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実行委員は豪華なメンバー
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国王から今年の夜会の余興は『借り物競争』でゴーサインが出たので、これから当日へ向けて準備をしなければならない。
カードの用意は当然のこととして、当日の司会進行や、借りてきた物や人を確認する係、参加者を整列させる係など決めておくことは山ほどあるのだ。
借り物競争……ほぼノリで提案したけれど、なかなか侮れないわね。
国王主催の夜会でグダグダな進行でもしようものなら家名に傷が付くし、言い出しっぺとしては結構プレッシャーだわ。
ま、毎年のことだけど。
今日は最初の顔合わせが城の会議室で行われる予定になっていた。
発案者のセラフィーナがまだ若く、社交界慣れをしていない為、毎年王妃が数名の貴族をサポート役に付けてくれるのだ。
「これはもはや『体育祭実行委員』では? そして私は体育祭実行委員長……」などと、ぶつぶつ言いながら最初に部屋に到着した私は、他の人がやって来るのを椅子に座って待っていた。
他の委員が誰なのか知らされておらず、少し緊張しながら座っていると、扉が軽くノックされた。
「セラフィーナ、今年もよろしくね~」
「あら、いつも早いわね。なんだか今年も興味深い内容だって聞いているわよ?」
「セラフィーナさん、またご一緒出来て嬉しいわ」
ぞろぞろと華やかな色合いの服装で現れたのは、侯爵令嬢のグレース、ヴァレリー公爵夫人、シュナイダー伯爵夫人だった。
ちなみにシュナイダー伯爵夫人の旦那様は、例の昆布のコスプレ伯爵である。
三人は去年も手伝ってくれたメンバーなので、気心が知れている仲間の登場に私は胸を撫で下ろした。
特にグレースは私の一番仲の良い友人で、いい意味で令嬢らしくなく、付き合いやすい女性なのである。
「まあ、また皆様にお力を貸していただけるなんて心強いですわ! どうぞよろしくお願いいたしますね」
「何を言うの。私たちがやりたくてやっているのよ。ね、ヴァレリー夫人、シュナイダー夫人?」
「ええ、その通りよ。もうこの季節が近くなると、楽しみでソワソワしてしまうくらいなのよ?」
「うちの主人も、『今年は何をやるんだ?』って、それはもう煩くて」
私の挨拶に、トリオが眩しい笑顔で答えてくれた。
しかし、そんなに楽しみにしてくれているとは……。
昆布伯爵、今年もノリノリなのね。
もう昆布なのか海苔なのかよくわからないけれど。
このメンバーだけで会うのは、昨年の夜会後に打ち上げとして集まったお茶会以来なので、久々の再会にキャッキャとはしゃいでいたら、再びノックの音が聞こえた。
あれ?
今年はまだ他にもお手伝いがいるのかな?
四人で扉の方を見ると、なんと入ってきたのは王太子のアレクシスだった。
側近のロイバーを連れている。
「アレク! ……じゃなかった、アレクシス殿下。どうなさったのですか?」
「ふっ、いつも通りに呼べばいいじゃないか。今更誰も気にしないだろう」
「そうよ、二人の仲は周知の事実だわ」
「え? 仲は確かに悪くはないけれど、それだと語弊があるような……」
グレースに言われて夫人らに目をやったが、なんだか微笑ましいものを見るような表情で見られてしまった。
おかしい。
別に私とアレクシスはそういう特別な仲ではないはずだ。
そもそもこんなハイスペックイケメン王子と、ポンコツな転生令嬢じゃ釣り合わないっしょ!
なんとなく余興がうけたり、爵位が高いせいで変なフィルターがかかって見えてるだけで、私、外見も頭も性格も人並みよ?
残念だけど、アレクにはもっと完璧な令嬢が似合うと思うの。
……そりゃあ、私は結構好きだけどさ。
いざという時にショックを受けたくないから、好きになり過ぎないように適度な距離感を持って接してきたつもりだし。
複雑な感情を抱えながらも、アレクシスの言葉に甘えていつもの呼び方に戻す。
このメンバーなら変に誤解されることもないだろう。
「で、アレクはどうしたの? 私たちは今から夜会の打ち合わせなのだけど」
「ああ、知っているよ。僕たちも手伝いに参加するように母上に言われてね」
「あら! 殿下が加わってくださるなんて、ますますどんな余興なのか気になるわ」
「随分大がかりなものなのかしら? ドキドキするわ」
アレクシスが加わることで、夫人らのテンションが更に上がっている。
爽やか紳士の王太子はご夫人たちの間でも人気が高いのだ。
「ロイバー様もご一緒してくださるのですか?」
「ええ。殿下の側近として励みたいと思いますので、よろしくお願いいたします」
グレースがロイバーに頬を赤く染めながら尋ねると、相変わらず愛想はないが、丁寧な態度でロイバーが頭を下げた。
うん、グレースはイケメン好きだものね。
ロイバーはアレクより輪をかけて真面目な眼鏡くんだけど、めっちゃ頭も顔もいいし、絶対浮気しなさそうなところがポイント高いわ。
愛想はないけれど、公爵令息だし。
「今年はこの六名で夜会を盛り上げることになる。成功へ向けて、よろしく頼む」
凛とした声でアレクシスがその場をまとめるように宣言すると、皆心得たとばかりに頷いた。
よしよし、実行委員長の座は喜んでアレクに譲るわ。
良かった~、責任者から逃れられて。
アレクさえいれば、もう成功したも同然ってやつよ。
呑気に力を抜いた私は、アレクシスが王妃に自らサポート役を買って出たことも知らず、まして夜会当日に自分に起こる出来事なんて何も想像できていなかったのである。
カードの用意は当然のこととして、当日の司会進行や、借りてきた物や人を確認する係、参加者を整列させる係など決めておくことは山ほどあるのだ。
借り物競争……ほぼノリで提案したけれど、なかなか侮れないわね。
国王主催の夜会でグダグダな進行でもしようものなら家名に傷が付くし、言い出しっぺとしては結構プレッシャーだわ。
ま、毎年のことだけど。
今日は最初の顔合わせが城の会議室で行われる予定になっていた。
発案者のセラフィーナがまだ若く、社交界慣れをしていない為、毎年王妃が数名の貴族をサポート役に付けてくれるのだ。
「これはもはや『体育祭実行委員』では? そして私は体育祭実行委員長……」などと、ぶつぶつ言いながら最初に部屋に到着した私は、他の人がやって来るのを椅子に座って待っていた。
他の委員が誰なのか知らされておらず、少し緊張しながら座っていると、扉が軽くノックされた。
「セラフィーナ、今年もよろしくね~」
「あら、いつも早いわね。なんだか今年も興味深い内容だって聞いているわよ?」
「セラフィーナさん、またご一緒出来て嬉しいわ」
ぞろぞろと華やかな色合いの服装で現れたのは、侯爵令嬢のグレース、ヴァレリー公爵夫人、シュナイダー伯爵夫人だった。
ちなみにシュナイダー伯爵夫人の旦那様は、例の昆布のコスプレ伯爵である。
三人は去年も手伝ってくれたメンバーなので、気心が知れている仲間の登場に私は胸を撫で下ろした。
特にグレースは私の一番仲の良い友人で、いい意味で令嬢らしくなく、付き合いやすい女性なのである。
「まあ、また皆様にお力を貸していただけるなんて心強いですわ! どうぞよろしくお願いいたしますね」
「何を言うの。私たちがやりたくてやっているのよ。ね、ヴァレリー夫人、シュナイダー夫人?」
「ええ、その通りよ。もうこの季節が近くなると、楽しみでソワソワしてしまうくらいなのよ?」
「うちの主人も、『今年は何をやるんだ?』って、それはもう煩くて」
私の挨拶に、トリオが眩しい笑顔で答えてくれた。
しかし、そんなに楽しみにしてくれているとは……。
昆布伯爵、今年もノリノリなのね。
もう昆布なのか海苔なのかよくわからないけれど。
このメンバーだけで会うのは、昨年の夜会後に打ち上げとして集まったお茶会以来なので、久々の再会にキャッキャとはしゃいでいたら、再びノックの音が聞こえた。
あれ?
今年はまだ他にもお手伝いがいるのかな?
四人で扉の方を見ると、なんと入ってきたのは王太子のアレクシスだった。
側近のロイバーを連れている。
「アレク! ……じゃなかった、アレクシス殿下。どうなさったのですか?」
「ふっ、いつも通りに呼べばいいじゃないか。今更誰も気にしないだろう」
「そうよ、二人の仲は周知の事実だわ」
「え? 仲は確かに悪くはないけれど、それだと語弊があるような……」
グレースに言われて夫人らに目をやったが、なんだか微笑ましいものを見るような表情で見られてしまった。
おかしい。
別に私とアレクシスはそういう特別な仲ではないはずだ。
そもそもこんなハイスペックイケメン王子と、ポンコツな転生令嬢じゃ釣り合わないっしょ!
なんとなく余興がうけたり、爵位が高いせいで変なフィルターがかかって見えてるだけで、私、外見も頭も性格も人並みよ?
残念だけど、アレクにはもっと完璧な令嬢が似合うと思うの。
……そりゃあ、私は結構好きだけどさ。
いざという時にショックを受けたくないから、好きになり過ぎないように適度な距離感を持って接してきたつもりだし。
複雑な感情を抱えながらも、アレクシスの言葉に甘えていつもの呼び方に戻す。
このメンバーなら変に誤解されることもないだろう。
「で、アレクはどうしたの? 私たちは今から夜会の打ち合わせなのだけど」
「ああ、知っているよ。僕たちも手伝いに参加するように母上に言われてね」
「あら! 殿下が加わってくださるなんて、ますますどんな余興なのか気になるわ」
「随分大がかりなものなのかしら? ドキドキするわ」
アレクシスが加わることで、夫人らのテンションが更に上がっている。
爽やか紳士の王太子はご夫人たちの間でも人気が高いのだ。
「ロイバー様もご一緒してくださるのですか?」
「ええ。殿下の側近として励みたいと思いますので、よろしくお願いいたします」
グレースがロイバーに頬を赤く染めながら尋ねると、相変わらず愛想はないが、丁寧な態度でロイバーが頭を下げた。
うん、グレースはイケメン好きだものね。
ロイバーはアレクより輪をかけて真面目な眼鏡くんだけど、めっちゃ頭も顔もいいし、絶対浮気しなさそうなところがポイント高いわ。
愛想はないけれど、公爵令息だし。
「今年はこの六名で夜会を盛り上げることになる。成功へ向けて、よろしく頼む」
凛とした声でアレクシスがその場をまとめるように宣言すると、皆心得たとばかりに頷いた。
よしよし、実行委員長の座は喜んでアレクに譲るわ。
良かった~、責任者から逃れられて。
アレクさえいれば、もう成功したも同然ってやつよ。
呑気に力を抜いた私は、アレクシスが王妃に自らサポート役を買って出たことも知らず、まして夜会当日に自分に起こる出来事なんて何も想像できていなかったのである。
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