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第二王子は悪役令嬢の味方
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第二王子レックスによるロザリーへの追及が始まった。
「さて、ロザリー嬢だっけ? 君はその教科書を義姉……いや、マリアンヌ嬢が捨てたと言っていたね?」
「そうですわ! 今日の一限で使ったあとに盗まれて、なんと湿地帯の手前に捨てられていたそうです! なんてひどいの!!」
ロザリーの言い分を聞くなりレックスは頭痛がするかのようにこめかみを押さえ出し、周囲の人間は呆気にとられたようにあんぐりと口を開けた。
あーあ、自分からそんなことを言ってしまって、ロザリーってやっぱりお馬鹿よね。
普通に考えたら授業のある学生が、短時間にそんなところまで捨てに行けるはずがないもの。
それにしても、ロザリーってジャルダン様がいないところだと随分はっきり喋るのね。
「はあー、馬鹿を相手にするってしんどいな。でもこれもマリアンヌの為だから仕方ないか」
「レックス様?」
「何でもないよ、義姉上。ちなみに義姉上の午前中の行動について一応確認しておいてもいいかな?」
「それでしたら私たちが。マリアンヌ様は全ての授業に出席されておりましたので、外に出る時間などあるはずもございません。クラス全員が証言できます」
友人の一人がきっぱりと言うと、他の友人も一斉に頷く。
これでアリバイは証明された――と思ったら。
「そんなの誰かに捨てに行かせたか、高いところから投げ捨てたに決まってます!」
ロザリーが金切り声を上げて反論した。
『おっ、ロザリーって案外鋭いところもあるのね』なんてマリアンヌが感心していると、溜め息交じりにレックスが口を開く。
「行って帰ってくるだけで相当な時間がかかるというのに? 誰かって具体的には? しかも投げたって湿地帯の手前までは相当な距離があるけど、そんな剛腕がいるのならお目にかかってみたいものだ」
てへっ、実はここにいるんですよー。
いや、私もあんなにうまく飛ぶとは思わなかったんですけどねー。
……とはさすがに言えないわね。
マリアンヌが神妙な顔で黙っていると、フルフルと震え出したロザリーは「絶対マリアンヌがやったのよ!」と捨て台詞を吐いて、食堂から逃げ出した。
とうとう呼び捨てにされてしまったし、随分と嫌われたものである。
「義姉上、大丈夫? あの頭のおかしな令嬢のことは気にしないほうがいいよ。まったく、兄上も何をしているんだか」
一瞬暗く蔑むような目をしたレックスだったが、すぐにマリアンヌへいつもの優しい視線を向けると、労わるように彼女の頭を撫でた。
一つ年下のはずのレックスは、いつの間にかマリアンヌの背丈を遥かに超えてこうやって甘やかしてくるのだから困ってしまう。
「ありがとうございます、レックス様。私が知らない間に立派になられて」
「ふふっ、そう思ってもらえたなら嬉しいよ」
クールな第二王子の、めったに見せない艶やかな微笑みに心を打ちぬかれた令嬢たちによって、食堂での出来事は瞬く間に拡散されたのだった。
◆◆◆
「本日も嫌がらせ、お疲れ様でございました」
「微妙に腹が立つ言い方だけど、まあいいわ」
屋敷に戻ったマリアンヌは、今日の成果についてアレンに一通り話して聞かせたが、食堂でレックスが登場したところで何故か不満そうな顔をしていることに気付いてしまった。
「何よ、そのへの字口は」
「別になんでも。お嬢様は相変わらずモテモテでいらっしゃるなぁと」
「は? どこがよ? 言っちゃなんだけど、婚約者に浮気されるような女よ?」
「それは婚約者が馬鹿なんですよ」
「ちょっ……それはさすがに不敬よ!」
注意をしてもそっぽを向いているアレンに、諦めて第三の嫌がらせについて相談をしてみる。
「とうとう最後の嫌がらせなんだけど、やっぱり躊躇しちゃうわ。階段から落とすなんて度が過ぎているし」
「そうですか? 屋上から突き落としたって不死身なくらいに図太い女に思えますけど」
「言い方! 確かに困った子だけど怪我をさせるのもね。ここはしっかり計画を練らないと」
「はあ、しょうがないですね。……これが学園の地図なのですが」
「どこで手に入れたのよ!?」
こうして、悪役令嬢としての有終の美を飾るべく最後の嫌がらせの計画が練られたのだった。
学園ではロザリーの自作自演と思われる出来事たちに注目が集まっているが、小説のような展開に胸を弾ませる令嬢も数多いと聞く。
それもこれも、マリアンヌが限りなく悪役令嬢っぽいにも関わらず、アリバイがしっかりしているからだろう。
今までの努力が功を奏し、好感度が高かったおかげでもある。
――いや、単にロザリーが嫌われ過ぎているせいかもしれないが。
兎にも角にもマリアンヌの父、公爵の耳にも最近の学園の様子は届いているらしく、日に日にジャルダンへ対する不信感を膨らませている。
早く嫌がらせを終わらせないと、先に婚約破棄を王家に申し込んでしまいそうな雰囲気である。
マリアンヌは二日後にロザリーへの嫌がらせを行うことに決めた。
「さて、ロザリー嬢だっけ? 君はその教科書を義姉……いや、マリアンヌ嬢が捨てたと言っていたね?」
「そうですわ! 今日の一限で使ったあとに盗まれて、なんと湿地帯の手前に捨てられていたそうです! なんてひどいの!!」
ロザリーの言い分を聞くなりレックスは頭痛がするかのようにこめかみを押さえ出し、周囲の人間は呆気にとられたようにあんぐりと口を開けた。
あーあ、自分からそんなことを言ってしまって、ロザリーってやっぱりお馬鹿よね。
普通に考えたら授業のある学生が、短時間にそんなところまで捨てに行けるはずがないもの。
それにしても、ロザリーってジャルダン様がいないところだと随分はっきり喋るのね。
「はあー、馬鹿を相手にするってしんどいな。でもこれもマリアンヌの為だから仕方ないか」
「レックス様?」
「何でもないよ、義姉上。ちなみに義姉上の午前中の行動について一応確認しておいてもいいかな?」
「それでしたら私たちが。マリアンヌ様は全ての授業に出席されておりましたので、外に出る時間などあるはずもございません。クラス全員が証言できます」
友人の一人がきっぱりと言うと、他の友人も一斉に頷く。
これでアリバイは証明された――と思ったら。
「そんなの誰かに捨てに行かせたか、高いところから投げ捨てたに決まってます!」
ロザリーが金切り声を上げて反論した。
『おっ、ロザリーって案外鋭いところもあるのね』なんてマリアンヌが感心していると、溜め息交じりにレックスが口を開く。
「行って帰ってくるだけで相当な時間がかかるというのに? 誰かって具体的には? しかも投げたって湿地帯の手前までは相当な距離があるけど、そんな剛腕がいるのならお目にかかってみたいものだ」
てへっ、実はここにいるんですよー。
いや、私もあんなにうまく飛ぶとは思わなかったんですけどねー。
……とはさすがに言えないわね。
マリアンヌが神妙な顔で黙っていると、フルフルと震え出したロザリーは「絶対マリアンヌがやったのよ!」と捨て台詞を吐いて、食堂から逃げ出した。
とうとう呼び捨てにされてしまったし、随分と嫌われたものである。
「義姉上、大丈夫? あの頭のおかしな令嬢のことは気にしないほうがいいよ。まったく、兄上も何をしているんだか」
一瞬暗く蔑むような目をしたレックスだったが、すぐにマリアンヌへいつもの優しい視線を向けると、労わるように彼女の頭を撫でた。
一つ年下のはずのレックスは、いつの間にかマリアンヌの背丈を遥かに超えてこうやって甘やかしてくるのだから困ってしまう。
「ありがとうございます、レックス様。私が知らない間に立派になられて」
「ふふっ、そう思ってもらえたなら嬉しいよ」
クールな第二王子の、めったに見せない艶やかな微笑みに心を打ちぬかれた令嬢たちによって、食堂での出来事は瞬く間に拡散されたのだった。
◆◆◆
「本日も嫌がらせ、お疲れ様でございました」
「微妙に腹が立つ言い方だけど、まあいいわ」
屋敷に戻ったマリアンヌは、今日の成果についてアレンに一通り話して聞かせたが、食堂でレックスが登場したところで何故か不満そうな顔をしていることに気付いてしまった。
「何よ、そのへの字口は」
「別になんでも。お嬢様は相変わらずモテモテでいらっしゃるなぁと」
「は? どこがよ? 言っちゃなんだけど、婚約者に浮気されるような女よ?」
「それは婚約者が馬鹿なんですよ」
「ちょっ……それはさすがに不敬よ!」
注意をしてもそっぽを向いているアレンに、諦めて第三の嫌がらせについて相談をしてみる。
「とうとう最後の嫌がらせなんだけど、やっぱり躊躇しちゃうわ。階段から落とすなんて度が過ぎているし」
「そうですか? 屋上から突き落としたって不死身なくらいに図太い女に思えますけど」
「言い方! 確かに困った子だけど怪我をさせるのもね。ここはしっかり計画を練らないと」
「はあ、しょうがないですね。……これが学園の地図なのですが」
「どこで手に入れたのよ!?」
こうして、悪役令嬢としての有終の美を飾るべく最後の嫌がらせの計画が練られたのだった。
学園ではロザリーの自作自演と思われる出来事たちに注目が集まっているが、小説のような展開に胸を弾ませる令嬢も数多いと聞く。
それもこれも、マリアンヌが限りなく悪役令嬢っぽいにも関わらず、アリバイがしっかりしているからだろう。
今までの努力が功を奏し、好感度が高かったおかげでもある。
――いや、単にロザリーが嫌われ過ぎているせいかもしれないが。
兎にも角にもマリアンヌの父、公爵の耳にも最近の学園の様子は届いているらしく、日に日にジャルダンへ対する不信感を膨らませている。
早く嫌がらせを終わらせないと、先に婚約破棄を王家に申し込んでしまいそうな雰囲気である。
マリアンヌは二日後にロザリーへの嫌がらせを行うことに決めた。
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