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借りたいものって……私?
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最後の令息の部は、参加者を集うアナウンスをする前から、スタート地点には大勢の令息が集合していた。
今までで一番多いのは明らかだ。
令嬢の部が恋愛を目的としたキャピキャピした若い女の子が多かったことに比べると、令息の部は年齢も容姿もバラバラの印象を受ける。
切実に結婚相手を見つけたい人や、バツイチなんかもチラホラと混ざっている上、上司や父親に認められたいという強い目的意識を持つ者もいて既にカオス状態である。
って、『キャピキャピ』はもはや死語かもしれないな。
気を付けよう……。
王太子のアレクシスも、側近のロイバーと共に出場するが、見るからにハンターのようなガツガツかつ、ピリピリしているオーラが漂う中で、二人は清廉な空気を纏っているように見える。
他の数少ない妻帯者や婚約者持ちも、仲が良好アピールの為の出場なのか、こちらも余裕な様子で配偶者や婚約者の応援に手を軽く上げて応えていた。
さて、令息の部までなんとか漕ぎ着けたわね。
これで最後だし、私とグレースで考えたお題で盛り上がればいいけれど。
進行役の私は、準備が整ったことを確認すると、「よーいドン」と高らかに声を上げた。
実行委員を助けるボランティアがそこかしこに配置されたおかげで、私はもう掛け声を言うことしか仕事が無くなってしまった。
もうこの際、よーいドンも誰かがやってくれればいいのに、何故かそれだけは誰も変わってくれないのだ。
……よーいドンって言うのが恥ずかしいからかもしれない。
今回、レースが八名ずつ行われているのと、出場者の異様な気合のせいで、熱気がすごいことになっている。
ロマンスを演出する為に私とグレースが用意したカードには、『波打つプラチナブロンドの髪の持ち主』、『フローラルな香水』から、『レースの手袋』、『触れたくなるような唇』など少し攻めた内容まで混ぜておいた。
さて、どう転ぶか見ものである
いざ始まってみると、カードを見るまでは血走った眼をしていた令息も、口説き落としたい令嬢の前では礼儀正しく、紳士的に同行をお願いしていた。
声をかけられた女の子も満更ではなさそうで、頬が紅潮している。
一時はどうなることかと思ったけれど、なるようになるものね。
もう何組カップルが出来たのかしら?
あ、ロイバー様とグレースが一緒に走っているわ。
グレース、カードを並べる時に何かズルをしたんじゃないでしょうね?
幸せそうな友人の様子は喜ばしいが、こう何度も仲睦まじい様子を見せつけられると悔しくもなってくるもので……。
つい嫉妬じみた感情のまま、よーいドンと投げやりぎみに言っていたら、最終レースになっていた。
七名のメンバーの中にはアレクシスの姿もある。
スタートの合図の前に目が合い、『頑張って!』と口の動きだけで伝えたら、余裕の笑みが返ってきた。
なんだろう、やけに自信満々である。
そして、さきほどまでは澄み切った空気を放っていたはずのアレクシスから、どういうわけか捕食者のようなオーラを感じてしまった。
あら?
アレクの様子がおかしいような……。
そんなにワインが欲しいのかしら?
おじさまに頼めば一瓶くらい分けてもらえると思うけれど。
不思議に思いつつも、私の開始の合図と共にアレクシスたちは動き出した。
王太子相手にも怯むことのない他の六名の出場者には、よほど切羽詰まった事情があるらしい。
険しい形相でカードに向かっていく。
「ええと、なになに……『女性にケーキを食べさせてもらう』!?」
「『ゴール地点でワルツを踊る』か。く~っ、よりによってワルツかよ……」
「ふむ。『同行者の素敵なところを三箇所述べる』か。困ったな……」
あ、もうお題を考えるのに疲れて、だんだん借り物競走じゃなくなってきたやつだわ。
あれじゃもう命令とか指令だものね。
そんな中、アレクシスが脇目も振らず、真っ直ぐ私の前までやってきた。
「アレク、どうしたの? あ、私に何か借りたいのね? まかせて! 実は色々仕込んであるんだから!」
借りることが出来ずに困る人がいたら可哀想だと思い、実は様々な物を隠し持っているのである。
ポケットから口紅や、着けずに持っていた指輪やブローチを出そうとしてーーアレクシスに止められた。
「いや、借りたいものはもうここにあるから」
「え? ここ?」
その瞬間、私はアレクシスに抱き上げられていた。
「ちょっ、アレク、なんで? 下ろして!」
「それは出来ないな。僕の借りたいものはセラだから」
え、借りたいものが私?
一度、心臓が止まりそうなほどの綺麗な微笑みを見せると、アレクシスは悠然と私を抱えて歩き出した。
今までで一番多いのは明らかだ。
令嬢の部が恋愛を目的としたキャピキャピした若い女の子が多かったことに比べると、令息の部は年齢も容姿もバラバラの印象を受ける。
切実に結婚相手を見つけたい人や、バツイチなんかもチラホラと混ざっている上、上司や父親に認められたいという強い目的意識を持つ者もいて既にカオス状態である。
って、『キャピキャピ』はもはや死語かもしれないな。
気を付けよう……。
王太子のアレクシスも、側近のロイバーと共に出場するが、見るからにハンターのようなガツガツかつ、ピリピリしているオーラが漂う中で、二人は清廉な空気を纏っているように見える。
他の数少ない妻帯者や婚約者持ちも、仲が良好アピールの為の出場なのか、こちらも余裕な様子で配偶者や婚約者の応援に手を軽く上げて応えていた。
さて、令息の部までなんとか漕ぎ着けたわね。
これで最後だし、私とグレースで考えたお題で盛り上がればいいけれど。
進行役の私は、準備が整ったことを確認すると、「よーいドン」と高らかに声を上げた。
実行委員を助けるボランティアがそこかしこに配置されたおかげで、私はもう掛け声を言うことしか仕事が無くなってしまった。
もうこの際、よーいドンも誰かがやってくれればいいのに、何故かそれだけは誰も変わってくれないのだ。
……よーいドンって言うのが恥ずかしいからかもしれない。
今回、レースが八名ずつ行われているのと、出場者の異様な気合のせいで、熱気がすごいことになっている。
ロマンスを演出する為に私とグレースが用意したカードには、『波打つプラチナブロンドの髪の持ち主』、『フローラルな香水』から、『レースの手袋』、『触れたくなるような唇』など少し攻めた内容まで混ぜておいた。
さて、どう転ぶか見ものである
いざ始まってみると、カードを見るまでは血走った眼をしていた令息も、口説き落としたい令嬢の前では礼儀正しく、紳士的に同行をお願いしていた。
声をかけられた女の子も満更ではなさそうで、頬が紅潮している。
一時はどうなることかと思ったけれど、なるようになるものね。
もう何組カップルが出来たのかしら?
あ、ロイバー様とグレースが一緒に走っているわ。
グレース、カードを並べる時に何かズルをしたんじゃないでしょうね?
幸せそうな友人の様子は喜ばしいが、こう何度も仲睦まじい様子を見せつけられると悔しくもなってくるもので……。
つい嫉妬じみた感情のまま、よーいドンと投げやりぎみに言っていたら、最終レースになっていた。
七名のメンバーの中にはアレクシスの姿もある。
スタートの合図の前に目が合い、『頑張って!』と口の動きだけで伝えたら、余裕の笑みが返ってきた。
なんだろう、やけに自信満々である。
そして、さきほどまでは澄み切った空気を放っていたはずのアレクシスから、どういうわけか捕食者のようなオーラを感じてしまった。
あら?
アレクの様子がおかしいような……。
そんなにワインが欲しいのかしら?
おじさまに頼めば一瓶くらい分けてもらえると思うけれど。
不思議に思いつつも、私の開始の合図と共にアレクシスたちは動き出した。
王太子相手にも怯むことのない他の六名の出場者には、よほど切羽詰まった事情があるらしい。
険しい形相でカードに向かっていく。
「ええと、なになに……『女性にケーキを食べさせてもらう』!?」
「『ゴール地点でワルツを踊る』か。く~っ、よりによってワルツかよ……」
「ふむ。『同行者の素敵なところを三箇所述べる』か。困ったな……」
あ、もうお題を考えるのに疲れて、だんだん借り物競走じゃなくなってきたやつだわ。
あれじゃもう命令とか指令だものね。
そんな中、アレクシスが脇目も振らず、真っ直ぐ私の前までやってきた。
「アレク、どうしたの? あ、私に何か借りたいのね? まかせて! 実は色々仕込んであるんだから!」
借りることが出来ずに困る人がいたら可哀想だと思い、実は様々な物を隠し持っているのである。
ポケットから口紅や、着けずに持っていた指輪やブローチを出そうとしてーーアレクシスに止められた。
「いや、借りたいものはもうここにあるから」
「え? ここ?」
その瞬間、私はアレクシスに抱き上げられていた。
「ちょっ、アレク、なんで? 下ろして!」
「それは出来ないな。僕の借りたいものはセラだから」
え、借りたいものが私?
一度、心臓が止まりそうなほどの綺麗な微笑みを見せると、アレクシスは悠然と私を抱えて歩き出した。
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