【完結】私だけがストーリーを知らない乙女ゲームの世界に転生しちゃいました。ヒロインなんて荷が重すぎます!!

櫻野くるみ

文字の大きさ
上 下
12 / 25

攻略対象者② 騎士団長の息子登場

しおりを挟む
「では僕はここで。またね、アリス」

颯爽と制服の長めのジャケットを翻し、ヒラヒラと手を振ったユリウスは、教師陣と会釈を交わすと職員室から出ていこうとしていた。
さすが未来の統治者、一瞬で職員室の空気を自分のものへと変えてしまっている。
アリスも慌ててその後ろ姿にお礼の言葉をかけた。

「あの、ありがとうございました!」

一度振り返ったユリウスはニコッと優雅に微笑んだ後、静かに姿を消した。
やはり隙のない完璧な王子様っぷりである。

「ああっ、やっぱり王太子ルートも捨てがたいっ!! ロイヤルスマイルご馳走さまでーす」

いつの間にかしれっとチェルシーが隣に並び、まるでずっと一緒に居たかのように喋り始めた。
クネクネしながらうっとりとする瞳に、ハートマークが浮かんで見えるのは気のせいだけではないだろう。

あえて何も言うまい。
どうせ面倒なことになるに違いないもの。

アリスはチェルシーを放置することに決め、教師との編入の挨拶を済ませたのだった。


◆◆◆


アリスたちは一年B組に編入することが決まっていた。
ある意味これはもう予想通りだったが、チェルシーもアリスと同じクラスである。

朝礼でクラスメイトの前に立つと、一斉に好奇の目で迎えられてしまった。
ハッキリ言って、最初からアリスのことを知っている人たちなのだから、今更自己紹介なんて無意味な気がしてしまう。
むしろ、アリス本人よりも『未来のアリス』について知っていると思うと腹立たしいくらいだ。

当たり障りなく挨拶を終え、一時間目の授業が開始された時にそれは起きた。
隣の席になったチェルシーが、小さな紙を後ろの席の生徒へとこっそり回し始めたのだ。

うわ、学生時代を思い出すな。
みんなコソコソ手紙を回してたよね。
折り方も色々種類があったなぁ……って、そうじゃなくて!
まだクラスに馴染んでもいないはずなのに、チェルシーってば何を回しているの?

受け取った女生徒が怪訝そうな表情で手紙を広げ――さっと目を通すとギョッとした顔でアリスを見た。

え?
私!?

その後も、手紙が回ってきた生徒は全員が驚いた様子を見せ、アリスの方をわざわざ確認する者が何名もいた。
一体何が書かれているのだろうと気になっていたら、とある一人の生徒が手紙を床に落とし、先生に拾われてしまった。

あちゃー、絶体絶命じゃない?
チェルシーも怒られたりしてね。

ドキドキしながら先生の様子を伺っていたら――なんと、先生まで目を丸くしてアリスの方を見るではないか!

もうっ!
何が書いてあるのかますます気になるじゃん!!

そのまま先生は何事もなかったように、手紙を落とした生徒の机に置いている。
アリスはチェルシーまで手紙が戻ってくるのをジレジレしながら待つと、勢い良く手紙を奪い取ってやった。
開くとそこには――

『ヒロインのアリスは、ときラビ未プレイです。ハッピーエンドへ導く為に、みんなも協力してあげてネ!! チェルシー』

なんだこれは……。

驚いてチェルシーを見たら、ニカッとピースサインが返ってきた。
なるほど、クラスメイトに協力を仰いだらしい。
――余計なことを!

しかし、クラスメイトたちは『任せとけ!』みたいな空気を醸し、誰も授業なんて聞いていない雰囲気である。
先生すら心ここに在らずと言った有り様で、おかしなムードのまま授業は終了してしまったのだった。

「ちょっと、チェルシー! 何やってるのよ!!」
「あ、私お手洗いに行きたいなー。アリス様も一緒に行きましょう! ね?」

文句を言うはずが、休憩時間のアリスは自然とチェルシーとトイレに行く流れになっていた。

おかしいわ。
何か策略に乗せられているような、嫌な予感を感じる……。

考え事をしていたアリスは、廊下の影から突然現れた大柄な男性にぶつかってしまった。

「きゃっ!」
「悪い! 前を見ていなかった。大丈夫か? 怪我はないか?」

床に倒れこみそうになっアリスを、大きな手と逞しい腕が支えてくれる。
お腹に響くような低い声だ。

「私こそ考え事をしていてすみません」

手を借りて元の体勢に戻ると、頑丈そうな胸板が目の前に迫っている。
随分背の高い男性だと思いながら顔を上げたら、そこにはネイビーブルーの髪を短く切り揃えた、清潔感のある凛々しい顔があった。
一見体型がゴツい為、大きくて怖い人に見えるのだが、心配する様子からも優しい人柄が窺える。

「いや、完全にオレが悪い。見たところ平気そうだが、具合が悪くなったら言いに来てくれ。せっかくの綺麗な制服を汚すところだった」
「あ、今日編入してきた一年のアリスです。もう大丈夫ですので、お気遣いなく」

アリスはもちろん気付いていた。
この男子生徒も攻略対象者に違いないと……。

だって、イケメンなんだもん。
出会い方もありきたり過ぎる!
これはさっさと終わらせて、離れるのが賢明ってやつだわ。

「それでは、失礼します」

さりげなく立ち去ろうとしたのに、呼び止められてしまった。

「待て。オレは二年のジェイルだ。今は急いでいるから、放課後にでも様子を見にクラスに行く。何組だ?」

「そんな、本当に大丈……」
「B組です!」

チェルシーが溌剌と答えている。
そうだった、この子がいたんだった……。

「わかった、B組な。じゃあまた後でな」

足早にジェイルが去っていき、アリスはチェルシーを睨んだ。

「さすが騎士団長の息子! 逞しくて素敵!!」
「やっぱりね! そうだと思ったわ!」

苛立ち紛れの怒った声で言ったのにチェルシーは意にも介さず、「じゃあ教室に戻りましょうか」とスキップしながらいま来た廊下を戻り始めた。

「ちょっ、お手洗いは? お手洗いに行くんじゃなかったの?」
「もう目的は果たしたのでいいんです。あ、アリス様は行きたかったらご自由に」

なんてやつだ!
いよいよ腹を立てたアリスは、一人ドスドス足音を立てながらトイレに向かったのだった。








しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。

❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。 それは、婚約破棄&女の戦い?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

継母の品格 〜 行き遅れ令嬢は、辺境伯と愛娘に溺愛される 〜

出口もぐら
恋愛
【短編】巷で流行りの婚約破棄。  令嬢リリーも例外ではなかった。家柄、剣と共に生きる彼女は「女性らしさ」に欠けるという理由から、婚約破棄を突き付けられる。  彼女の手は研鑽の証でもある、肉刺や擦り傷がある。それを隠すため、いつもレースの手袋をしている。別にそれを恥じたこともなければ、婚約破棄を悲しむほど脆弱ではない。 「行き遅れた令嬢」こればかりはどうしようもない、と諦めていた。  しかし、そこへ辺境伯から婚約の申し出が――。その辺境伯には娘がいた。 「分かりましたわ!これは契約結婚!この小さなお姫様を私にお守りするようにと仰せですのね」  少しばかり天然、快活令嬢の継母ライフ。 ▼連載版、準備中。 ■この作品は「小説家になろう」にも投稿しています。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

処理中です...