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デート記念日。

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ダニエルのバートン家訪問から二週間後、エミリアがルシアンの姉と会う日が訪れた。

ルシアンの姉、シーラは二十歳の独身で、町で一番大きくて人気の食堂で働いているらしい。
ランチタイムが落ち着く時間ということで、15時頃に食堂を訪れると伝えてあった。
本当は人気の食堂で食事をしてみたかったエミリアだったが、混み合う食堂は危険だからとダニエルに止められてしまった。
残念がるエミリアの為、今日は屋敷まで迎えに来てくれて、町を少し案内してもらうことになっている。


12時45分。

「エミィ!悪い、待たせたか?」

楽しみにし過ぎて玄関を出て待っていたエミリアの前に、ダニエルが馬車を寄せ、降り立った。
ちなみに、13時の予定だったので、ダニエルは少しも悪くない。

始めてみる私服姿のダニエルは、トレンドを押さえたお洒落な格好をしている。
短い髪も整えられ、撫で付けてあった。

「だにーさま、ごきげんよう。ほんじつは、よろしくおねがいいたします。」

丁寧に挨拶するエミリアの後ろから、エミリアの母も現れ、ダニエルに娘をよろしく頼むと頭を下げた。
前回の訪問が功を奏し、ダニエルはバートン家での評価がすこぶる高かった。
今日の爽やかな外見も、メイド達が頬を染めて見つめている。

馬車に並んで座り、出発すると、エミリアはダニエルの服装を褒めた。

「せいふくいがいをはじめてみましたが、だにーさまはおしゃれなのですね。」

長身で、鍛えている為に体付きがいいダニエルは、騎士の制服ももちろん似合うが、今日の丈の長いジャケットがよく似合っていた。
服に興味が無さそうだと、勝手に決め付けていたエミリアには意外だったが、頭をかきながらダニエルが照れ臭そうに種明かしをする。

「いや、俺は流行りとか疎くて。エミィと町に行くって言ったら、同僚達が選んでくれた。エミィに恥をかかせるなって。」

エミリアの想像通りだったが、心苦しくも思う。

五歳児のお守りに、そんな気を遣わなくても・・・
私、地味なワンピースで悪いことしたかな。

エミリアの格好は、紺のワンピースに白のリボン、白のポシェットという子供にしては落ち着いた装いだった。
襟や袖口のレースなど、可愛らしさもあるが、町で目立たないように考えた結果である。

「おきづかい、ありがとうございます。わたしももっとおしゃれするべきだったかもしれません。」

申し訳なさそうに言うと、ダニエルはきょとんとした顔をした。

「エミィはいつも可愛いぞ?公園で会った時のピンク色も可愛かったが、あれはエミィの好みじゃないだろ?今日の方がしっくりきている顔をしてるもんな。エミィは自分の意志を持ってて凄いと思う。」

ダニエルはエミリアをよく見ているらしい。
ピンクのワンピースを嫌がっているのがバレていたとは思わなかった。

デリカシーがないと思わせといて、案外鋭いところを突いてくるんだよね。
子供相手でも馬鹿にしないで、対等に接してくれるし。
とてもありがたいけど、私と居てこの騎士に何かメリットがあるのかな?

考えている内に町に着き、二人は散策を始める。
今日のデート記念に何か買ってやりたいと言い出したダニエルと、案内を頼んだ上にそんなことをさせられないと断固拒否するエミリア。
大体、デートの自覚もないエミリアには、デート記念の意味も理解出来なかった。

言い争っているエミリアの目に、道端で小物を売っている店が目に入った。

あ、あのアップリケ可愛い!
大きなリンゴ型で、あれ付けたら絶対ダサくて可愛い気がする。
ああいうのは、大人になってからも何故か惹かれちゃうんだよね。

「ん?あの露店か?寄ってみるか。」

すぐさまエミリアの視線に気が付いたダニエルが、露店に近付き、リンゴのアップリケを手に取った。

「これだろ?エミィが気になってるのは。」

そう言うと勝手にお金を払い、リンゴとオレンジのアップリケを購入し、リンゴの方をエミリアに差し出した。

「だ、だめです。だにーさまにおかねをつかわせるわけにはいきません。」

「エミィがもらってくれない方が困るけどな。俺はオレンジをシャツに付けるから、エミィもリンゴをどこかに付けてくれ。」

は?
この青年が、オレンジのアップリケをシャツに付けるの??
いや、可愛いけど・・・可愛いけどさ。

カップルがペアで揃えるにしては、かなり奇抜な発想だったが、ダニエルは記念の物が出来たと喜んでいた。
言い争っていたことを忘れ、エミリアは笑ってしまう。

なんというか、可愛い青年なんだよね。
リンゴ、せっかくだから付けよっと。

大切にポシェットにしまいながら、ダニエルに笑顔を向ける。

「だにーさま、ありがとうございます。帰ったら早速付けますね。」

ダニエルが嬉しそうに頷いた。








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