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梅ジュースと自己紹介
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「適当に座って下さい。あ、飲み物どうしましょうか。梅酒飲みます?」
「ありがとうございます。じゃあ梅ジュースをいただいてもいいですか?」
舞衣は、お隣の部屋に足を踏み入れていた。
玄関は、一年前に訪れた時より、更に物が増えている気がした。
「汚くてごめんなさい。なんだかどんどん生活スペースが狭くなってきてて。」
キッチンから声が聞こえ、姿が見えないのをいいことに、舞衣はキョロキョロと部屋を観察してしまう。
他の部屋に入ったことがないから知らなかったけど、やっぱり間取りは一緒なんだな。
でも私の部屋とは全然雰囲気が違う。
舞衣の部屋は、せっかく初めての一人暮らしなんだからと、北欧生まれの家具量販店にて、見た目重視で買い揃えた。
予想以上にメルヘンな部屋になってしまったが、結構気に入っている。
舞衣の部屋と比べると、この部屋のほうが生活感が感じられた。
大きな段ボールが部屋の隅に置かれたままになっていて、中からお米が見えている。
飾られたドライフラワーや、テーブルの上の小瓶に入った茶葉からは女性らしさが感じられ、木製の家具からは温もりが伝わるが、やはり樽や大瓶が気になるところだ。
梅酒以外にも色々漬けてるんだろうな。
まさか、隣の部屋にこんな世界が広がっていようとは。
舞衣が感慨深い気持ちで座布団に座っていると、彼女がお盆を持って戻ってきた。
「好みがわからなかったので、濃さが気に入らなかったら言って下さい。薄めたり、足したり出来るので。」
布製のコースターを敷くと、氷が入った梅ジュースを舞衣の前へ置いた。
「梅ジュース、久しぶりです。いただきます。」
舞衣の母は気が向いた年にしか作らず、梅酒だけ作る時もあるので、いつも飲める訳ではない。
また、実家以外で梅ジュースを飲む機会もなく、少しドキドキしながら口を付けると、舞衣以上に緊張している隣人の顔が見えた。
「美味しい!あー、酸っぱさと甘味が絶妙ですね!!これからもっと暑くなるから、これが欲しくなるんですよねー。」
舞衣の感想を聞き、彼女の表情が和らぐ。
「良かったです。考えてみたら、どうせ自分しか飲まないからって、自分の好みで酸っぱめに作ってしまって。」
気持ちはわかる気がした。
一人暮らしだと、どうしても自分主体になってしまう。
しょっちゅう友達や恋人などが出入りするなら別だが、ここのアパートは単身者用で狭いし、壁も薄い。
この部屋に定期的に訪れる人は少ないのかもしれない。
舞衣も同じであった。
もう一口ジュースを飲むと、舞衣は思い切って提案してみた。
「あの、今更ですが、名前を訊いてもいいですか?」
ここのアパートは女性の一人暮らしが多い為、ほとんどの住人が表札を出していないのだ。
「そうですよね!私は、森山です。森山咲子。三年前からこのアパートに住んでいます。」
「私は小高舞衣です。ご存知でしょうが、一年前に引越してきました。実家は近いんですけど。」
それからは、会話が弾み出した。
最初は共通の話題として、近所のお店や、大家さんについて。
年齢や仕事の話になる頃には、お互い会話が楽しくなり、夕飯もそのまま一緒に食べることにした。
「あ、私、さっきスーパーでお惣菜買ったんだった!良かったらこれ。」
「あはは!量がすごい。これ、一人で食べ切るつもりだったの?」
笑いながら白飯や、自家製の糠漬けを並べ、ベランダのプランターからミニトマトをとってきてくれた。
二人の賑やかな夕飯が始まった。
「ありがとうございます。じゃあ梅ジュースをいただいてもいいですか?」
舞衣は、お隣の部屋に足を踏み入れていた。
玄関は、一年前に訪れた時より、更に物が増えている気がした。
「汚くてごめんなさい。なんだかどんどん生活スペースが狭くなってきてて。」
キッチンから声が聞こえ、姿が見えないのをいいことに、舞衣はキョロキョロと部屋を観察してしまう。
他の部屋に入ったことがないから知らなかったけど、やっぱり間取りは一緒なんだな。
でも私の部屋とは全然雰囲気が違う。
舞衣の部屋は、せっかく初めての一人暮らしなんだからと、北欧生まれの家具量販店にて、見た目重視で買い揃えた。
予想以上にメルヘンな部屋になってしまったが、結構気に入っている。
舞衣の部屋と比べると、この部屋のほうが生活感が感じられた。
大きな段ボールが部屋の隅に置かれたままになっていて、中からお米が見えている。
飾られたドライフラワーや、テーブルの上の小瓶に入った茶葉からは女性らしさが感じられ、木製の家具からは温もりが伝わるが、やはり樽や大瓶が気になるところだ。
梅酒以外にも色々漬けてるんだろうな。
まさか、隣の部屋にこんな世界が広がっていようとは。
舞衣が感慨深い気持ちで座布団に座っていると、彼女がお盆を持って戻ってきた。
「好みがわからなかったので、濃さが気に入らなかったら言って下さい。薄めたり、足したり出来るので。」
布製のコースターを敷くと、氷が入った梅ジュースを舞衣の前へ置いた。
「梅ジュース、久しぶりです。いただきます。」
舞衣の母は気が向いた年にしか作らず、梅酒だけ作る時もあるので、いつも飲める訳ではない。
また、実家以外で梅ジュースを飲む機会もなく、少しドキドキしながら口を付けると、舞衣以上に緊張している隣人の顔が見えた。
「美味しい!あー、酸っぱさと甘味が絶妙ですね!!これからもっと暑くなるから、これが欲しくなるんですよねー。」
舞衣の感想を聞き、彼女の表情が和らぐ。
「良かったです。考えてみたら、どうせ自分しか飲まないからって、自分の好みで酸っぱめに作ってしまって。」
気持ちはわかる気がした。
一人暮らしだと、どうしても自分主体になってしまう。
しょっちゅう友達や恋人などが出入りするなら別だが、ここのアパートは単身者用で狭いし、壁も薄い。
この部屋に定期的に訪れる人は少ないのかもしれない。
舞衣も同じであった。
もう一口ジュースを飲むと、舞衣は思い切って提案してみた。
「あの、今更ですが、名前を訊いてもいいですか?」
ここのアパートは女性の一人暮らしが多い為、ほとんどの住人が表札を出していないのだ。
「そうですよね!私は、森山です。森山咲子。三年前からこのアパートに住んでいます。」
「私は小高舞衣です。ご存知でしょうが、一年前に引越してきました。実家は近いんですけど。」
それからは、会話が弾み出した。
最初は共通の話題として、近所のお店や、大家さんについて。
年齢や仕事の話になる頃には、お互い会話が楽しくなり、夕飯もそのまま一緒に食べることにした。
「あ、私、さっきスーパーでお惣菜買ったんだった!良かったらこれ。」
「あはは!量がすごい。これ、一人で食べ切るつもりだったの?」
笑いながら白飯や、自家製の糠漬けを並べ、ベランダのプランターからミニトマトをとってきてくれた。
二人の賑やかな夕飯が始まった。
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