格悪いわよ。私だけでも立ち向かうわ!!」

すっかり昔のお転婆を取り戻したジェシーが、一人息巻いていた。





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