34 / 69
育ち始めた淡い想い。
しおりを挟むパーティーも無事終わり、リリーは自室に戻っていた。
「朝から疲れただろう。今日はもうゆっくり休みなさい。」
と、父のウィリアムに勧められたからである。
寝支度が済み、ベッドの中でリリーは、今日のパーティーを興奮が覚めないまま思い起こしていた。
まさか、ハルト様がいらっしゃるなんて。
いまだ信じられず、抱きしめられた感触を思い出すように腕に軽く触れてみる。
今は暗くてよく見えないが、ラベンダー色のドレスがかけられている方角に目をやった。
この場にラインハルトも居てくれたら、そう考えていた時に魔法のように現れたラインハルトに、リリーはとてつもない喜びを感じた。
ドレスを誉められ、笑顔を見せられ、胸が締め付けられる気がした。
この感情は一体なんなのかしら。
でもハルト様に会えて嬉しかったわ。
私、ハルト様にずっと会いたかったんだわ。
それに、今だって会いたい・・・
自身の感情に戸惑いながらも、ラインハルトに次に会える日を楽しみに、リリーは目を瞑った。
リリーが初めての感情を抱きながら眠りにつく頃、リリーの家族はリリー抜きの家族会議を開いていた。
「まさかラインハルト様がいらっしゃるなんてな。これはご本人にも、更には王家にもそれだけの覚悟と心積もりがあるということだろう。」
すっかり疲れて、年を取ったかのようなウィリアムが力なく言う。
「どう受け取られても構わないという意思を感じましたね。リリーを見る目にも熱がこもってましたし。あそこの御兄弟は、目を付けた令嬢を逃がしませんからね。」
「あら、それはもはや血筋よ。国王もそうでしたもの。でも、大事なのはリリーの気持ちよ。リリーが嬉しそうでしたから、私は応援したいです。」
母のアンの言葉に、ウィリアムとアーサーが項垂れる。
二人とも、本当はもうわかっていた。
ラインハルトの本気も、リリーのラインハルトに対する気持ちも。
リリーはまだ恋だとは自覚していないかもしれないが、傍から見ているからこそわかることもある。
あの瞳と表情は、まさに恋する乙女そのものであった。
愛するリリーを手離す覚悟はまだ出来ないが、今日の会議はリリーをこれからも見守っていくことで一致したのである。
そしてその頃のジェシーとオーウェンは・・・
「もう、何なのかしら、あんな堂々とリリーに!!」
怒るジェシーとそれを宥めるオーウェン。
「もう諦めなさい。リリーも喜んでいたし、王子は本気だよ。」
「本気だからって何よ!お兄様ったらすっかり弱腰になっちゃって情けない。」
そうなのだ。
パーティーで突如現れた第3王子は、リリーを誉めまくって浮かれた後、やはり長居は不味いと思ったのか帰ると言い出した。
寂しそうな顔を見せたリリーだったが、「ではお土産を」と、自分の作ったお菓子を包み出した。
事件はその時に起こった。
ラインハルトがオーウェンに近付き、言ったのだ。
「あなたがリリーの幼馴染みかな?いつも彼女と仲良くしてくれてありがとう。これからは僕も一緒に仲良くしてもらえるかな?」
目が笑っていない笑顔と、とてつもない圧を感じ、オーウェンは早々に音をあげることにしたのだった。
そんな兄にさりげなく蹴りを入れ、ジェシーが強気で見返してくるのを、ラインハルトは面白そうに微笑んでいた。
「あの王子、絶対性格悪いわよ。私だけでも立ち向かうわ!!」
すっかり昔のお転婆を取り戻したジェシーが、一人息巻いていた。
34
お気に入りに追加
905
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~
くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」
幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。
ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。
それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。
上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。
「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」
彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく……
『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
【完結】冷徹公爵、婚約者の思い描く未来に自分がいないことに気づく
もふきゅな
恋愛
冷徹な公爵アルトゥールは、婚約者セシリアを深く愛していた。しかし、ある日、セシリアが描く未来に自分がいないことに気づき、彼女の心が別の人物に向かっていることを知る。動揺したアルトゥールは、彼女の愛を取り戻すために全力を尽くす決意を固める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる