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アレクシスはロマンチスト?
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王太子のアレクシスに見送られながら、いそいそと集合場所となっているスタート地点に向かうと、途中で顔なじみの令嬢集団に囲まれてしまった。
ピンク色のドレスを着た私に、赤や黄色、オレンジ色のドレスが加わって、周囲は一気にカラフルになる。
「セラフィーナ様、今年も大活躍ですわね。どうしたらこんな楽しいゲームを考え付くんですの?」
「わたくし、今から胸がドキドキしてしまって。ああ、私のカードにはなんて書いてあるのかしら?」
「楽しみだけれど、少し怖い気もしますわ。これを機に、あの方とお近付きになれたら最高ですけれど、とんでもないものが書かれていたらどうしましょう?」
不安そうな目が向けられているが、私だって令嬢の部のカードに書いてある内容など知らない。
無地の共通カードを使うことと、おおよその形式を定めた以外は、各担当に任されていたからだ。
アレクたちが準備したものだから、そこまで変なことは書いていないと思うんだけれど……多分。
というか、そう信じたい!
なんだか夫人らが考えてくれた破天荒な借り物のせいで、楽しい余興の範疇を軽く超えて、ハードで疲れる競技になってしまった感があるんだもの。
いや、もはやこれは競技じゃないな、罰ゲームか?
そんなことを考えながらも、顔は笑顔をキープしつつ令嬢に答える。
「私も令嬢の部のカードの内容は知らされていないのです。王太子殿下とロイバー様が担当されておりましたので。お二人が何を書かれたのか私も気になりますわ」
「まあ! 殿下自ら?」
「それは楽しみですわ! アレクシス殿下はロマンチストなところがおありですから、きっと雅で情緒溢れる展開になることでしょう」
「あら、じゃあ今宵のゲームをきっかけに、何組もカップルが出来上がるかもしれませんわね」
「「「きゃ~~っ!!」」」
頬を染めながら、照れたような可愛らしい声を上げる令嬢をよそに、私は別のことを考えていた。
え、アレクがロマンチスト?
初耳だわ……。
え、口の中にマドレーヌを突っ込んでくるような男なのに?
なんだか釈然としないが、気付いたらスタート地点へ辿り着いていた。
前回の部の整列係からそのままこの場に留まっていたグレースと合流し、二人かがりで皆を整列させていく。
「うーん、人数は思ったより少なかったわね」
「アレを見た後じゃ、こんなものではないかしら」
さきほど行われたレースの内容を思い出し、グレースと顔を見合わせて苦笑してしまった。
さすがにあのドタバタを見せられては躊躇ってしまい、出場するには勇気がいることだろう。
まだ社交界経験も浅い、うら若き令嬢にはハードルが高いし、ましてや婚約者のいる令嬢にとってはメリットも少ない。
でも、集まったこのメンバーはさすがというか……。
社交的でメンタルが強そうな娘ばかりな上、あわよくば婚約者を見つけてやろうというガッツが漲っているわ。
え、絶対勝てないでしょ、これ。
令嬢たちの気迫に押されつつも、整列を終えた。
参加者が二十名だった為、五名ずつ四レースを行うことにする。
「ねえ、セラフィーヌ。私、最初のレースに出てもいいかしら?」
「ええ、別に構わないわよ。じゃあ私は残って最終の四レース目にするわね」
「お願い。なんとしてでももう一回ロイバー様とゴールしてみせるわ!」
「……ロイバー様に関するカードが引けるといいわね」
「任せておいて!」
これでグレースが『賑やかな人』とか引いたら面白いのに。
ロイバー様とは正反対のやつ。
などと、ちょっと意地悪なことを考えて心の中で笑った後、私は準備が整った合図をアレクシスに送るべく顔を上げた。
すると、アレクシスはとっくにカードを並べ終わっていたようで、すぐに目が合った。
『こっちはいいわよ!』
『そうか。了解』
頷いたアレクシスが、いつものように微笑みながらも何かを企んでいるような気がして、私は首を傾げる。
なに、今の表情。
さては、私に変なものを借りさせようとしてるわね?
やっぱりアレクはちっともロマンチストなんかじゃないわ!
私とアレクシスが視線で会話をするのを、国王以下貴族全員が意味ありげに眺めていた。
ピンク色のドレスを着た私に、赤や黄色、オレンジ色のドレスが加わって、周囲は一気にカラフルになる。
「セラフィーナ様、今年も大活躍ですわね。どうしたらこんな楽しいゲームを考え付くんですの?」
「わたくし、今から胸がドキドキしてしまって。ああ、私のカードにはなんて書いてあるのかしら?」
「楽しみだけれど、少し怖い気もしますわ。これを機に、あの方とお近付きになれたら最高ですけれど、とんでもないものが書かれていたらどうしましょう?」
不安そうな目が向けられているが、私だって令嬢の部のカードに書いてある内容など知らない。
無地の共通カードを使うことと、おおよその形式を定めた以外は、各担当に任されていたからだ。
アレクたちが準備したものだから、そこまで変なことは書いていないと思うんだけれど……多分。
というか、そう信じたい!
なんだか夫人らが考えてくれた破天荒な借り物のせいで、楽しい余興の範疇を軽く超えて、ハードで疲れる競技になってしまった感があるんだもの。
いや、もはやこれは競技じゃないな、罰ゲームか?
そんなことを考えながらも、顔は笑顔をキープしつつ令嬢に答える。
「私も令嬢の部のカードの内容は知らされていないのです。王太子殿下とロイバー様が担当されておりましたので。お二人が何を書かれたのか私も気になりますわ」
「まあ! 殿下自ら?」
「それは楽しみですわ! アレクシス殿下はロマンチストなところがおありですから、きっと雅で情緒溢れる展開になることでしょう」
「あら、じゃあ今宵のゲームをきっかけに、何組もカップルが出来上がるかもしれませんわね」
「「「きゃ~~っ!!」」」
頬を染めながら、照れたような可愛らしい声を上げる令嬢をよそに、私は別のことを考えていた。
え、アレクがロマンチスト?
初耳だわ……。
え、口の中にマドレーヌを突っ込んでくるような男なのに?
なんだか釈然としないが、気付いたらスタート地点へ辿り着いていた。
前回の部の整列係からそのままこの場に留まっていたグレースと合流し、二人かがりで皆を整列させていく。
「うーん、人数は思ったより少なかったわね」
「アレを見た後じゃ、こんなものではないかしら」
さきほど行われたレースの内容を思い出し、グレースと顔を見合わせて苦笑してしまった。
さすがにあのドタバタを見せられては躊躇ってしまい、出場するには勇気がいることだろう。
まだ社交界経験も浅い、うら若き令嬢にはハードルが高いし、ましてや婚約者のいる令嬢にとってはメリットも少ない。
でも、集まったこのメンバーはさすがというか……。
社交的でメンタルが強そうな娘ばかりな上、あわよくば婚約者を見つけてやろうというガッツが漲っているわ。
え、絶対勝てないでしょ、これ。
令嬢たちの気迫に押されつつも、整列を終えた。
参加者が二十名だった為、五名ずつ四レースを行うことにする。
「ねえ、セラフィーヌ。私、最初のレースに出てもいいかしら?」
「ええ、別に構わないわよ。じゃあ私は残って最終の四レース目にするわね」
「お願い。なんとしてでももう一回ロイバー様とゴールしてみせるわ!」
「……ロイバー様に関するカードが引けるといいわね」
「任せておいて!」
これでグレースが『賑やかな人』とか引いたら面白いのに。
ロイバー様とは正反対のやつ。
などと、ちょっと意地悪なことを考えて心の中で笑った後、私は準備が整った合図をアレクシスに送るべく顔を上げた。
すると、アレクシスはとっくにカードを並べ終わっていたようで、すぐに目が合った。
『こっちはいいわよ!』
『そうか。了解』
頷いたアレクシスが、いつものように微笑みながらも何かを企んでいるような気がして、私は首を傾げる。
なに、今の表情。
さては、私に変なものを借りさせようとしてるわね?
やっぱりアレクはちっともロマンチストなんかじゃないわ!
私とアレクシスが視線で会話をするのを、国王以下貴族全員が意味ありげに眺めていた。
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