3 / 69
私は私なのです。
しおりを挟む
領地を出て5日後の朝、リリーの乗った馬車は、王都まであと少しの川沿いを走っていた。
「あとどのくらいで到着するのかしら?」
5歳から領地に籠り、領地の外を見たことがなかったリリーには、毎日変わっていく風景や、その土地の食べ物が珍しく、心が踊った。
「お昼前頃に到着出来るかと。」
答えたのは、王都へ付いてきたリリー付きの侍女、アイラである。
アイラはリリーより3歳年上だが、彼女もリリーと同じく領地から出たことがなかった為、二人は姉妹のようにはしゃぎながら道中を楽しんでいた。
もしかしてアイラが居なかったら、今頃領地の皆を想って泣いていたかもしれないわ。
ふふっ、アイラに感謝しなきゃいけないわね。
「ありがとう、アイラ。」
到着時間を教えてくれたお礼の言葉に、さりげなく一緒に居てくれる感謝を込めて伝えると、想いが通じたのか、アイラは受け止めるように笑って頷いた。
予定通りのお昼前に王都に入り、馬車は城下の町を進んでいく。
あまりの賑わいと、人の多さ、そして木々の少なさにリリーは驚いたが、領地では見たことの無い品物や服装に目を奪われる。
「アイラ、私の格好って地味ね。」
悲しんでいるのかとアイラが不安に思って見ると、リリーは楽しそうにクスクスと笑っていた。
確かに町を歩く人々の服と比べ、リリーのワンピースは地味で垢抜けない。
リリーが作業服ばかりを好み、美しいドレスやワンピースを断るせいなのであるが。
「何が面白いのですか?お屋敷に着けば、旦那様と奥様が、お嬢様が着きれないほどの流行りのドレスをご用意されていると思いますよ。」
アイラが言うと、
「多分、服の問題ではないの。きっと何を着ていても、私は王都で浮いているんだろうなと思ったら、ちょっと面白くなっちゃって。」
突然変なことを言い出したリリーに、アイラは戸惑う。
しかしそんなアイラに、
「悲観的になっている訳じゃないのよ。スチュワートも言っていたでしょう?私は私だって。私は私らしくここでやって行くわ。」
微笑みながら話すリリーは、凛として美しく見えた。
そしてアイラにそっと身を寄せ、小さく付け加えた。
「ねえ、アイラ。帰る場所があるって素敵なことね。」
「そうですね、お嬢様には2ヶ所もあるのですから。」
屋敷が見えはじめていた。
「あとどのくらいで到着するのかしら?」
5歳から領地に籠り、領地の外を見たことがなかったリリーには、毎日変わっていく風景や、その土地の食べ物が珍しく、心が踊った。
「お昼前頃に到着出来るかと。」
答えたのは、王都へ付いてきたリリー付きの侍女、アイラである。
アイラはリリーより3歳年上だが、彼女もリリーと同じく領地から出たことがなかった為、二人は姉妹のようにはしゃぎながら道中を楽しんでいた。
もしかしてアイラが居なかったら、今頃領地の皆を想って泣いていたかもしれないわ。
ふふっ、アイラに感謝しなきゃいけないわね。
「ありがとう、アイラ。」
到着時間を教えてくれたお礼の言葉に、さりげなく一緒に居てくれる感謝を込めて伝えると、想いが通じたのか、アイラは受け止めるように笑って頷いた。
予定通りのお昼前に王都に入り、馬車は城下の町を進んでいく。
あまりの賑わいと、人の多さ、そして木々の少なさにリリーは驚いたが、領地では見たことの無い品物や服装に目を奪われる。
「アイラ、私の格好って地味ね。」
悲しんでいるのかとアイラが不安に思って見ると、リリーは楽しそうにクスクスと笑っていた。
確かに町を歩く人々の服と比べ、リリーのワンピースは地味で垢抜けない。
リリーが作業服ばかりを好み、美しいドレスやワンピースを断るせいなのであるが。
「何が面白いのですか?お屋敷に着けば、旦那様と奥様が、お嬢様が着きれないほどの流行りのドレスをご用意されていると思いますよ。」
アイラが言うと、
「多分、服の問題ではないの。きっと何を着ていても、私は王都で浮いているんだろうなと思ったら、ちょっと面白くなっちゃって。」
突然変なことを言い出したリリーに、アイラは戸惑う。
しかしそんなアイラに、
「悲観的になっている訳じゃないのよ。スチュワートも言っていたでしょう?私は私だって。私は私らしくここでやって行くわ。」
微笑みながら話すリリーは、凛として美しく見えた。
そしてアイラにそっと身を寄せ、小さく付け加えた。
「ねえ、アイラ。帰る場所があるって素敵なことね。」
「そうですね、お嬢様には2ヶ所もあるのですから。」
屋敷が見えはじめていた。
33
お気に入りに追加
897
あなたにおすすめの小説
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】さいこん!〜最悪の政略結婚から始まる(かもしれない)愛〜
しゃでぃや
恋愛
聖王国第四皇女セラスティアは、突然の勅命に驚いた。
兄である聖王猊下から、自身の婚姻が発表されたのだ。
セラスティアが一度は嫁いだ小国は兄王の統治する祖国によって滅ぼされ、出戻って来たばかりだというのに。
しかも相手はよからぬ噂の絶えない筆頭宰相ザカリアス。
曰く付きの皇女を下賜することにより、宰相の力を削ごうというのが王の狙いだった。
お互い意に染まぬ政略結婚。
宰相と皇女は反目しすれ違いながらも、しかし少しずつ心を通わせ合う……
※葦(奇数話)としゃでぃや(偶数話)の合作小説です。
葦 →https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/680880394
しゃでぃや →https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/467163294
※合作の為、文体などに多少の違いがあります。奇数話は宰相寄り、偶数話は皇女寄りの視点です。
※ほぼ打合せなし、見切り発車ではじめたので設定にはいい加減なところがあります。“ぽさ”を重視しています。
※完結済みハッピーエンドです。全22話。
※なろうにも同じものをあげています。
イラストは炉鳩様(@rohatomura )に描いて頂きました。
王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません
黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。
でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。
知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。
学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。
いったい、何を考えているの?!
仕方ない。現実を見せてあげましょう。
と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。
「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」
突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。
普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。
※わりと見切り発車です。すみません。
※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!
永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手
ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。
だがしかし
フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。
貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。
【完結】氷の仮面を付けた婚約者と王太子の話
miniko
恋愛
王太子であるセドリックは、他人の心の声が聞けると言う魔道具を手に入れる。
彼は、大好きな婚約者が、王太子妃教育の結果、無表情になってしまった事を寂しく思っていた。
婚約者の本音を聞く為に、魔道具を使ったセドリックだが・・・
【完結】愛に溺れたらバッドエンド!?巻き戻り身を引くと決めたのに、放っておいて貰えません!
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢ジスレーヌは、愛する婚約者リアムに尽くすも、
その全てが裏目に出ている事に気付いていなかった。
ある時、リアムに近付く男爵令嬢エリザを牽制した事で、いよいよ愛想を尽かされてしまう。
リアムの愛を失った絶望から、ジスレーヌは思い出の泉で入水自害をし、果てた。
魂となったジスレーヌは、自分の死により、リアムが責められ、爵位を継げなくなった事を知る。
こんなつもりではなかった!ああ、どうか、リアムを助けて___!
強く願うジスレーヌに、奇跡が起こる。
気付くとジスレーヌは、リアムに一目惚れした、《あの時》に戻っていた___
リアムが侯爵を継げる様、身を引くと決めたジスレーヌだが、今度はリアムの方が近付いてきて…?
異世界:恋愛 《完結しました》
お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる