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マチョ村と呼ばれています
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「マチョ村~、次体育だから早く~!」
「待って待って、やばっ! やっぱりお弁当忘れてきてるじゃん。体育の後でもダッシュしたら購買のパンまだ買えるかな? 残ってなかったらどうしよう」
「あははっ、今日厄日なんじゃないの? マチョ、さっきの古文も当てられてたし」
「その前の数学もじゃなかった?」
三人の友人と笑いあいながら更衣室へと走る私は、松村香蓮十七歳。
花も恥じらう高校二年生だ。
「あっ! あれって櫻井先輩じゃない? 今日も最高にカッコイイ……」
「一緒にいる松本先輩だっていつ見ても爽やかでイケメン。マチョ村もそう思うでしょ?」
「うーん、私はあまり先輩たちには興味がないっていうか……」
「出たよ。どうせマッチョさが足りないとか言い出すんでしょ? マチョ好みの筋肉モリモリ高校生なんてその辺にホイホイいるかっつーの!」
「ほんとマチョ村って変わってるよねー」
「ねー」
ひどい言われようだが、あながち間違ってもいないので言い返せない。
確かに先輩たちはアイドルグループにいそうなほど顔が整っているのはわかるけれど、圧倒的に体の厚みが足りないと思ってしまうのだ。
細マッチョはいても、マッチョな高校男子にはあまりお目にかかれないというのが悲しい現実なのである。
あーあ、そもそもうちの高校ってスポーツ部が弱すぎなんだよね。
もう少し運動にも力を入れてたら、マッチョも少しはいたかもしれないのに。
まあ、細マッチョとマッチョの境界はあくまで私の勝手な判断なんだけどね。
でも筋肉にはちょっとうるさいんだな、私。
もうおわかりだとは思うが、私はマッチョな男性に心を惹かれてしまう。
やれ韓国アイドルだの、やれ人気の若手俳優だのと同級生はキャッキャとはしゃいでいるが、その手の男性には私は全く関心を持てなかった。
だって、彼らはせいぜい細マッチョがいいところで、皆そろってすらっとした体躯をしているからだ。
まあ踊ることや、演じる役の幅を考えれば当然だとは思う。
だけど私はもっとドーンとした存在感を放つ、服を着ていても隠し切れない、ほとばしる筋肉を求めているのである。
『あら、あなた実は結構鍛えているのね?』レベルはお呼びじゃないのだ。
なーんてことを、高校入学直後の教室で熱く語ったせいで、私のあだ名は早々に『マチョ村』になってしまった。
言わずもがな、苗字の『松村』をもじったもので、今では『マチョ』と短縮形で呼ぶ子もいる。
それほどまでに私のマッチョ好きは学校中に認知されてしまっていた。
せっかく『香蓮』という可愛い名前を付けてくれた両親には申し訳がないとは思うが仕方がない。
――と、私の自己紹介はここまでにして。
結局体育のせいで小さいパンを一つしか買えなかったその日の私は、お腹を空かせていたからか、はたまた視界に入ったマッチョな大学生に見惚れていたからか……うっかり駅の階段を踏み外してしまった。
そして、それが松村香蓮としての最後の記憶になったのである。
「待って待って、やばっ! やっぱりお弁当忘れてきてるじゃん。体育の後でもダッシュしたら購買のパンまだ買えるかな? 残ってなかったらどうしよう」
「あははっ、今日厄日なんじゃないの? マチョ、さっきの古文も当てられてたし」
「その前の数学もじゃなかった?」
三人の友人と笑いあいながら更衣室へと走る私は、松村香蓮十七歳。
花も恥じらう高校二年生だ。
「あっ! あれって櫻井先輩じゃない? 今日も最高にカッコイイ……」
「一緒にいる松本先輩だっていつ見ても爽やかでイケメン。マチョ村もそう思うでしょ?」
「うーん、私はあまり先輩たちには興味がないっていうか……」
「出たよ。どうせマッチョさが足りないとか言い出すんでしょ? マチョ好みの筋肉モリモリ高校生なんてその辺にホイホイいるかっつーの!」
「ほんとマチョ村って変わってるよねー」
「ねー」
ひどい言われようだが、あながち間違ってもいないので言い返せない。
確かに先輩たちはアイドルグループにいそうなほど顔が整っているのはわかるけれど、圧倒的に体の厚みが足りないと思ってしまうのだ。
細マッチョはいても、マッチョな高校男子にはあまりお目にかかれないというのが悲しい現実なのである。
あーあ、そもそもうちの高校ってスポーツ部が弱すぎなんだよね。
もう少し運動にも力を入れてたら、マッチョも少しはいたかもしれないのに。
まあ、細マッチョとマッチョの境界はあくまで私の勝手な判断なんだけどね。
でも筋肉にはちょっとうるさいんだな、私。
もうおわかりだとは思うが、私はマッチョな男性に心を惹かれてしまう。
やれ韓国アイドルだの、やれ人気の若手俳優だのと同級生はキャッキャとはしゃいでいるが、その手の男性には私は全く関心を持てなかった。
だって、彼らはせいぜい細マッチョがいいところで、皆そろってすらっとした体躯をしているからだ。
まあ踊ることや、演じる役の幅を考えれば当然だとは思う。
だけど私はもっとドーンとした存在感を放つ、服を着ていても隠し切れない、ほとばしる筋肉を求めているのである。
『あら、あなた実は結構鍛えているのね?』レベルはお呼びじゃないのだ。
なーんてことを、高校入学直後の教室で熱く語ったせいで、私のあだ名は早々に『マチョ村』になってしまった。
言わずもがな、苗字の『松村』をもじったもので、今では『マチョ』と短縮形で呼ぶ子もいる。
それほどまでに私のマッチョ好きは学校中に認知されてしまっていた。
せっかく『香蓮』という可愛い名前を付けてくれた両親には申し訳がないとは思うが仕方がない。
――と、私の自己紹介はここまでにして。
結局体育のせいで小さいパンを一つしか買えなかったその日の私は、お腹を空かせていたからか、はたまた視界に入ったマッチョな大学生に見惚れていたからか……うっかり駅の階段を踏み外してしまった。
そして、それが松村香蓮としての最後の記憶になったのである。
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