上 下
18 / 25

少女の成長。

しおりを挟む

エミリアは十三歳になった。
貴族学校の中等部に入学し、新しい生活が始まっていた。
ダニエルも二十六歳となり、現在騎士団の中で一番大きな騎士隊の隊長を拝命しているが、副団長の座も間近かと噂されている。

「エミリア様のご婚約者は、立派な殿方で羨ましいですわ。大人っぽくて、優秀で。私の婚約者はまだまだ頼りなくて。」

学校で、同じ年頃の令息を婚約者に持つ令嬢に言われる度、心の中で笑ってしまう。

そりゃあ、ダニー様は実際大人で、私達の倍も生きてるから。
同年代の令息は、成長期もこれからだしね。

まだ身長も体格も小さくて当然の為、お相手の令息に同情してしまうが、ちょっとだけ鼻が高いのも事実だった。
ダニエルは見た目の良さだけでなく、騎士団の中でも真面目で剣の腕がいいと評判なのである。
だからこそ、騎士として生活を安定させる為にも早く結婚し、子を持ったほうがいいと考え、もっと年頃の婚約者を持つべきだとダニエルに進言する者もいるらしい。
お互いが有名な十三歳差カップルの二人は、どこに行っても注目の的で、周囲が放っておかないのだった。

ダニー様と釣り合ってないのは、私が一番わかってるってば。
ほんと、なんであんなにモテる人が私と婚約してるんだろう。
私くらいの容姿なら珍しくないし、やっぱりどうしたって年齢差が気になるよね。
もっと大人になれば、大した問題じゃなくなるんだろうけど。

正直、年齢で否定されるのは、中身が大人のエミリアには腹立たしくも感じられる。
また何より、いつまでも子供っぽい自分の容姿と体型に、ジレンマも感じていた。
仮の婚約だとつい言い張ってしまうのも、自信の無さの現れなのである。

一方、ダニエルはダニエルで悩んでいた。

最近エミィが綺麗になってきた。
元々可愛いが、外見も大人びてきて、たまにドキッとさせる表情を見せるんだよな。
学校に行き始めて、エミィを狙って周りをウロチョロするガキも増えたし、ほんと気が抜けなくて困る。
早く出世して、邪魔な奴らを排除出来るだけの力を手に入れないとな。

真面目で腕はいいが、その原動力は決して褒められたものではなかった。
二人とも何故か自己評価が低く、お互い遠慮をしてしまうのを、シーラ、ルシアン姉弟はヤキモキしながら見守っていた。


◆◆◆

 
良くも悪くも特別な進展がないまま、エミリアは十五歳になった。
学校の噂好きな友人が、誰々が警護中のダニエルにアプローチをかけていただの、愛人でもいいからと捨て身で言い寄った女性がいるなど、エミリアに親切に教えてくれる。
入学当時はいちいち心がざわついていたものだが、最近は割合冷静に聞けるようになり、笑って流せる余裕が出来てきた。
ダニエルが他の女性に靡いたことなど一度も無かったし、エミリアが少し成長し、ダニエルと並んで立っても以前ほどの違和感が無くなってきたことも大きい。
同級生達の話も、終わりはいつも同じだった。

「エミリア様がいるのに、ダニエル様が心変わりなんてするはずがないのに。今までだって浮いた話もないし、二人はとってもお似合いですもの。」

年齢差を気にしてしまうエミリアには、友人の言葉はありがたかった。
元日本人としては、いまだ十五歳と二十八歳の婚約は普通だとは思えず、結婚に踏み切る勇気が出なかったのである。


最近、ダニエルも結婚を意識しているのか、それともただエミリアをからかっているだけなのか、二人で過ごしていると結婚の話を持ち出すことがあった。

「エミィ、そろそろ結婚しない?」

「俺と結婚したくなってきた?」

「早くエミィと一緒に暮らしたい。」

冗談っぽい口調なのだが、半分は本気のような気もする。

日本じゃ、私が生きてる時は十六歳からしか結婚出来なかったのに。
そんな若くして結婚する子もいなかったし。
ここは日本じゃないけど、もし結婚するならせめて高校卒業する年くらいまでは待ってもらいたい・・・

ダニエルもそんな気持ちに気付いているのか、結局はエミリアの意志を尊重してくれた。

「学校卒業までは待ってやるか。それ以上は待てないぞ?」

エミリアの頬を撫でながら、仕方なさそうに、でも愛おしそうに微笑まれると、申し訳無さも募る。

「その時にならないとわかりません。」

あえて強気に答えるエミリアだが、そっぽを向き、真っ赤な顔を見れば、照れてるだけなのは丸わかりで、ダニエルは益々嬉しそうに笑い、頬を突くのだった。


そんな二人に、出会って以来の大きな危機が近付いていた。












しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます

下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。 悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。 悪役令嬢は諦めも早かった。 ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。 ご都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

処理中です...