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私は私なのです。

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領地を出て5日後の朝、リリーの乗った馬車は、王都まであと少しの川沿いを走っていた。

「あとどのくらいで到着するのかしら?」

5歳から領地に籠り、領地の外を見たことがなかったリリーには、毎日変わっていく風景や、その土地の食べ物が珍しく、心が踊った。

「お昼前頃に到着出来るかと。」

答えたのは、王都へ付いてきたリリー付きの侍女、アイラである。
アイラはリリーより3歳年上だが、彼女もリリーと同じく領地から出たことがなかった為、二人は姉妹のようにはしゃぎながら道中を楽しんでいた。


もしかしてアイラが居なかったら、今頃領地の皆を想って泣いていたかもしれないわ。
ふふっ、アイラに感謝しなきゃいけないわね。

「ありがとう、アイラ。」

到着時間を教えてくれたお礼の言葉に、さりげなく一緒に居てくれる感謝を込めて伝えると、想いが通じたのか、アイラは受け止めるように笑って頷いた。



予定通りのお昼前に王都に入り、馬車は城下の町を進んでいく。
あまりの賑わいと、人の多さ、そして木々の少なさにリリーは驚いたが、領地では見たことの無い品物や服装に目を奪われる。

「アイラ、私の格好って地味ね。」

悲しんでいるのかとアイラが不安に思って見ると、リリーは楽しそうにクスクスと笑っていた。

確かに町を歩く人々の服と比べ、リリーのワンピースは地味で垢抜けない。
リリーが作業服ばかりを好み、美しいドレスやワンピースを断るせいなのであるが。

「何が面白いのですか?お屋敷に着けば、旦那様と奥様が、お嬢様が着きれないほどの流行りのドレスをご用意されていると思いますよ。」

アイラが言うと、

「多分、服の問題ではないの。きっと何を着ていても、私は王都で浮いているんだろうなと思ったら、ちょっと面白くなっちゃって。」

突然変なことを言い出したリリーに、アイラは戸惑う。

しかしそんなアイラに、

「悲観的になっている訳じゃないのよ。スチュワートも言っていたでしょう?私は私だって。私は私らしくここでやって行くわ。」

微笑みながら話すリリーは、凛として美しく見えた。

そしてアイラにそっと身を寄せ、小さく付け加えた。

「ねえ、アイラ。帰る場所があるって素敵なことね。」

「そうですね、お嬢様には2ヶ所もあるのですから。」


屋敷が見えはじめていた。


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