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注目を浴びる髪飾り
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控室で寛いでいる間に、夜会会場には多くの貴族が集まっていた。
そろそろ私たちも入場しなければならない時刻だ。
ようやく支度が終わったのか国王と王妃もやって来たが、二人はいつもの夜会より表情が明るく、楽しそうに見える。
「セラフィーナ、いい夜だな。万が一、借り物競走で声をかけられた時のことを考慮して、走りやすい服にしてみたのだがどうだ?」
なるほど、国王はいつもより丈が短く下が窄んでいる、いわゆる『提灯パンツ』を履いている。
ふくらはぎくらいまでの丈はあるのだが、まさかそこにこだわるとは。
「おじさま、よくお似合いです。きっとたくさん声がかかりますわ」
適当なことを言いつつ王妃に目を向けると、おばさまは私の髪飾りをじっと見つめて微笑んでいた。
貸してくれたこのサンゴの髪飾りに何か強い思い入れでもあるのだろうか。
そうこうしている間に、急かされるようにして入場したのだが――。
おかしい……。
やたら視線を感じるわね。
特におでこの右上に……。
それは紛れもなくアレクシスが着けてくれた髪飾りに対する好奇の視線で、笑顔を取り繕いながらも気になって仕方がない。
「ねえ、アレク。この髪飾りってもしかしてすっごく高価なものなの? やたらと見られてる気がするんだけど。さっきおばさまも気にしてる風だったし」
「ん? 気のせいだろう。サンゴだから特別値が張るというほどでもないよ。セラが美しいから見ているのではないか?」
「……あり得ないわね」
残念ながら自分の見た目は十分理解しているし、明らかに皆の目は私の顔より上部に向けられている。
国王が挨拶を終え、ダンスをし、歓談タイムになっても視線の意味はわからないままだった。
「セラフィーナ様、髪飾りがよくお似合いですわ」
「そろそろその飾りを付けたお姿を拝見出来ると思っておりましたが、いやはや、感慨深いものですなぁ」
……だから何?
この髪飾りがなんだっていうのよ!?
意味がわからないまま笑顔を振りまくのってすんごい苦痛なんだけど!
しかし、その疑問はしばらくして忘れてしまった。
いよいよ借り物競争の時間がやってきたからである。
「さあ、今宵も余興の時間がやってきた! 今回も非常にユニークで愉快な時間になることだろう。皆で楽しもうではないか!!」
国王が微妙にプレッシャーをかけてくるが、会場は大盛り上がりだ。
説明の為に実行委員の六名は前へ進み出る。
最初にアレクシスが委員の紹介と、借り物競争について口頭で説明を始めた。
そして私の中ではもう三度目となるデモンストレーションである。
説明の間に私がカードを並べていると、ワラワラと見たことのある令息たちが集まってきた。
「手伝いましょう」
「他にも手伝うことはありますか?」
おおっ!
国王たちへのアピールだとは思うけれど、私にもサポートを立候補してくれる優しい人たちが!
ムフフ、私も捨てたもんじゃないわね。
今は特に手伝ってもらうこともないので、笑顔で「お気持ちだけ」と断っていると、アレクシスがゴホンと咳払いをした。
すると何故か彼らはビクッと肩を震わせ、人混みに紛れてしまう。
「セラ? 並べ終わったらこちらへ」
アレクシスが珍しく公式の場で愛称を呼んでくるが、目が笑っていない気がする。
「アレク、何か怒ってる?」
「いや、油断も隙もないと思っただけだよ」
「え? まだカード並べちゃダメだった?」
「……そういう意味じゃなくて」
持ち場であるアレクシスの隣に戻ってコソコソと話していたが、今はそれどころではない。
説明に戻らなければ。
「まずはノーラン侯爵令嬢が手本を見せてくれる。グレース嬢、準備はいいか?」
優雅に一礼してみせたグレースが笑顔で頷く。
ちなみにノーランというのはグレースの家名である。
そして、グレースがデモンストレーションのメンバーに選ばれたのは、美しい侯爵令嬢がやってみせたほうがみんな注目するだろうという浅い考えからだ。
まあ、グレースは身のこなしも綺麗だし、適役だよね。
私は思いっきりアレクに阻止されちゃったし。
ふんだ。
私がいじけている間にも、王太子のよーいドンの掛け声で華麗な足捌きでカードまで移動したグレースは、一枚を選んでいた。
今回はあらかじめ選ぶカードが決めてあって、『眼鏡』と書かれているはずだ。
グレースはロイバーに眼鏡を借り、一人でゴールに向かう手筈となっている。
――のだが、グレースは眼鏡を外し、手渡そうとするロイバーの腕に自分の腕を巻き付けると、ロイバーを引っ張り始めるという暴挙に出た。
あははっ!
グレースったらやるじゃないの。
ロイバー様との仲を見せつけて、他の令嬢を牽制しようって魂胆ね!
「キャーー」という歓声とブーイングを混ぜたような悲鳴が上がったが、ロイバーも満更でもなさそうに頬を赤らめてゴールへと小走りしている。
「このように、『眼鏡』をお借りするか、もしくは『眼鏡をかけている人』を連れてゴールを目指してください」
「調達出来ずに困っている者には手助けを。派閥、爵位関係なく、皆が助け合い、ゲームに参加してくれることを望んでいる」
私が補足をし、アレクが王太子らしく威厳を込めて話すと、拍手が湧いた。
さあ、いよいよ本番だ。
そろそろ私たちも入場しなければならない時刻だ。
ようやく支度が終わったのか国王と王妃もやって来たが、二人はいつもの夜会より表情が明るく、楽しそうに見える。
「セラフィーナ、いい夜だな。万が一、借り物競走で声をかけられた時のことを考慮して、走りやすい服にしてみたのだがどうだ?」
なるほど、国王はいつもより丈が短く下が窄んでいる、いわゆる『提灯パンツ』を履いている。
ふくらはぎくらいまでの丈はあるのだが、まさかそこにこだわるとは。
「おじさま、よくお似合いです。きっとたくさん声がかかりますわ」
適当なことを言いつつ王妃に目を向けると、おばさまは私の髪飾りをじっと見つめて微笑んでいた。
貸してくれたこのサンゴの髪飾りに何か強い思い入れでもあるのだろうか。
そうこうしている間に、急かされるようにして入場したのだが――。
おかしい……。
やたら視線を感じるわね。
特におでこの右上に……。
それは紛れもなくアレクシスが着けてくれた髪飾りに対する好奇の視線で、笑顔を取り繕いながらも気になって仕方がない。
「ねえ、アレク。この髪飾りってもしかしてすっごく高価なものなの? やたらと見られてる気がするんだけど。さっきおばさまも気にしてる風だったし」
「ん? 気のせいだろう。サンゴだから特別値が張るというほどでもないよ。セラが美しいから見ているのではないか?」
「……あり得ないわね」
残念ながら自分の見た目は十分理解しているし、明らかに皆の目は私の顔より上部に向けられている。
国王が挨拶を終え、ダンスをし、歓談タイムになっても視線の意味はわからないままだった。
「セラフィーナ様、髪飾りがよくお似合いですわ」
「そろそろその飾りを付けたお姿を拝見出来ると思っておりましたが、いやはや、感慨深いものですなぁ」
……だから何?
この髪飾りがなんだっていうのよ!?
意味がわからないまま笑顔を振りまくのってすんごい苦痛なんだけど!
しかし、その疑問はしばらくして忘れてしまった。
いよいよ借り物競争の時間がやってきたからである。
「さあ、今宵も余興の時間がやってきた! 今回も非常にユニークで愉快な時間になることだろう。皆で楽しもうではないか!!」
国王が微妙にプレッシャーをかけてくるが、会場は大盛り上がりだ。
説明の為に実行委員の六名は前へ進み出る。
最初にアレクシスが委員の紹介と、借り物競争について口頭で説明を始めた。
そして私の中ではもう三度目となるデモンストレーションである。
説明の間に私がカードを並べていると、ワラワラと見たことのある令息たちが集まってきた。
「手伝いましょう」
「他にも手伝うことはありますか?」
おおっ!
国王たちへのアピールだとは思うけれど、私にもサポートを立候補してくれる優しい人たちが!
ムフフ、私も捨てたもんじゃないわね。
今は特に手伝ってもらうこともないので、笑顔で「お気持ちだけ」と断っていると、アレクシスがゴホンと咳払いをした。
すると何故か彼らはビクッと肩を震わせ、人混みに紛れてしまう。
「セラ? 並べ終わったらこちらへ」
アレクシスが珍しく公式の場で愛称を呼んでくるが、目が笑っていない気がする。
「アレク、何か怒ってる?」
「いや、油断も隙もないと思っただけだよ」
「え? まだカード並べちゃダメだった?」
「……そういう意味じゃなくて」
持ち場であるアレクシスの隣に戻ってコソコソと話していたが、今はそれどころではない。
説明に戻らなければ。
「まずはノーラン侯爵令嬢が手本を見せてくれる。グレース嬢、準備はいいか?」
優雅に一礼してみせたグレースが笑顔で頷く。
ちなみにノーランというのはグレースの家名である。
そして、グレースがデモンストレーションのメンバーに選ばれたのは、美しい侯爵令嬢がやってみせたほうがみんな注目するだろうという浅い考えからだ。
まあ、グレースは身のこなしも綺麗だし、適役だよね。
私は思いっきりアレクに阻止されちゃったし。
ふんだ。
私がいじけている間にも、王太子のよーいドンの掛け声で華麗な足捌きでカードまで移動したグレースは、一枚を選んでいた。
今回はあらかじめ選ぶカードが決めてあって、『眼鏡』と書かれているはずだ。
グレースはロイバーに眼鏡を借り、一人でゴールに向かう手筈となっている。
――のだが、グレースは眼鏡を外し、手渡そうとするロイバーの腕に自分の腕を巻き付けると、ロイバーを引っ張り始めるという暴挙に出た。
あははっ!
グレースったらやるじゃないの。
ロイバー様との仲を見せつけて、他の令嬢を牽制しようって魂胆ね!
「キャーー」という歓声とブーイングを混ぜたような悲鳴が上がったが、ロイバーも満更でもなさそうに頬を赤らめてゴールへと小走りしている。
「このように、『眼鏡』をお借りするか、もしくは『眼鏡をかけている人』を連れてゴールを目指してください」
「調達出来ずに困っている者には手助けを。派閥、爵位関係なく、皆が助け合い、ゲームに参加してくれることを望んでいる」
私が補足をし、アレクが王太子らしく威厳を込めて話すと、拍手が湧いた。
さあ、いよいよ本番だ。
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