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生徒会長も悪役令嬢の味方
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放課後の学園、人通りの少ない階段で第一王子の婚約者である公爵令嬢……いや、悪役令嬢が見知らぬ男と親し気に寄り添っている――
自称ヒロインのロザリーにとってはこれ以上ないスキャンダルを掴んだも同然で、鼻息荒く捲し立ててきた。
「うわぁ、令嬢のお手本マリアンヌが隠れて男と会っているなんて! しかも相手は顔が見えないほど前髪がウザくてダサいし。え、高貴な方ってこういうのが好みなんですかー?」
ケラケラ笑いながら勝ち誇る顔が腹立たしい。
確かにアレンの顔は今日も隠れているけれど、うちに仕え始めた頃は髪も短くて、それはそれは綺麗な顔をしていたんだからね……曖昧な記憶だけど。
「ちょっと、それは言い過ぎじゃ……」
プシュッ
「あんた、煩いから黙ってて」
マリアンヌがロザリーへ言い返そうとした言葉は、アレンがロザリーの顔にミスト状の液体を吹きかけたことで中途半端に終わった。
「え、アレン!? あなた何をしているの?」
「何って、睡眠薬的な? あ、すぐに目覚めるのでご安心を」
「いやいや、何をしてくれちゃってるの? 計画と違うじゃない」
見ればロザリーは力が抜けたようにぐったりとしてアレンに支えられている。
そのまま踊り場に寝かせるのかと思いきや、アレンはペッとロザリーを雑に転がした。
「きゃー、もっと丁寧に扱いなさいよ」
「お嬢様は優しいですね。この令嬢には屁でもないですって」
「女の子に屁とか言わない!」
「あ、お嬢様、早く生徒会室に行かないと」
「あ、そうだったわ。もう、帰ったらじっくり聞かせてもらいますからね!」
ありえない速さで駆けていくマリアンヌを、アレンが手を振って見送っていた。
もうもう、一体なんなのよ?
計画が台無しじゃないの。
それにしても、アレンはよく学園内に入れたわよね。
セキュリティーが厳しいのではなかったっけ?
考えている間もマリアンヌの足は動き、普段学生が使用しない廊下を次々と走り抜け、最後に生徒会室付近の渡り廊下へと窓から飛び降りた。
生徒会のメンバーは三年が多く、彼らは教室と生徒会室が近い為、この渡り廊下を使用するのは数名の二年生だけだった。
よって、気を付けてさえいれば目撃される可能性は低いのである。
「みなさま、ごきげんよう」
ササっと髪と制服の裾を整え、いつものスマイルで生徒会室へ入って行けば、先に到着していた三年の役員が笑顔で迎えてくれた。
中でも子供の頃から見知っているアルターは、気安い態度で接してくる。
「やあ、マリアンヌ。今日もよろしく頼むよ」
「アルター会長、もちろんですわ」
「おいおい、君に会長と呼ばれると落ち着かないからやめてくれ」
生徒会長のアルターは、公爵家の嫡男で現宰相の息子である。
学園始まって以来の秀才だと言われている。
マリアンヌがクスクス笑いながら席に座ると、すぐに全員が揃って定例会が始まった。
まだ最初の議題、文化祭について話している最中にそれは起こった。
「マリアンヌ、とうとうロザリーに手を出すとは恐ろしいやつだ! 見ろ、ロザリーがこんなに震えているではないか!」
「えぐっ、わ、わたし、マリアンヌ様が恐ろしいですぅ~」
生徒会室へ、ジャルダンとマリアンヌが乱入してきたのである。
やっぱり来たわね。
あまり心配はしていなかったけれど、睡眠薬の後遺症がないみたいで安心したわ。
それにしても恐ろしいのはロザリーの執念じゃないかしら?
目が覚めたロザリーがすぐにジャルダンに泣きついたことは想像に難くない。
「ジャルダン殿下、何があったのかは知りませんが、今我々は定例会の最中なのでお引き取り願えませんか」
今までの二人の行いを知っているのか、アルターがすげなく追い返そうとしている。
さすがに王子相手に強気過ぎる気もするが、他の役員もそれを止める者はいなかった。
「なんだと!? ロザリーは階段から突き落とされたんだぞ? 私が屋上で待っている間になんて卑怯な。犯人はそこにいるマリアンヌだ!」
「そうですぅ。私に愛しい男との逢引を邪魔されたマリアンヌ様は、凄い形相で私を階段の上から下まで突き落としたんですぅ」
おお、さすがロザリー、盛大に話を盛ってきたわね。
大袈裟に言うほど嘘っぽくなるってどうして学ばないのかしら。
でもさっきの状況は、ちょっと近い物はあったわね。
アレンめ……。
「はーっ、階段の上から突き落とされてそんなに元気な人間がいるはずないだろう。もう少しマシな嘘をついてくれ。しかも殿下、その階段って屋上に続く例の階段ですよね? ここからどれだけ離れているとお思いですか。マリアンヌは会議が始まる前から来ていたし、そんな場所に行く暇などなかったですよ」
「でも私、見ましたもん! マリアンヌ様はぁ、ダッサい男と二人っきりで怪しい雰囲気でした。あの男とデキてるんですよねぇ~?」
ロザリーは楽しくて仕方がないといった風にニヤニヤしている。
アレン、またダサいって言われてるわよ。
しかも恋人だと思われて……。
どうして学園まで来ちゃったのかしらねぇ。
「いい加減になさってください! マリアンヌは殿下の婚約者でしょう? 己の婚約者を信じず、一人の妄言に惑わされるなどあってはならないことですよ!」
うんともすんとも言わないマリアンヌに代わって、アルターが矢面に立ち強い口調で反論してくれている。
ロザリーは日ごろの行いのせいで、とうとう妄言を吐く女だと思われているみたいだ。
これも自業自得かもしれない。
結局、二人は生徒会室を追い出される形でいなくなった。
「マリアンヌ、さっさと公爵に婚約破棄を頼んだらどうだ。破談になったら私の妻になればいい。大切にするぞ?」
「アルター様は昔からそうやってよく慰めてくれていましたよね。でも大丈夫です。お気持ちはありがたいですが」
「いや、本気なのだが。ははっ、マリアンヌは相変わらず手強いな」
「え?」
定例会が終わった後、庇ってくれたアルターにマリアンヌは感謝の気持ちでいっぱいだったが、一方のアルターは困ったように肩をすくめたのだった。
自称ヒロインのロザリーにとってはこれ以上ないスキャンダルを掴んだも同然で、鼻息荒く捲し立ててきた。
「うわぁ、令嬢のお手本マリアンヌが隠れて男と会っているなんて! しかも相手は顔が見えないほど前髪がウザくてダサいし。え、高貴な方ってこういうのが好みなんですかー?」
ケラケラ笑いながら勝ち誇る顔が腹立たしい。
確かにアレンの顔は今日も隠れているけれど、うちに仕え始めた頃は髪も短くて、それはそれは綺麗な顔をしていたんだからね……曖昧な記憶だけど。
「ちょっと、それは言い過ぎじゃ……」
プシュッ
「あんた、煩いから黙ってて」
マリアンヌがロザリーへ言い返そうとした言葉は、アレンがロザリーの顔にミスト状の液体を吹きかけたことで中途半端に終わった。
「え、アレン!? あなた何をしているの?」
「何って、睡眠薬的な? あ、すぐに目覚めるのでご安心を」
「いやいや、何をしてくれちゃってるの? 計画と違うじゃない」
見ればロザリーは力が抜けたようにぐったりとしてアレンに支えられている。
そのまま踊り場に寝かせるのかと思いきや、アレンはペッとロザリーを雑に転がした。
「きゃー、もっと丁寧に扱いなさいよ」
「お嬢様は優しいですね。この令嬢には屁でもないですって」
「女の子に屁とか言わない!」
「あ、お嬢様、早く生徒会室に行かないと」
「あ、そうだったわ。もう、帰ったらじっくり聞かせてもらいますからね!」
ありえない速さで駆けていくマリアンヌを、アレンが手を振って見送っていた。
もうもう、一体なんなのよ?
計画が台無しじゃないの。
それにしても、アレンはよく学園内に入れたわよね。
セキュリティーが厳しいのではなかったっけ?
考えている間もマリアンヌの足は動き、普段学生が使用しない廊下を次々と走り抜け、最後に生徒会室付近の渡り廊下へと窓から飛び降りた。
生徒会のメンバーは三年が多く、彼らは教室と生徒会室が近い為、この渡り廊下を使用するのは数名の二年生だけだった。
よって、気を付けてさえいれば目撃される可能性は低いのである。
「みなさま、ごきげんよう」
ササっと髪と制服の裾を整え、いつものスマイルで生徒会室へ入って行けば、先に到着していた三年の役員が笑顔で迎えてくれた。
中でも子供の頃から見知っているアルターは、気安い態度で接してくる。
「やあ、マリアンヌ。今日もよろしく頼むよ」
「アルター会長、もちろんですわ」
「おいおい、君に会長と呼ばれると落ち着かないからやめてくれ」
生徒会長のアルターは、公爵家の嫡男で現宰相の息子である。
学園始まって以来の秀才だと言われている。
マリアンヌがクスクス笑いながら席に座ると、すぐに全員が揃って定例会が始まった。
まだ最初の議題、文化祭について話している最中にそれは起こった。
「マリアンヌ、とうとうロザリーに手を出すとは恐ろしいやつだ! 見ろ、ロザリーがこんなに震えているではないか!」
「えぐっ、わ、わたし、マリアンヌ様が恐ろしいですぅ~」
生徒会室へ、ジャルダンとマリアンヌが乱入してきたのである。
やっぱり来たわね。
あまり心配はしていなかったけれど、睡眠薬の後遺症がないみたいで安心したわ。
それにしても恐ろしいのはロザリーの執念じゃないかしら?
目が覚めたロザリーがすぐにジャルダンに泣きついたことは想像に難くない。
「ジャルダン殿下、何があったのかは知りませんが、今我々は定例会の最中なのでお引き取り願えませんか」
今までの二人の行いを知っているのか、アルターがすげなく追い返そうとしている。
さすがに王子相手に強気過ぎる気もするが、他の役員もそれを止める者はいなかった。
「なんだと!? ロザリーは階段から突き落とされたんだぞ? 私が屋上で待っている間になんて卑怯な。犯人はそこにいるマリアンヌだ!」
「そうですぅ。私に愛しい男との逢引を邪魔されたマリアンヌ様は、凄い形相で私を階段の上から下まで突き落としたんですぅ」
おお、さすがロザリー、盛大に話を盛ってきたわね。
大袈裟に言うほど嘘っぽくなるってどうして学ばないのかしら。
でもさっきの状況は、ちょっと近い物はあったわね。
アレンめ……。
「はーっ、階段の上から突き落とされてそんなに元気な人間がいるはずないだろう。もう少しマシな嘘をついてくれ。しかも殿下、その階段って屋上に続く例の階段ですよね? ここからどれだけ離れているとお思いですか。マリアンヌは会議が始まる前から来ていたし、そんな場所に行く暇などなかったですよ」
「でも私、見ましたもん! マリアンヌ様はぁ、ダッサい男と二人っきりで怪しい雰囲気でした。あの男とデキてるんですよねぇ~?」
ロザリーは楽しくて仕方がないといった風にニヤニヤしている。
アレン、またダサいって言われてるわよ。
しかも恋人だと思われて……。
どうして学園まで来ちゃったのかしらねぇ。
「いい加減になさってください! マリアンヌは殿下の婚約者でしょう? 己の婚約者を信じず、一人の妄言に惑わされるなどあってはならないことですよ!」
うんともすんとも言わないマリアンヌに代わって、アルターが矢面に立ち強い口調で反論してくれている。
ロザリーは日ごろの行いのせいで、とうとう妄言を吐く女だと思われているみたいだ。
これも自業自得かもしれない。
結局、二人は生徒会室を追い出される形でいなくなった。
「マリアンヌ、さっさと公爵に婚約破棄を頼んだらどうだ。破談になったら私の妻になればいい。大切にするぞ?」
「アルター様は昔からそうやってよく慰めてくれていましたよね。でも大丈夫です。お気持ちはありがたいですが」
「いや、本気なのだが。ははっ、マリアンヌは相変わらず手強いな」
「え?」
定例会が終わった後、庇ってくれたアルターにマリアンヌは感謝の気持ちでいっぱいだったが、一方のアルターは困ったように肩をすくめたのだった。
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