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悪役令嬢を期待されています
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婚約者の前でイチャイチャして見せることの意味もわからないし、彼らは一体何をしたいのだろうか。
マリアンヌは考えてみたが、無駄なことだとすぐに諦めた。
婚約解消してくれるなら、むしろ願ったり叶ったりだというのに。
そもそもあまり頭の出来が良くない第一王子の将来を心配し、マリアンヌを婚約者へと望んだのは王家側だった。
国王が優秀なマリアンヌをサポート役に付けることで、ジャルダンの出来の悪さをカバーしようと言い出したらしい。
しかも、ジャルダンの生母が国王の側妃である為、正妃の息子である第二王子との跡目争いを事前に防ごうと、パワーバランスを考慮した上で結ばれた意味のある婚約なのである。
はっきり言って公爵家側にはたいしたメリットもないが、国王の長男を思う親心に公爵が折れる形でギリギリ結ばれた婚約だった。
常識のある貴族なら誰でもわかることだが、ジャルダンはオーズリー家が後見についているおかげで何とか第一王子としての体裁を保っているに過ぎない。
つまり、彼の立場は非常に危ういものなのだ。
なのに肝心のジャルダンは婚約者のマリアンヌをぞんざいに扱った挙句、男爵令嬢のロザリーとイチャコラする毎日。
これが噂にならないわけもなく――
ジャルダン様、このまま行けば公爵家から婚約破棄を突き付けられるのも時間の問題なのだけど。
我がオーズリー家が後見から外れたら、王太子に選ばれることもないってわかっているのかしら?
でも王位よりも愛する女性を選ぶのなら、それはそれで素敵な事よね、うん。
マリアンヌの一学年下に在籍している第二王子は優秀だと評判で、ジャルダンより格段に人気が高い。
ちなみにジャルダンは現在高等部の三年で、マリアンヌの一つ上の学年である。
多少気にはなったものの、自分が心配することでもないと考え直したマリアンヌは、そろそろ帰ろうかと身を起こしかけたのだが。
「それにしてもジャルダン様が目をかけているあの男爵令嬢は、身の程を知らない厚かましい女ですわよね」
「わたくしも驚きましたわ。あの方、マリアンヌ様のことを『悪役令嬢』なんておっしゃったのよ?」
「まあ! なんて図々しいのかしら。まるで小説のヒロイン気取りではなくて? だったらこの際、マリアンヌ様も『悪役令嬢』として彼女にとことん嫌がらせをしてさしあげたらよろしいのに」
え、『悪役令嬢』?
この私が?
気になる単語が耳に入り、マリアンヌは再び聞き耳を立てる。
「それは愉快ですわね! 大きな声では言えませんが、ロザリー様も少しは痛い目に遭えばよろしいのよ。マリアンヌ様が何もおっしゃらないからと言って好き勝手して。男爵令嬢の分際で目に余りますわ」
「その通り。マリアンヌ様が物語の悪役令嬢のように彼女に多少の嫌がらせをなさったからって、誰も責める者などおりませんもの」
「もちろんですわ。ですが万が一、マリアンヌ様が罪に問われるようなことがあってはいけませんし。……私、悪役令嬢が断罪されても虐めた証拠が見つからず、ヒロイン側が冤罪で追い詰められる展開を希望いたしますわ!」
「まあ、それって『断罪返し』というものではなくて? わたくし大好きなのです!」
「私も! ああ、悪役令嬢マリアンヌ様の華麗な断罪返し……見てみたいですわ」
「マリアンヌ様、悪役令嬢になってくださらないかしら……」
好き勝手話した挙句、途中からうっとりとした声に変った三人は、脳裏に何かを思い浮かべているのか唐突に沈黙が訪れた。
しかしマリアンヌはそれどころではない。
私、『悪役令嬢』を期待されているの?
しかも『断罪返し』って何!?
……これは早急に対処しなければ!
だって私は皆の期待を裏切らない公爵令嬢なんだから!
マリアンヌは令嬢とは思えない早さで校内を駆け抜けると、帰りの馬車へと乗り込んだのだった。
マリアンヌは考えてみたが、無駄なことだとすぐに諦めた。
婚約解消してくれるなら、むしろ願ったり叶ったりだというのに。
そもそもあまり頭の出来が良くない第一王子の将来を心配し、マリアンヌを婚約者へと望んだのは王家側だった。
国王が優秀なマリアンヌをサポート役に付けることで、ジャルダンの出来の悪さをカバーしようと言い出したらしい。
しかも、ジャルダンの生母が国王の側妃である為、正妃の息子である第二王子との跡目争いを事前に防ごうと、パワーバランスを考慮した上で結ばれた意味のある婚約なのである。
はっきり言って公爵家側にはたいしたメリットもないが、国王の長男を思う親心に公爵が折れる形でギリギリ結ばれた婚約だった。
常識のある貴族なら誰でもわかることだが、ジャルダンはオーズリー家が後見についているおかげで何とか第一王子としての体裁を保っているに過ぎない。
つまり、彼の立場は非常に危ういものなのだ。
なのに肝心のジャルダンは婚約者のマリアンヌをぞんざいに扱った挙句、男爵令嬢のロザリーとイチャコラする毎日。
これが噂にならないわけもなく――
ジャルダン様、このまま行けば公爵家から婚約破棄を突き付けられるのも時間の問題なのだけど。
我がオーズリー家が後見から外れたら、王太子に選ばれることもないってわかっているのかしら?
でも王位よりも愛する女性を選ぶのなら、それはそれで素敵な事よね、うん。
マリアンヌの一学年下に在籍している第二王子は優秀だと評判で、ジャルダンより格段に人気が高い。
ちなみにジャルダンは現在高等部の三年で、マリアンヌの一つ上の学年である。
多少気にはなったものの、自分が心配することでもないと考え直したマリアンヌは、そろそろ帰ろうかと身を起こしかけたのだが。
「それにしてもジャルダン様が目をかけているあの男爵令嬢は、身の程を知らない厚かましい女ですわよね」
「わたくしも驚きましたわ。あの方、マリアンヌ様のことを『悪役令嬢』なんておっしゃったのよ?」
「まあ! なんて図々しいのかしら。まるで小説のヒロイン気取りではなくて? だったらこの際、マリアンヌ様も『悪役令嬢』として彼女にとことん嫌がらせをしてさしあげたらよろしいのに」
え、『悪役令嬢』?
この私が?
気になる単語が耳に入り、マリアンヌは再び聞き耳を立てる。
「それは愉快ですわね! 大きな声では言えませんが、ロザリー様も少しは痛い目に遭えばよろしいのよ。マリアンヌ様が何もおっしゃらないからと言って好き勝手して。男爵令嬢の分際で目に余りますわ」
「その通り。マリアンヌ様が物語の悪役令嬢のように彼女に多少の嫌がらせをなさったからって、誰も責める者などおりませんもの」
「もちろんですわ。ですが万が一、マリアンヌ様が罪に問われるようなことがあってはいけませんし。……私、悪役令嬢が断罪されても虐めた証拠が見つからず、ヒロイン側が冤罪で追い詰められる展開を希望いたしますわ!」
「まあ、それって『断罪返し』というものではなくて? わたくし大好きなのです!」
「私も! ああ、悪役令嬢マリアンヌ様の華麗な断罪返し……見てみたいですわ」
「マリアンヌ様、悪役令嬢になってくださらないかしら……」
好き勝手話した挙句、途中からうっとりとした声に変った三人は、脳裏に何かを思い浮かべているのか唐突に沈黙が訪れた。
しかしマリアンヌはそれどころではない。
私、『悪役令嬢』を期待されているの?
しかも『断罪返し』って何!?
……これは早急に対処しなければ!
だって私は皆の期待を裏切らない公爵令嬢なんだから!
マリアンヌは令嬢とは思えない早さで校内を駆け抜けると、帰りの馬車へと乗り込んだのだった。
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