【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ

文字の大きさ
上 下
8 / 16

一般女性の部、開始します!

しおりを挟む
まずは予定通り、一般女性の部から行う。
出場者を募ると、着飾った夫人らがぞろぞろと集まってきた。

実行委員の二人の夫人が、自らも出場者でありながら、参加する女性たちを慣れた様子で整列させていく。
早くもレースを興味深く見守る観衆からは、妻や母を応援する声が飛んでいた。

ゴール地点で私とグレースが待機していると、アレクシスが国王に何か話しかけているのが見えた。
すると、徐に立ち上がって声を張り上げる国王。

「諸君、言い忘れておったが、各レースの勝者には我がコレクションより秘蔵のワインを贈呈する。皆、励むがよい!」

うわぁぁぁ!!

会場は大きな歓声と拍手に包まれた。
グレースがロイバーと寄り添ってゴールをしたシーンが印象的だったのか、年若い子女は恋のアプローチに有効だとソワソワしているし、酒好きな大人は貴重なワインに目を輝かせている。
辺りは一層熱気を帯び、借り物競走への期待値はいやが上にも高まっていた。

「前置きは以上にして……。それでは、一般女性の部を開始しよう。くれぐれも怪我のないように。一組目、準備はいいだろうか。ーーそれでは、よーいドン!」

相変わらずの掛け声で初戦が始まった。
もちろん告げたのはアレクシスで、一斉に六名の女性がスタートする。
この部に立候補したのが三十名だった為、六名ずつで五回のレースを行うことにしたようだ。

まさかこんなに出場希望者が現れるとは驚いたわ。
最初だし、こんな妙なゲーム、様子見でみんな敬遠するかと思いきや……。
さすが社交界を裏で牛耳る夫人の皆様だわ。
新しいものに目がないというか、目立ってナンボというか。
しかも、香水の香りが凄いのなんのって……。

スタートした六名の中にはヴァレリー公爵夫人の姿もあったが、ロイバーが並べたカードに初めに辿り着いたのはカートレイ伯爵夫人だった。
美魔女で有名なカートレイ夫人は、今日もスリットが大きく入ったドレスを着用していて、それが有利に働いたのかもしれない。
セクシーな美脚が眩しい。

カードをめくって一瞬目を見開いた美魔女は、そのまま優雅な動作で国王に近付くと、「陛下、どうかわたくしをお助けくださいな」と色っぽく微笑んだ。
鼻を伸ばしながらデレデレする国王に、笑顔を見せつつもムッとしているであろう王妃……。
ハラハラする展開に、息子のアレクシスが面白そうに割って入った。

「カートレイ夫人、あなたのカードには何と書かれているのですか?」
「うふふ」

夫人がカードをアレクシスに向ける。
理解したとばかりに頷いた王太子が、観衆に向かって叫んだ。

「カートレイ伯爵夫人のカードは『敬愛する男性』!」

なるほどね。
それは確かに国王が一番無難よね。
あーあ、おじさまってば嬉しそうに夫人をエスコートしちゃって。
あら? 
ヴァレリー夫人はおばさまを連れ出すつもりみたいね。

「ヴァレリー公爵夫人のカードは『一生モノの友人』!」

夫人は仲の良い王妃に声をかけたらしい。
王妃はまるで女学生のようにはしゃぎながら、ヴァレリー夫人と連れ立ってゴールに向かっている。
それにしても、観衆にもわかるようにカードの内容を伝えてくれるアレクシスはグッジョブである。
本来は放送委員がアナウンスしてくれるところだが、もちろんこの場に放送委員など存在しないからだ。

「Sのイニシャル入りのチーフをお持ちの方~!」
「どなたか飲みかけの果実酒のグラスを貸してくださらない?」

一生懸命借り物を探す声が聞こえる。
その間にも、カートレイ夫人が国王とゴールへやってきた。

「カードを拝見しますわ。……はい、お疲れ様でございました」
「おめでとうございます。こちら一位の景品のワインですわ」

グレースが確認し、私がワインを手渡すと、受け取った夫人は惹き込まれそうな美しいスマイルを浮かべた。
さすが美魔女、女の私でもうっとり見惚れてしまったではないか。

「陛下、ご一緒できて光栄でしたわ。ワインは主人と楽しませていただきます」
「うむ。楽しかったぞ」

国王も満足そうに頷いている。
レースに参加できたのがよほど嬉しかったようだ。
余談だが、美魔女の夫は熊のような大男で、そんな旦那様に夫人はぞっこんだと専らの噂だ。

「二位ですって。悔しいわ~」
「でもとっても楽しかったわね」

悔しがりながらも、二位だったヴァレリー夫人と王妃も笑いあっている。
二人の友情はこれからも長く続いていくことだろう。

その後、残りの四名も無事にゴールへとやってきたが、飲みかけの果実酒を持った夫人は溢さないように必死になっているのが気の毒だった。
そして、国王と王妃は、仲睦まじそうに自分の席へと戻って行った。

二回戦以降もどんどんレースは進んでいきーー

ヴァレリー夫人とシュナイダー夫人ったら、カードの内容がエグいって。
料理の中からつけあわせの人参を選んで持っていく姿はシュールだし、『ライバルの女性』のカードを引いて、夫と浮気の噂がある未亡人女性を連れてくる人とか……。
判定する係がこんなに消耗するとは思っていなかったわよ。

シュナイダー夫人も『生まれ変わっても出会いたい人』というお題を引いて、夫を連れてやってきた。
確かに癖になりそうな面白い旦那様だと思う。

夜会はかつてない盛り上がりを見せている。
続いては一般男性の部だ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

ワンコな婚約者は今日も私にだけ懐く

下菊みこと
恋愛
転生悪役令嬢と、彼女に対してワンコな婚約者のお話です。ヒロインに関してはドンマイ、って感じです。 小説家になろう様でも投稿しています。

可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。

ふまさ
恋愛
 小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。  ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。 「あれ? きみ、誰?」  第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。

異世界の神は毎回思う。なんで悪役令嬢の身体に聖女級の良い子ちゃんの魂入れてんのに誰も気付かないの?

下菊みこと
恋愛
理不尽に身体を奪われた悪役令嬢が、その分他の身体をもらって好きにするお話。 異世界の神は思う。悪役令嬢に聖女級の魂入れたら普通に気づけよと。身体をなくした悪役令嬢は言う。貴族なんて相手のうわべしか見てないよと。よくある悪役令嬢転生モノで、ヒロインになるんだろう女の子に身体を奪われた(神が勝手に与えちゃった)悪役令嬢はその後他の身体をもらってなんだかんだ好きにする。 小説家になろう様でも投稿しています。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

【完結】いわくつき氷の貴公子は妻を愛せない?

白雨 音
恋愛
婚約間近だった彼を親友に取られ、傷心していた男爵令嬢アリエルに、 新たな縁談が持ち上がった。 相手は伯爵子息のイレール。彼は妻から「白い結婚だった」と暴露され、 結婚を無効された事で、界隈で噂になっていた。 「結婚しても君を抱く事は無い」と宣言されるも、その距離感がアリエルには救いに思えた。 結婚式の日、招待されなかった自称魔女の大叔母が現れ、「この結婚は呪われるよ!」と言い放った。 時が経つ程に、アリエルはイレールとの関係を良いものにしようと思える様になるが、 肝心のイレールから拒否されてしまう。 気落ちするアリエルの元に、大叔母が現れ、取引を持ち掛けてきた___  異世界恋愛☆短編(全11話) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

はずれの聖女

おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。 一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。 シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。 『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。 だがある日、アーノルドに想い人がいると知り…… しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。 なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。

執着のなさそうだった男と別れて、よりを戻すだけの話。

椎茸
恋愛
伯爵ユリアナは、学園イチ人気の侯爵令息レオポルドとお付き合いをしていた。しかし、次第に、レオポルドが周囲に平等に優しいところに思うことができて、別れを決断する。 ユリアナはあっさりと別れが成立するものと思っていたが、どうやらレオポルドの様子が変で…?

処理中です...