30 / 69
独占欲丸出しのドレス。
しおりを挟むリリーの誕生パーティーを1週間後に控えた日の午後。
リリーは家族でお茶を楽しんでいた。
「いよいよあと1週間ね。準備も順調に進んでいるから安心してね。」
母が微笑みながらパーティーの話題を持ち出した。
いよいよ来週なのね。
ジェシーとオー兄さまも楽しみにしてくれているみたいだし、だんだん実感が湧いてきたわ。
手が足りないならいつでも言って欲しいって力強い言葉も貰ったし。
「領地の皆も喜んでいたからね。気が早い者はそろそろこちらに着きそうだぞ。準備から手伝いたいらしい。」
「まあ、お父様!招待客なのにお手伝いなんて、ジェシーとオー兄さまといい、このままじゃ当日みんな働いてるかもしれません。」
本気とも冗談ともとれるリリーの言葉に、家族が笑っていた時だった。
「ご歓談中、失礼致します。お嬢様に贈り物が届いております。お持ちしてもよろしいでしょうか。」
侍女のアイラがノックの後、入室してきた。
「私に?珍しいわね。どなたからなの?」
王都に知り合いの少ないリリーには身に覚えがなく、領地の誰かからだと予想していた。
「それが・・・」
チラッと父と兄をみやり、言いにくそうに続けた。
「第3王子のラインハルト様からです。」
えええぇぇぇぇぇ!!
とリリーが心の中で叫ぶより早く、
「なんだって!?」
「なんで第3王子が!!いや、中身はなんだ?」
父と兄が立ち上がって大騒ぎです。
でも、ハルト様からお手紙以外をいただくのは初めてだわ。
スープを作りに行って以来、顔を合わせてはいないが、王妃とラインハルトそれぞれと手紙のやり取りはしていた。
「では、こちらにお持ち致しますので、少々お待ち下さいませ。」
アイラは頭を下げて出ていったと思うと、他にも侍女を引き連れて戻ってきた。
皆、手に大小様々な大きさの箱を持っている。
え?
一体いくつあるの?
「アイラ、こんなにあるの?これ全部ハルト様から?」
「左様でございます。お手紙がこちらに。」
アイラから手紙を受け取り、目を通す。
相変わらず綺麗な字だ。
『リリー、誕生日パーティーを催すらしいね。僕に内緒のつもりだったのかな?水くさいな。確かに王家の人間に声はかけにくいよね。せめてお祝いの気持ちとして、ドレスを贈らせて欲しい。身に付けたリリーを見られないのが残念だ。良いパーティーを!』
要約するとそんな感じの手紙だった。
「ハルト様、どこからパーティーの話を知ったのかしら。突然ドレスなんて。」
リリーのドレスは当然依頼済みであった。
もう出来てくる頃合いだ。
そして、貴族の誕生パーティーに王族が出席することは、政治的な意味合いを避ける為にまず無い。
贈り物も、婚約者ならともかく、普通の貴族令嬢宛など聞いたこともない。
「これはドレスなのか?」
「は?婚約者でもないのに!?」
相変わらずうるさい父と兄をスルーし、母が「開けてみましょうよ。」とリリーを促す。
確かに開けないわけにもいかないし、正直気になるわ。
両親以外からドレスを贈られるなんて、生まれて初めてなんだもの。
しかも王子様から!!
じわじわと嬉しさに包まれながら、一番大きな箱のリボンをほどく。
出てきたのは・・・
ラインハルトの瞳、淡いラベンダー色の上品なドレスであった。
ところどころ金色が入っていて、上質なものだとよくわかる。
リリーはドレスを持ち、鏡の前で体に当ててみた。
派手すぎず、柔らかな素材を何重にも重ね、ふんわりとしたラインのドレスがリリーによく似合っていた。
「まあまあまあ!!なんて素敵なの!!リリーにぴったりね。さすが殿下だわ。」
「はい!お嬢様の雰囲気によくお似合いです!!」
母のアンとアイラが興奮している。
他の箱には、靴やアクセサリー一式が入っていた。
「こんな独占欲丸出しのドレスを贈ってくるとはな。」
「どうみても王子の髪と瞳の色ですからね。またリリーによく似合っているのが悔しいところです・・・」
「わかる!わかるぞ!!やめろと言いたいが、着てみて欲しくもあるという・・・」
父と兄の葛藤を経て、リリーは当日ラインハルトのドレスを纏うことになったのだった。
33
お気に入りに追加
901
あなたにおすすめの小説
自信家CEOは花嫁を略奪する
朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」
そのはずだったのに、
そう言ったはずなのに――
私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。
それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ?
だったら、なぜ?
お願いだからもうかまわないで――
松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。
だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。
璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。
そしてその期間が来てしまった。
半年後、親が決めた相手と結婚する。
退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜
白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。
私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。
けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?
関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。
竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。
『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』
❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。
*乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。
*表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。
*いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。
*他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。
【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない
金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ!
小説家になろうにも書いてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる