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攻略対象者③ 宰相の息子登場
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「そこの君」って、絶対私のことだよね?
あーあ、面倒だな……。
仕方なくアリスが見上げると、レンガ造りの校舎の三階からこちらを見下ろす、上級生らしい男子生徒が目に入った。
黒い短髪で眼鏡をかけている。
確かに顔は整っているが、少し遠目からでも神経質そうな人という印象を受けた。
「君は編入してきた女生徒だろう?」
「はい、そうです」
先輩相手に無視をするわけにもいかず、最低限の返事だけで済ませようと考えていたアリスだったが。
「編入早々、絡まれていたようだな。こちらに非がないのであれば、はっきりと言い返すべきでは? それとも、学園内に身分の上下関係がないことを君は知らないのか?」
カッチーン。
何だが威圧的というか、上から目線じゃない?
いるんだよね、こういう正論かますやつ。
お腹が減っている時に言われ、アリスは余計にムシャクシャしてしまった。
「お言葉ですけれど、私たちは普通にお話をしていただけですし、嫌ならきちんと断っていますので。煩くしていたのなら謝ります。まだ話し始めたばかりでしたけどね」
気付けば強気に言い返していた。
しかもしっかりと嫌味まで……。
あーあ、ついキレぎみに反論しちゃったよ。
でも上下関係がないなら構わないよね?
あっちが先にそう言ったんだから。
周囲がざわめいている。
きっとゲーム内でのアリスの反応と大きく異なっていたのだろう。
でもその反応が心地良くもあった。
アリスはヒロインを演じる気などさらさらないのだから。
それに、本当にまだ一人一回ずつ発言しただけだったよね?
そんなに煩いはずがないと思うの。
きっと悪役トリオはこの人が現れることがわかっていて、ここまで私を移動させてきたんだよね。
このままじゃ、せっかくストーリー通りに進めようとしただけなのに、怒られた彼女たちが浮かばれないじゃないの。
――いや、そんなことはないか。
あの三人ならむしろ達成感を感じて、今頃喜んでいる最中かもしれない……。
頭上の男性は、まさか編入生のこんな小娘に言い返されるとは思っていなかったのだろう。
一瞬目を見張る素振りを見せ、右の口角を少しだけ上げた。
「君は面白いな。そうか、君はただやられるだけの女性ではないらしい。僕の見立てが誤っていたようだ」
あれ?
もしかして虐められている私を助けてくれるつもりだったのかな?
わかりづらいんだよ、言い方がイヤミっぽくて!
しかも、ちょっと微笑んでいるように見えるのが怖い……。
「いえ、助けてくれたのならありがとうございました」
「いや、余計なことをしたな。僕は三年のルードだ。生徒会の副会長をしている。君は?」
ほらね。
やっぱり私の勘は正しかったよ。
少しも嬉しくないけれど。
「一年のアリスです」
落胆しながらも渋々名乗る。
「そうか。君なら心配することもないかもしれないが、何か困ったことがあれば言ってくるといい。では」
ルードは一方的に言い終えると、窓を離れたのかこちらからは見えなくなった。
一体何だったのだろうか。
しかし、失敗したことだけはわかってしまった。
中庭のテンションが異様に高いからだ。
「キャーッ、ルード様が出会いイベントから笑顔を見せるだなんて、ゲームより好感度が上がっている証拠ではなくて?」
「あのヒロイン、なかなかやるじゃないか。途中、追い込まれてからの逆転ホームランは盛り上がるよな」
好き勝手言われている。
そして、やっぱりアレは微笑んでいたらしい。
私、どこで失敗したんだろう?
口答えする生意気な下級生なんて、普通は嫌いじゃないの!?
「アリスさまぁ~!!」
チェルシーが駆け寄ってくる――満面の笑みで。
もう死刑宣告をされるような恐怖しか感じない。
「いや~、さすがアリス様!! ヒロインムーブが冴えまくってますねぇ。あれは絶対『おもしれ―女』って興味を持たれてましたよ?」
「チェルシー、何を言っているの? 意味がわからないし、そんなはずがないんだけど」
「またまた~。弱いと見せかけて、実はしっかり意見を言える女の子! ゲームのシナリオ以上にうまくルード様の心を擽っちゃって、上級者なんだから!! 憎いねぇ、このこの~」
肘でグリグリされるが、心当たりがひとつもない。
しかも、チェルシーの言動がいつもなんとなく古めかしいと思うのは私だけだろうか?
アリスは困惑するしかなかった。
「悪いけど、本気で腹が立っただけなんだけど」
「じゃあ、アリス様は天性のヒロインってことですね! 私は大好きなルード様の『デレ』が早くも見られそうで、もうワクワクが止まりません!!」
「あ、そう。残念だけど、あの人とはもう話すことはないと思うわ。それより私はお腹が空いて……」
キーンコーンカーンコーン
「予鈴ですね! 教室に戻りましょう」
え? もう?
「ちょっとチェルシー、昼食はどうしたの?」
「そんなのとっくに食べましたよ。アリス様が悪役令嬢たちと出ていった後に。ルード様との出会いイベントは見逃せませんから!」
「一人でズルい!! え、本当にこのまま授業なの? お腹が鳴っちゃうよー」
アリスは空腹のまま、午後の授業に突入したのだった。
あーあ、面倒だな……。
仕方なくアリスが見上げると、レンガ造りの校舎の三階からこちらを見下ろす、上級生らしい男子生徒が目に入った。
黒い短髪で眼鏡をかけている。
確かに顔は整っているが、少し遠目からでも神経質そうな人という印象を受けた。
「君は編入してきた女生徒だろう?」
「はい、そうです」
先輩相手に無視をするわけにもいかず、最低限の返事だけで済ませようと考えていたアリスだったが。
「編入早々、絡まれていたようだな。こちらに非がないのであれば、はっきりと言い返すべきでは? それとも、学園内に身分の上下関係がないことを君は知らないのか?」
カッチーン。
何だが威圧的というか、上から目線じゃない?
いるんだよね、こういう正論かますやつ。
お腹が減っている時に言われ、アリスは余計にムシャクシャしてしまった。
「お言葉ですけれど、私たちは普通にお話をしていただけですし、嫌ならきちんと断っていますので。煩くしていたのなら謝ります。まだ話し始めたばかりでしたけどね」
気付けば強気に言い返していた。
しかもしっかりと嫌味まで……。
あーあ、ついキレぎみに反論しちゃったよ。
でも上下関係がないなら構わないよね?
あっちが先にそう言ったんだから。
周囲がざわめいている。
きっとゲーム内でのアリスの反応と大きく異なっていたのだろう。
でもその反応が心地良くもあった。
アリスはヒロインを演じる気などさらさらないのだから。
それに、本当にまだ一人一回ずつ発言しただけだったよね?
そんなに煩いはずがないと思うの。
きっと悪役トリオはこの人が現れることがわかっていて、ここまで私を移動させてきたんだよね。
このままじゃ、せっかくストーリー通りに進めようとしただけなのに、怒られた彼女たちが浮かばれないじゃないの。
――いや、そんなことはないか。
あの三人ならむしろ達成感を感じて、今頃喜んでいる最中かもしれない……。
頭上の男性は、まさか編入生のこんな小娘に言い返されるとは思っていなかったのだろう。
一瞬目を見張る素振りを見せ、右の口角を少しだけ上げた。
「君は面白いな。そうか、君はただやられるだけの女性ではないらしい。僕の見立てが誤っていたようだ」
あれ?
もしかして虐められている私を助けてくれるつもりだったのかな?
わかりづらいんだよ、言い方がイヤミっぽくて!
しかも、ちょっと微笑んでいるように見えるのが怖い……。
「いえ、助けてくれたのならありがとうございました」
「いや、余計なことをしたな。僕は三年のルードだ。生徒会の副会長をしている。君は?」
ほらね。
やっぱり私の勘は正しかったよ。
少しも嬉しくないけれど。
「一年のアリスです」
落胆しながらも渋々名乗る。
「そうか。君なら心配することもないかもしれないが、何か困ったことがあれば言ってくるといい。では」
ルードは一方的に言い終えると、窓を離れたのかこちらからは見えなくなった。
一体何だったのだろうか。
しかし、失敗したことだけはわかってしまった。
中庭のテンションが異様に高いからだ。
「キャーッ、ルード様が出会いイベントから笑顔を見せるだなんて、ゲームより好感度が上がっている証拠ではなくて?」
「あのヒロイン、なかなかやるじゃないか。途中、追い込まれてからの逆転ホームランは盛り上がるよな」
好き勝手言われている。
そして、やっぱりアレは微笑んでいたらしい。
私、どこで失敗したんだろう?
口答えする生意気な下級生なんて、普通は嫌いじゃないの!?
「アリスさまぁ~!!」
チェルシーが駆け寄ってくる――満面の笑みで。
もう死刑宣告をされるような恐怖しか感じない。
「いや~、さすがアリス様!! ヒロインムーブが冴えまくってますねぇ。あれは絶対『おもしれ―女』って興味を持たれてましたよ?」
「チェルシー、何を言っているの? 意味がわからないし、そんなはずがないんだけど」
「またまた~。弱いと見せかけて、実はしっかり意見を言える女の子! ゲームのシナリオ以上にうまくルード様の心を擽っちゃって、上級者なんだから!! 憎いねぇ、このこの~」
肘でグリグリされるが、心当たりがひとつもない。
しかも、チェルシーの言動がいつもなんとなく古めかしいと思うのは私だけだろうか?
アリスは困惑するしかなかった。
「悪いけど、本気で腹が立っただけなんだけど」
「じゃあ、アリス様は天性のヒロインってことですね! 私は大好きなルード様の『デレ』が早くも見られそうで、もうワクワクが止まりません!!」
「あ、そう。残念だけど、あの人とはもう話すことはないと思うわ。それより私はお腹が空いて……」
キーンコーンカーンコーン
「予鈴ですね! 教室に戻りましょう」
え? もう?
「ちょっとチェルシー、昼食はどうしたの?」
「そんなのとっくに食べましたよ。アリス様が悪役令嬢たちと出ていった後に。ルード様との出会いイベントは見逃せませんから!」
「一人でズルい!! え、本当にこのまま授業なの? お腹が鳴っちゃうよー」
アリスは空腹のまま、午後の授業に突入したのだった。
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