【完結】私だけがストーリーを知らない乙女ゲームの世界に転生しちゃいました。ヒロインなんて荷が重すぎます!!

櫻野くるみ

文字の大きさ
上 下
15 / 25

攻略対象者③ 宰相の息子登場

しおりを挟む
「そこの君」って、絶対私のことだよね?
あーあ、面倒だな……。

仕方なくアリスが見上げると、レンガ造りの校舎の三階からこちらを見下ろす、上級生らしい男子生徒が目に入った。
黒い短髪で眼鏡をかけている。
確かに顔は整っているが、少し遠目からでも神経質そうな人という印象を受けた。

「君は編入してきた女生徒だろう?」
「はい、そうです」

先輩相手に無視をするわけにもいかず、最低限の返事だけで済ませようと考えていたアリスだったが。

「編入早々、絡まれていたようだな。こちらに非がないのであれば、はっきりと言い返すべきでは? それとも、学園内に身分の上下関係がないことを君は知らないのか?」

カッチーン。
何だが威圧的というか、上から目線じゃない?
いるんだよね、こういう正論かますやつ。

お腹が減っている時に言われ、アリスは余計にムシャクシャしてしまった。

「お言葉ですけれど、私たちは普通にお話をしていただけですし、嫌ならきちんと断っていますので。煩くしていたのなら謝ります。まだ話し始めたばかりでしたけどね」

気付けば強気に言い返していた。
しかもしっかりと嫌味まで……。

あーあ、ついキレぎみに反論しちゃったよ。
でも上下関係がないなら構わないよね?
あっちが先にそう言ったんだから。

周囲がざわめいている。
きっとゲーム内でのアリスの反応と大きく異なっていたのだろう。
でもその反応が心地良くもあった。
アリスはヒロインを演じる気などさらさらないのだから。

それに、本当にまだ一人一回ずつ発言しただけだったよね?
そんなに煩いはずがないと思うの。
きっと悪役トリオはこの人が現れることがわかっていて、ここまで私を移動させてきたんだよね。
このままじゃ、せっかくストーリー通りに進めようとしただけなのに、怒られた彼女たちが浮かばれないじゃないの。
――いや、そんなことはないか。
あの三人ならむしろ達成感を感じて、今頃喜んでいる最中かもしれない……。

頭上の男性は、まさか編入生のこんな小娘に言い返されるとは思っていなかったのだろう。
一瞬目を見張る素振りを見せ、右の口角を少しだけ上げた。

「君は面白いな。そうか、君はただやられるだけの女性ではないらしい。僕の見立てが誤っていたようだ」

あれ?
もしかして虐められている私を助けてくれるつもりだったのかな?
わかりづらいんだよ、言い方がイヤミっぽくて!
しかも、ちょっと微笑んでいるように見えるのが怖い……。

「いえ、助けてくれたのならありがとうございました」
「いや、余計なことをしたな。僕は三年のルードだ。生徒会の副会長をしている。君は?」

ほらね。
やっぱり私の勘は正しかったよ。
少しも嬉しくないけれど。

「一年のアリスです」

落胆しながらも渋々名乗る。

「そうか。君なら心配することもないかもしれないが、何か困ったことがあれば言ってくるといい。では」

ルードは一方的に言い終えると、窓を離れたのかこちらからは見えなくなった。

一体何だったのだろうか。
しかし、失敗したことだけはわかってしまった。
中庭のテンションが異様に高いからだ。

「キャーッ、ルード様が出会いイベントから笑顔を見せるだなんて、ゲームより好感度が上がっている証拠ではなくて?」
「あのヒロイン、なかなかやるじゃないか。途中、追い込まれてからの逆転ホームランは盛り上がるよな」

好き勝手言われている。
そして、やっぱりアレは微笑んでいたらしい。

私、どこで失敗したんだろう?
口答えする生意気な下級生なんて、普通は嫌いじゃないの!?

「アリスさまぁ~!!」

チェルシーが駆け寄ってくる――満面の笑みで。
もう死刑宣告をされるような恐怖しか感じない。

「いや~、さすがアリス様!! ヒロインムーブが冴えまくってますねぇ。あれは絶対『おもしれ―女』って興味を持たれてましたよ?」
「チェルシー、何を言っているの? 意味がわからないし、そんなはずがないんだけど」
「またまた~。弱いと見せかけて、実はしっかり意見を言える女の子! ゲームのシナリオ以上にうまくルード様の心を擽っちゃって、上級者なんだから!! 憎いねぇ、このこの~」

肘でグリグリされるが、心当たりがひとつもない。
しかも、チェルシーの言動がいつもなんとなく古めかしいと思うのは私だけだろうか?
アリスは困惑するしかなかった。

「悪いけど、本気で腹が立っただけなんだけど」
「じゃあ、アリス様は天性のヒロインってことですね! 私は大好きなルード様の『デレ』が早くも見られそうで、もうワクワクが止まりません!!」
「あ、そう。残念だけど、あの人とはもう話すことはないと思うわ。それより私はお腹が空いて……」

キーンコーンカーンコーン

「予鈴ですね! 教室に戻りましょう」

え? もう?

「ちょっとチェルシー、昼食はどうしたの?」
「そんなのとっくに食べましたよ。アリス様が悪役令嬢たちと出ていった後に。ルード様との出会いイベントは見逃せませんから!」
「一人でズルい!! え、本当にこのまま授業なの? お腹が鳴っちゃうよー」

アリスは空腹のまま、午後の授業に突入したのだった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

21時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。

❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。 それは、婚約破棄&女の戦い?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

処理中です...