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豪華メンバーでのお茶会
しおりを挟む騎士を目指しているのかというアリスの質問に、ジェイルは一瞬迷ったような顔をした。
軽い気持ちで訊いてしまったが、何か困るような質問だったのだろうか。
「あ、立ち入ったことだったら答えなくて大丈夫ですよ? なんだかすみません」
アリスは食べ終わった丼を奥にやると、ケーキのお皿を手前に置き、そちらに取りかかることにする。
どんなに食べてもケーキは別腹なのだ。
ちなみに、ジェイルはカツサンドをペロッと胃に納め、ジンジャーエールを飲んでいるところだ。
「んー、立ち入ったこととかそういうんじゃなくてな、最近考えてたところなんだ。オレ、親父が騎士団長だからって、特に疑問も持たずに騎士になるもんだと思っててさ。今更だが、それでいいのかって……」
思っていたより重い回答が返ってきてしまった。
そんな『ヒロインだけには特別に打ち明けるけど……』みたいな雰囲気で、今日初対面の私に深い話をしないでほしい。
フラグみたいで怖いじゃないの。
そんなアリスの戸惑いが表情に出ていたのか、「あ、悪い悪い。気にしないでくれ。ちょっとタイムリーだったから口から出ただけだ」と明るく言うと、ジェイルはまたジンジャーエールを口に運んだ。
でも会話を振ったのは私だし、このままスルーするのもなぁ。
それに、今の私と似ている部分もあるかも?
「気持ちはわかるかもしれません。勝手に未来が決まってしまっている不安というか。私も自分で納得した道を進みたいと願っているので……」
「そうなんだよ! オレは別に騎士に不満がある訳じゃないんだが、将来当たり前のように騎士団長を目指すと思われて、期待されるのはなんか違うというか」
「わかります! 途中まで下手に期待させると、後で取り返しがつかなくなりそうで。だったら最初から期待されないように、全部壊したくなるというか」
「そうそう、オレもいっそ騎士なんかやめて、他の道を探すっていう選択肢もありだよな!」
「そうですよ、私たちまだ若いし、どんな未来だって描けるんですよ!!」
なんだか変なところで意気投合してしまった。
溜まっていた鬱憤を吐き出せたからか、少し清々しい気分だ。
「いやー、まさかこの学園でこんなに話がわかる令嬢に会えるとはな。話してみるもんだな。アリスは親に気が乗らない結婚でも勧められてるのか?」
「そんなところです」
親にだけでなく、この世界のほぼ全員に、望まない何股もの恋愛を勧められているとはさすがに言えない。
しかも、ジェイルもその攻略対象の一人なのだ。
「貴族の娘はなー、昔から政略の道具に使われがちだからな。オレにも最近できたんだよ、婚約者ってやつが」
うんうん……って。
出てきたじゃん、取り巻き一号さん!
やったね!!
「私、その方なら今日お会いしましたよ。オフィーリア様と一緒にいらしたので!」
「そうか」
「……いやいや、婚約者さんでしょう? 反応鈍くないですか?」
「知らないうちに勝手に決まってたからな。名前も知らない」
「そこは覚えましょうよ……」
あんなにあなたの為に影で頑張っているのに。
一号さんが報われないじゃない。
「じゃあ今から覚えるか。なんて名前だ?」
は?
私に訊くの?
「……知りません。ジェイル様の婚約者だって仰っていたので……」
「ぶっ、なんだよ、アリスも知らないんじゃないか」
「ううぅ……」
ごめん、取り巻き一号さん。
ちゃんとあなたの名前を聞いておくべきだったよ。
でもあなたもモブに徹し過ぎだって!
また笑い出したジェイルを情けない顔で見ていたら、突然視界の端で何かが光った気がした。
「やあジェイル。楽しそうだね。おや? 君はアリスじゃないか」
光った正体は、王太子ユリウスの金髪だった。
日光を浴びてキラキラと輝いている。
「ユリウス、こんなところで珍しいな。お? ルードも一緒か」
「ちょっと行き詰まってしまってね。気分転換だよ。ね、ルード?」
「ええ。最近は案件が立て込んでいたので。また会ったな、アリス嬢」
ユリウスは宰相の息子のルードを連れていた。
生徒会長と副会長同士、仲がいいのかもしれない。
「なんだアリス、今日編入してきたのに顔が広いな」
ジェイルに揶揄われてしまった。
「たまたまです。ジェイル様こそ、お二人と知り合いなんですか?」
「幼馴染みってやつだな。親同士の繋がりで。年はオレが一個下だけどな」
なるほど、宰相も騎士団長も国王の側近だもんね。
ふむふむと納得していたら、ユリウスが爽やかに爆弾発言をした。
「ジェイル、僕たちも仲間に加わっていいかな?」
「もちろんだ。アリスは面白いぞ? 久々にこんなに笑ったよ」
「楽しそうな声があちらまで聞こえていたよ。僕も楽しみだ」
「確かに君は興味深い令嬢だと思っていたところだ」
ユリウス、ジェイル、ルードが親しげに会話を交わしている――何故かアリスについて。
そして、呆気に取られているうちに、なんだかすごいメンツのテーブルになっていた。
野次馬のボルテージも上がり、「こんな神展開があるなんて!」とか「他の人にも教えてあげないと!」と興奮する声が嫌でも聞こえてくる。
憂鬱でしかない。
「ところでアリス嬢」
ふいに話しかけてきたのは、予想外にも無表情なルードだった。
「なんでしょう?」
何を言われるのかと身構えていたら。
「その皿は、全部君が食べたのか?」
まさかの質問だった。
「すげーいい食いっぷりだっだんだぜ? ステーキ丼なんて大盛りで! オレ、女の子が大盛り完食してるの……いや、ステーキ丼を食べてるの自体初めて見たもんな!!」
そんな目を輝かせながら、私の大食いをバラさなくても……。
「そうか。たくさん食べて、アリスは健康的な女の子なんだね」
ユリウスが本心から褒めているのがかえって辛い。
「その量を……そうか、それは興味深いな」
おいおい、どこに興味を持ってるんじゃい!!
こうして、無駄に豪華なメンバーによるお茶会もどきは始まったのだった
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