【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ

文字の大きさ
上 下
2 / 16

借り物競争はどうでしょう?

しおりを挟む
ワクワクとした表情でこちらを見ている国王たちの前で、私はあらかじめ作ってきたカード十枚を、文字が見えないように裏返しにしてテーブルに並べた。
もちろん借り物競争には欠かせない、何を調達するか「お題」が書いてあるカードである。

「これは?」
「このカードには、裏に借りてこなければいけないアイテムや、人について書いてあります」
「まあ! 借りるってどういうことなのかしら?」
「正確には借りるというか、調達するんですけどね。ちょっと試しにやってみせます。あ、アレクも手伝ってくれる?」
「ああ、もちろんいいけど。何をすればいいんだい?」
「ちょっとこっちに来てもらえるかしら?」

頭に疑問符だらけの国王夫妻に説明する為に、こちらも同じく意味がわからないであろうアレクシスの手も借りて、一度やってみせることにした。
デモンストレーションというやつである。
とりあえずはテーブルから少し離れた場所まで移動し、アレクと並んでテーブルに座っている夫妻の方に身体を向けた。

「実際に見た方が早いと思うので、今からやってみますね。アレク、私が『よーいドン』って言ったらテーブルまで走って、好きなカードを選んでくれる?」
「『よーいドン』? 面白い掛け声だけど、わかったよ。一枚選べばいいんだね?」
「ええ。それじゃあいくわよ? よーいドン!!」

私たちはカードが伏せてあるテーブルに急ぐ。
流石に令嬢としてマックスの速さで駆けるわけにもいかない私は、すぐにアレクに遅れをとった。

それにしても、よーいドンなんて転生してから初めて言ったけど、確かにちょっと笑えるかも。
っていうか、よーいドンってそもそも何なの?
ヤバイ、お城の内装やドレスとのギャップがツボに入りそう……。

余計なことを考えていたのと、元々の足の長さの差もあり、先に辿り着いたアレクシスがたいして迷うことなく一枚を手に取った。
国王夫妻は、そこに何が書かれているのか興味津々な様子で見守っている。
私も無事に到着すると、カードを引いた。

「カードを選んだら、何が書いてあるのかを確認します。私はこのカードに決めたので、見てみますね」

私が選んだカードには『歌の上手な人』と書いてあり、それを三人に見せた。

「実際は自分だけ見ればいいのですが、今回は遊び方の説明なのでわかりやすくお見せします」
「ふむ、『歌の上手な人』と書いてあるな」
「はい。つまり、私は歌の上手な方をつれて一緒にゴールへ行かねばならないのです。今はあちらの扉を仮にゴールとしましょうか。おばさま、お願いできますか?」
「え、私?」
「ふふっ、歌が上手な人と言ったらおばさまですもの」
「まあっ!」

嬉しそうに立ち上がった王妃の手を取り、私と王妃はゴールへと小走りで移動する。
ぽっちゃり体型の王妃は、お世辞抜きでとっても歌が上手いのだ。
全てがオペラに聴こえるほどに……。

「なるほど、理解したよ。では僕の『赤い耳飾り』というのも、どこかで調達をしてからゴールに向かわないといけないのだな」
「さすがアレク、その通りよ。会場内で『赤い耳飾り』をしている女性からお借りするか、身に着けた方と一緒にゴールすれば終わり。速さを競うゲームだから、どのカードを引くか運の要素も強いってわけ。……はい、私の耳飾りを貸すわ」

ゴールから一度戻り、着けていた赤い耳飾りをアレクシスに手渡す。

「なんだ、僕とは手を繋いで走ってくれないのか?」
「またそんな冗談を言って。軽い物なら一人で持って走った方が早いでしょ?」
「それは残念だな」

肩をすくめて軽口を叩いたアレクシスがゴールまで移動したのを見届けて、国王が興奮したように立ち上がった。

「セラフィーナ、これは面白い! 絶対盛り上がること間違いなしだ!!」

満足そうな表情に胸を撫で下ろす。
どうやら今年の余興は借り物競争で決定みたいだが、他の案も運動会や体育祭の記憶に引っ張られ過ぎたのか、玉入れや大玉ころがしなどの競技しか思いつかなかったので正直ホッとしていた。
それでは宮廷晩餐会ならぬ、宮廷運動会になってしまう。
夜会でフォークダンスなんて踊ったら、もう何がなんだかわからなくなるところだ。

「とても面白いゲームだわ。これなら普段面識がない者同士が触れ合う機会にもなるし、若い子たちの恋が芽生えるチャンスもありそうよね。夜会にピッタリだわ」

いやいやおばさま、自分で提案しておいて言うのもなんだけど、夜会で借り物競争はさすがに違和感しかないと思います。
こうなったらいっそのこと、運動会も企画してみるか?
夜会も運動会も並べてみれば似たようなものかもしれない……なんて一人混乱していたら、アレクシスがこちらを見ているのに気が付いた。

「セラ、こっちに来て。耳飾りを着けてあげるから」
「え、自分で着けるから平気だよ?」
「セラー? ほら早く。僕が着けた方が早いし、綺麗に出来るから」
「なによ、不器用で悪かったわね」

ブツブツ言いながらアレクシスの前に右耳を差し出すようにすると、クスクス笑うアレクシスの手が私の耳たぶに触れた。

うわわ、なんだか急に恥ずかしくなってきちゃった。
アレクって無駄にイケメンで背が高いんだもの。
意識したらいつも通りじゃいられなくなるから、ここは平常心を保たなければ!
ったく、何でこんな時ばかり『セラ』って甘い声で呼ぶのよーっ!!

アレクシスはたまに愛称のセラと呼ぶことがあるが、その親密そうな言い方が心臓に悪くてドキドキしてしまうのだ。
深い意味はないに決まっているのに、こちらばかりが動揺させられているようで悔しい。

「はい、出来た。セラはいつまでも小さくて可愛いね」
「うるさいっ。アレクが勝手ににょきにょき伸びただけでしょ!」

お礼も言えずに赤い顔のまま距離を取ると、国王が少し寂しそうに王妃に話しかけているのが聞こえてきた。

「私も誰かに借りられてみたいが、国王という立場では無理だろうな。声をかけてもらえないのは残念だが、見ているだけでも楽しめそうだ」

確かに気安くおじさまの手を取って借りていく猛者なんてそうはいないわよね。
なんだかんだで爵位重視の世界だし。

可哀想になったので、私は残りのカードを全部ひっくり返して一つを選んだ。

「おじさま、私がこのカードを引いたらおじさまをつれていきますね!」

見せたカードは『実はお茶目な人』。

「あら、あなたにピッタリじゃないの。良かったわね、きっと出番があるわ」
「いや、それはそれで私の威厳が……」
「そんなことを言いながら、父上嬉しそうじゃないですか」

思わず頬が緩んでいる国王を見ながら、私はおじさまに該当するカードを絶対準備しておこうと心に誓っていた。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。

ふまさ
恋愛
 小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。  ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。 「あれ? きみ、誰?」  第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

ワンコな婚約者は今日も私にだけ懐く

下菊みこと
恋愛
転生悪役令嬢と、彼女に対してワンコな婚約者のお話です。ヒロインに関してはドンマイ、って感じです。 小説家になろう様でも投稿しています。

もっと傲慢でいてください、殿下。──わたしのために。

ふまさ
恋愛
「クラリス。すまないが、今日も仕事を頼まれてくれないか?」  王立学園に入学して十ヶ月が経った放課後。生徒会室に向かう途中の廊下で、この国の王子であるイライジャが、並んで歩く婚約者のクラリスに言った。クラリスが、ですが、と困ったように呟く。 「やはり、生徒会長であるイライジャ殿下に与えられた仕事ですので、ご自分でなされたほうが、殿下のためにもよろしいのではないでしょうか……?」 「そうしたいのはやまやまだが、側妃候補のご令嬢たちと、お茶をする約束をしてしまったんだ。ぼくが王となったときのためにも、愛想はよくしていた方がいいだろう?」 「……それはそうかもしれませんが」 「クラリス。まだぐだぐだ言うようなら──わかっているよね?」  イライジャは足を止め、クラリスに一歩、近付いた。 「王子であるぼくの命に逆らうのなら、きみとの婚約は、破棄させてもらうよ?」  こう言えば、イライジャを愛しているクラリスが、どんな頼み事も断れないとわかったうえでの脅しだった。現に、クラリスは焦ったように顔をあげた。 「そ、それは嫌です!」 「うん。なら、お願いするね。大丈夫。ぼくが一番に愛しているのは、きみだから。それだけは信じて」  イライジャが抱き締めると、クラリスは、はい、と嬉しそうに笑った。  ──ああ。何て扱いやすく、便利な婚約者なのだろう。  イライジャはそっと、口角をあげた。  だが。  そんなイライジャの学園生活は、それから僅か二ヶ月後に、幕を閉じることになる。

異世界の神は毎回思う。なんで悪役令嬢の身体に聖女級の良い子ちゃんの魂入れてんのに誰も気付かないの?

下菊みこと
恋愛
理不尽に身体を奪われた悪役令嬢が、その分他の身体をもらって好きにするお話。 異世界の神は思う。悪役令嬢に聖女級の魂入れたら普通に気づけよと。身体をなくした悪役令嬢は言う。貴族なんて相手のうわべしか見てないよと。よくある悪役令嬢転生モノで、ヒロインになるんだろう女の子に身体を奪われた(神が勝手に与えちゃった)悪役令嬢はその後他の身体をもらってなんだかんだ好きにする。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約者を奪われた少女は、王弟殿下に溺愛される

下菊みこと
恋愛
なんだかんだで大団円

婚約を解消したら、何故か元婚約者の家で養われることになった

下菊みこと
恋愛
気付いたら好きな人に捕まっていたお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

執着のなさそうだった男と別れて、よりを戻すだけの話。

椎茸
恋愛
伯爵ユリアナは、学園イチ人気の侯爵令息レオポルドとお付き合いをしていた。しかし、次第に、レオポルドが周囲に平等に優しいところに思うことができて、別れを決断する。 ユリアナはあっさりと別れが成立するものと思っていたが、どうやらレオポルドの様子が変で…?

処理中です...