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王子様に妄想がバレました。
しおりを挟む「ミルクスープ?」
ウィリアムが不思議そうにリリーに問いかける。
お父様、そこは掘り下げてはいけないところなんです!
王子様に手料理なんて、またしても不敬罪の危機なんです!
リリーは訊いてくれるなという目で父を見返す。
なんとか話題をやり過ごそうとするリリーにお構いなしで、王妃が勝手に答え始めた。
「リリーちゃんは王子様との恋愛小説が好きなのよ。それで、王子様にミルクスープを作ってあげるのが夢なの!」
ひぃぃぃぃぃーーーー!!
声にならない悲鳴が出た。
王妃様、私、確かにそんなことを言いました。
言いましたけども!
あくまで妄想なんですー。
実物の王子様の前でする話題じゃないんですー。
羞恥が臨界点を突破し、リリーはもはや自分の顔色が赤を通り越して土気色になっているのを自覚した。
そんなリリーを、同じく土気色の顔をした父が呼んだ。
「リリー?」
はい!
お父様、申し訳ありません。
あの時は、まさかお相手が王妃様だとは思っていなかったのです。
小説の中に入ったつもりで、ちょっと自分がヒロインになってみただけなのですー。
父に不敬罪を咎められ、叱責されると思い、リリーは涙目で心の中で言い訳をする。
「なんで王子様なんだ?以前はいつも真っ先に僕に作ってくれたのに!!」
はい?
「僕だってリリーお手製のミルクスープが飲みたい!!」
いやいや、この空気の中、何を言い出すのですか。
普通は、王子様に対して気安過ぎる娘を諭すところでしょう。
その顔色の悪さは、王子様に対する嫉妬からだったのですか?
「あら、私だって飲みたいわ。」
「僕もぜひ飲みたいな。僕も王子だしね。」
王妃とラインハルトも父に続き、ラインハルトに至っては、イタズラっぽくリリーにウィンクまでしてみせた。
なんでこんなことに?
ただの田舎育ちの娘が作る、ありきたりな庶民の味なのですが。
期待のこもった三人の目に根負けし、つい今度作る約束をしてしまう。
「期待しないで下さいね。どこにでもあるスープですからね。」
リリーは一生懸命平凡さをアピールしたが、3人はニコニコと、いつがいいか話している。
もうどうにでもなれと、リリーが投げやりな気持ちでいるところに、またしても王妃が爆弾を投下する。
「そうだわ!ラインハルト、リリーちゃんにお城のお庭を案内してあげたら?」
「それはいいですね。リリーは王宮に来たのは初めてみたいですし。」
やーめーてー。
リリーはなんとか断ろうと試みる。
「いえいえ、そんな。お忙しいラインハルト様のお手を煩わせるのは申し訳ないですし、私はもう帰りますので。」
「今日はリリーはチーズタルトを持ってきただけですので。今度、私が庭園を案内しますよ。」
無邪気に提案する王妃と、提案に賛成する王子。
王子と二人きりなんて心臓がもたないとお断りしたいリリーと、王子に嫉妬して邪魔をしたい父。
静かに二組の戦いの火蓋が切って落とされた。
と思ったが、決着は一瞬で付いた。
リリーは今度は味方になってくれそうな父に期待をしていたが、
「伯爵はそろそろお仕事に戻る時刻でしょう?伯爵の帰る時間まで、リリーちゃんのことは任せてちょうだい。終わったら一緒に帰ったらいいじゃない。」
「リリーと一緒に帰る・・・それはいいですな。では娘をお願い致します。リリー、また後でな。」
王妃の言葉にあっさり乗り、リリーの頭を撫でてウィリアムは去っていった。
リリーのすがる視線に気付きもせずに・・・
お父様ー!!
期待した私が馬鹿でした。
父の後ろ姿を呆然と見送ったリリーに、
「じゃあリリー、行こうか。」
ラインハルトがキラキラの笑顔で告げる。
「よろしくおねがいいたします・・・」
眩しさにやられながら、リリーはかろうじて答えた。
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