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独占欲丸出しのドレス。

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リリーの誕生パーティーを1週間後に控えた日の午後。
リリーは家族でお茶を楽しんでいた。

「いよいよあと1週間ね。準備も順調に進んでいるから安心してね。」

母が微笑みながらパーティーの話題を持ち出した。

いよいよ来週なのね。
ジェシーとオー兄さまも楽しみにしてくれているみたいだし、だんだん実感が湧いてきたわ。
手が足りないならいつでも言って欲しいって力強い言葉も貰ったし。

「領地の皆も喜んでいたからね。気が早い者はそろそろこちらに着きそうだぞ。準備から手伝いたいらしい。」

「まあ、お父様!招待客なのにお手伝いなんて、ジェシーとオー兄さまといい、このままじゃ当日みんな働いてるかもしれません。」

本気とも冗談ともとれるリリーの言葉に、家族が笑っていた時だった。


「ご歓談中、失礼致します。お嬢様に贈り物が届いております。お持ちしてもよろしいでしょうか。」

侍女のアイラがノックの後、入室してきた。

「私に?珍しいわね。どなたからなの?」

王都に知り合いの少ないリリーには身に覚えがなく、領地の誰かからだと予想していた。

「それが・・・」

チラッと父と兄をみやり、言いにくそうに続けた。

「第3王子のラインハルト様からです。」

えええぇぇぇぇぇ!!

とリリーが心の中で叫ぶより早く、

「なんだって!?」

「なんで第3王子が!!いや、中身はなんだ?」

父と兄が立ち上がって大騒ぎです。
でも、ハルト様からお手紙以外をいただくのは初めてだわ。

スープを作りに行って以来、顔を合わせてはいないが、王妃とラインハルトそれぞれと手紙のやり取りはしていた。

「では、こちらにお持ち致しますので、少々お待ち下さいませ。」

アイラは頭を下げて出ていったと思うと、他にも侍女を引き連れて戻ってきた。
皆、手に大小様々な大きさの箱を持っている。

え?
一体いくつあるの?

「アイラ、こんなにあるの?これ全部ハルト様から?」

「左様でございます。お手紙がこちらに。」

アイラから手紙を受け取り、目を通す。
相変わらず綺麗な字だ。

『リリー、誕生日パーティーを催すらしいね。僕に内緒のつもりだったのかな?水くさいな。確かに王家の人間に声はかけにくいよね。せめてお祝いの気持ちとして、ドレスを贈らせて欲しい。身に付けたリリーを見られないのが残念だ。良いパーティーを!』

要約するとそんな感じの手紙だった。

「ハルト様、どこからパーティーの話を知ったのかしら。突然ドレスなんて。」

リリーのドレスは当然依頼済みであった。
もう出来てくる頃合いだ。
そして、貴族の誕生パーティーに王族が出席することは、政治的な意味合いを避ける為にまず無い。
贈り物も、婚約者ならともかく、普通の貴族令嬢宛など聞いたこともない。

「これはドレスなのか?」

「は?婚約者でもないのに!?」

相変わらずうるさい父と兄をスルーし、母が「開けてみましょうよ。」とリリーを促す。

確かに開けないわけにもいかないし、正直気になるわ。
両親以外からドレスを贈られるなんて、生まれて初めてなんだもの。
しかも王子様から!!

じわじわと嬉しさに包まれながら、一番大きな箱のリボンをほどく。
出てきたのは・・・

ラインハルトの瞳、淡いラベンダー色の上品なドレスであった。
ところどころ金色が入っていて、上質なものだとよくわかる。

リリーはドレスを持ち、鏡の前で体に当ててみた。

派手すぎず、柔らかな素材を何重にも重ね、ふんわりとしたラインのドレスがリリーによく似合っていた。

「まあまあまあ!!なんて素敵なの!!リリーにぴったりね。さすが殿下だわ。」

「はい!お嬢様の雰囲気によくお似合いです!!」

母のアンとアイラが興奮している。
他の箱には、靴やアクセサリー一式が入っていた。

「こんな独占欲丸出しのドレスを贈ってくるとはな。」

「どうみても王子の髪と瞳の色ですからね。またリリーによく似合っているのが悔しいところです・・・」

「わかる!わかるぞ!!やめろと言いたいが、着てみて欲しくもあるという・・・」

父と兄の葛藤を経て、リリーは当日ラインハルトのドレスを纏うことになったのだった。





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