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騎士のお兄さん。

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転生してはや五年。
エミリアは見た目は可愛い盛りの五歳だったが、話す内容はいささか可愛くなかった。

「パパ、はやくしゅっぱつしないと、しゅくがぱれーどにまにあわないわ。ごふんまえこうどうは、おとなのじょうしきなのよ。」

五歳のくせに・・・と思いつつも、エミリアに甘い父は笑いながら言葉を返す。

「あはは、エミリアは本当にしっかりしているなぁ。確かにそろそろ出なければな。用意はいいか?」

他の家族に確認し、バートン一家は家を出た。

今日は、騎士団の祝賀パレードが盛大に行われることになっている。
三年前、この国の北部の町が隣国に急襲され、ピンチに陥った。
すぐに騎士団が送られ鎮圧された為、大事には至らなかったのだが、その功績を讃える為に毎年パレードが行われるようになった。
本来はまだ五歳のエミリアはお留守番なのだが、今日の王妃の衣装の仕立てに携わった関係で、特別に招待されたのである。
初めて参加するエミリアは、久々の外出にワクワクしていた。

お出かけお出かけー。
この世界って、子供はあまり外に出られないんだよね。
出られても、馬車で王宮とか。
今日は少しだけど町に行けるから楽しみー!

パレードが見える高台に席が設けられ、椅子に座ったエミリアは辺りを見回した。

「パパ、あそこにみえる、どうぞうはだれなの?」

騎士団が出てくるであろう門の横に、新しそうな銅像が立っていた。
堂々とした佇まいで、騎士の制服を纏っているように見える。

「ああ、あれは前騎士団長の像だよ。三年前の戦いの時に騎士をまとめ、勝利に導いた偉大な方だ。残念ながらその時に負傷されて、その傷がもとで去年亡くなってしまったんだ。」

「えいゆうなのね。」

まだ若く見える英雄の像に、エミリアは心が痛くなった。
自分の国のことなのに、全然知らなかったことを恥じ、これからはこの国についてもっと勉強しようと思った。
ネットやテレビがないこの国では、じっとしていたら子供のエミリアに情報は入ってこないのである。

ほどなくして、パレードが始まった。
若い騎士が凛々しい表情で馬を操り、通り過ぎていく。
通りを埋め尽くす人々から歓声が上がり、騎士に手を振っている姿が多く見られた。
小さいエミリアが身を乗り出しながら眺めていると、父に肩を叩かれた。

「エミリア、もうすぐあの銅像の騎士団長の息子が通るよ。ほら、なんだか顔が強張っているようだが。緊張しているのかな?」

エミリアが顔を向けると、確かに怖い顔をしながら通りを進む騎士がいた。
年は二十歳頃だろうか、確かに銅像の団長に似ている気がする。

なんであんな顔をしているのかしら?
怒っているというか、なんだか辛そうな顔・・・
祝賀パレードなのに。

パレードが終わっても、彼の固い表情がエミリアの心に深く刻み付けられていた。


貴族はパレードの後、王宮の庭園でお茶会があるのだが、一度に移動出来ないこともあり、エミリアの家族も近い席の貴族と談笑を続けていた。

うーん、暇だわ。
せっかくの外出なんだから、ちょっと散策してみるか。
すぐに戻れば大丈夫だよね。

エミリアは勝手に観覧席を抜け出し、ポテポテと歩きだした。

ほうほう、石畳とレンガがおしゃれな町並みねー。
あ、出店だ。
お金があったら、食べ歩きが出来たのにな。

エミリアは父のビジネスを手伝っていたが、お小遣いはもらえていない。
普段は使い道もないから当然なのだが。
ふと公園が目に入り、奥に入っていくと先客がいた。

ありゃ、たそがれてる人を発見。
邪魔しちゃ悪いし、退散するか。

エミリアは戻ろうとしたが、気付いてしまった。

あれ?さっきの元団長の息子さん?

ベンチに座り、何か手に持っているものを見ているようだが、項垂れているようにも見える。
エミリアが近付くと、こちらに気付いて顔を上げた。
馬上の印象より若く見え、ヤンチャそうな顔付きだが、将来有望なイケメンだった。

「なんだ、お前迷子か?こんなところに一人じゃ危ないぞ。」

「おまえでも、まいごでもありません。おにいさん、となりにすわってもいいですか?」

エミリアは彼に興味が湧き、話してみたくなったのだ。
断られるかとも思ったが、彼はおかしそうに笑うと言った。

「ははっ、悪い悪い。レディー、よろしかったらどうぞこちらへ。」

立ち上がると、取り出した白いハンカチをベンチに敷き、わざとうやうやしくエミリアに手を差し出してくる。

「ありがとう。ではおことばにあまえて。」

エミリアもわざと貴婦人っぽく振る舞い、優雅に腰をかけると、二人で同時に吹き出した。

これが二人の最初の出会いだった。



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