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少女との出会い。
しおりを挟む時を遡ること三日前。
無事に祝賀パレードを終え、馬から降りた騎士のダニエルは、フゥっと一つ息を吐いた。
すかさず、同僚のルシアンがニヤニヤ笑いながら声をかけてくる。
「どうした?浮かない顔して。パレード中もずっとそんな様子だったな。変なものでも食ったか?」
心配しているのか、からかっているのかわからない台詞に、ダニエルはルシアンの脇腹をズンッと肘で突くと、町に向かって歩きだした。
「休憩してくる。また後でな。」
「いってぇぇぇーー、後で覚えてろよ!!」
ルシアンの叫びを背中で聞きながら、ダニエルは賑わう通りを抜け、通い慣れた公園へと向かった。
小さな公園はベンチがあるだけで、まるで忘れ去られた空間のように、いつ訪れても人がいない。
いつものようにベンチに座ると、父の形見の短剣を取り出し、眺めた。
親父が死んで、一年か。
生きていれば、今日のパレードも、親父が一番讃えられ、感謝されていたはずなのに。
まだまだ働けるはずの年齢で、さぞ無念だっただろう。
全部俺のせいだ。
今でも、自分を助ける為に駆けつけた父親の姿は、はっきりと目に焼き付いている。
独断で無茶をしたことへの怒りと、ダニエルが生きていることへの安心が混ざったような表情だった。
怪我を隠し、王都の家まで辿り着いてから倒れた精神力には感服するが、息子の自分にまで辛さを悟らせず、弱音を吐かない姿にはもどかしさも感じた。
俺のせいで怪我をして、誇りを持っていた騎士も続けられず、結局悪化して死んで・・・
全て俺が悪いのに、俺にも周囲にも、何も言わずに逝ってしまった。
何も言いたくないほどに、俺に呆れて、恨んでいたんだろうな。
ダニエルが短剣を握りしめ、後悔の念に押し潰されそうになっていた時、人の気配を感じた。
いつの間にか俯いていた顔を上げると、小さな女の子が立っている。
こんな場所に珍しいな。
迷子か?
五歳くらいに見える少女は、可愛らしいくりくりとした目でこちらを見ている。
ピンクのワンピースがよく似合っているが、仕立ての良さと雰囲気から、身分の高い貴族の令嬢だとすぐに気付いた。
「なんだ、お前迷子か?こんなところに一人じゃ危ないぞ。」
パレードの賑わいの影で、悪さを企む連中がうろついている時期だ。
「おまえでも、まいごでもありません。おにいさん、となりにすわってもいいですか?」
思いがけず、しっかりとした口調の少女に驚いた。
可愛い見た目とのギャップに、一瞬他の者が喋ったのかと思ったが、あいにく公園にはダニエルと少女しか居ない。
変わった少女の登場に、珍しく興味が湧いた。
「レディー、よろしかったらどうぞこちらへ。」
普段の乱暴な口調を引っ込め、あえて女性が好きそうな、社交界慣れした男のようにレディーと呼び、ハンカチを広げてみる。
すると、少女もダニエルのノリに付き合い、年頃の令嬢のように振る舞ってくれた。
やり慣れない動作に二人で笑い出すと、まるで以前からの知り合いのような居心地の良さを感じた。
騎士で、人当たりが決して良くないダニエルに近付いてくる子供など今まで居なかったが、少女は違うようだ。
見た目通り5歳らしいが、難しい言葉を話し、堂々とした様子はとても5歳には見えない。
それを本人も自覚しているのが面白かった。
「ぱれーどのときにつらいかおをしていました。りゆうがきになって。」
そう言われた時には、強い衝撃を受けた。
年端もいかない少女に痛いところを指摘され、騎士のくせに動揺した。
いくらでも誤魔化せたのかもしれないが、思慮深く、全てを包み込むような少女の視線から逃れることなど出来なかった。
いや、逃げようなどとは少しも思わず、気付けばダニエルは母にも同僚にも話したことのない父の事実を、初対面の五歳の少女に語っていたのだった。
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